52 / 59
ナルディル領サムスク州エギマ地区にて
3 村のキリル
しおりを挟む
ほんの指二本分ほど、裾を上げたとたん。
なんかお古の野良着が小洒落て見えた。
継ぎはぎさえ同系色のパッチワークだ!
キリルさんは、ささやかな手間賃で(現物支給がほとんどだ)古着を手直ししてくれる。
そのおかげでこのヤコン村は、近隣の村ではファッションリーダー扱いだ。
キリルさんに心酔する嫁達は、しつこい行商人や独り者を脅し上げた。
「キリルさんにちょっかい出してみなっ。
あたしら全員を敵に回すよっ‼︎」
嫁と言えば聞こえがいいが、孫までいる長老クラスもそろって、ばん!と取り囲んでいる。
農村では労働力はもちろん、飯も掃除も洗濯も。
全てが嫁に依存している。
おっさん達はすぐに白旗を上げた。
本当はわかってたんだ。
目の保養だけで充分だって。
過ぎた美人はもったいなさすぎるって。
ヤコン村は20軒ほどがくっついている、辺鄙で山奥に点在する村の一つだ。
裏に川が流れる丈夫な納屋だった家を、キリルさんは借りて改造した。
「お仕事は狩猟ですから、川も天井の高さもありがたいです」と言った時に冗談だと思っていたら。
本当に牙や毛皮を行商人に売っていた。
フォレアちゃんを産んでから、もう二年たった。
暇な年寄り(膝や腰にガタがきて畑仕事に出れなくなった)を、子供番として幾ばくかで雇い。
親の仕事に連れて行くしか無かった幼い子供達を、集会所で観て貰うようにしたのもキリルさんだった。
おかげで子供の心配が無くて畑仕事が捗っている。
年寄りも仕事を貰って生き生きしている。
罠で捕まえられない凶暴な獣も狩ってもらえるし。
キリルさんが来た事で、ヤコン村は賑わっていた。
フォレアは二歳になって動きも活発になった。
燃料が切れたみたいにパタリと眠る。
夕食中に、スプーンを持ったまま突っ伏してしまったフォレアの口元を拭い、キリルはふふふと笑った。
ガルゼがスプーンをそっと離して抱え上げる。
ガクンと頭が落ちたが、その勢いにも目を覚まさなかった。
子供ベッドはわらだとチクチクすると思い。
セコイアの新芽をたっぷり敷いて、シーツを被せている。
野原で走り回った終わりに、新芽に包まれて寝るのだ。
なんて贅沢なんだろう。
大きくなったなぁ。
ふにゃふにゃと、トカゲのようだった赤ん坊が。
みるみるうちに人になった。
その不思議さと、誰かを思い出させる青空色の目にキリルは目を細めた。
城から出て、どこに行こうか?となった時。
キリルは母上に連れて行ってもらって修行した、ナルディル領の山奥に行きたいと思った。
なまじっか学園時代を知っている者と会いたく無かった。
表向き母上はファンドール家で病死した事になっている。
ナルディル家のお祖父様もお祖母様も、母上が出奔した事は知っていて、詫びと負い目でほとんど孫に接触しては来なかった。
代替わりした事もあるどろうし。
今更名乗り出てもやっかいな事にしかならないのはわかっていたから、流浪の民のようにいるつもりだった。
山を渡っているうちに。
ヤコン村でサニタ達に出会い。
知ってる人がまるで無いことに、とても安堵してフォレアをうんだ。
そして毎日が楽しかった。
なんかお古の野良着が小洒落て見えた。
継ぎはぎさえ同系色のパッチワークだ!
キリルさんは、ささやかな手間賃で(現物支給がほとんどだ)古着を手直ししてくれる。
そのおかげでこのヤコン村は、近隣の村ではファッションリーダー扱いだ。
キリルさんに心酔する嫁達は、しつこい行商人や独り者を脅し上げた。
「キリルさんにちょっかい出してみなっ。
あたしら全員を敵に回すよっ‼︎」
嫁と言えば聞こえがいいが、孫までいる長老クラスもそろって、ばん!と取り囲んでいる。
農村では労働力はもちろん、飯も掃除も洗濯も。
全てが嫁に依存している。
おっさん達はすぐに白旗を上げた。
本当はわかってたんだ。
目の保養だけで充分だって。
過ぎた美人はもったいなさすぎるって。
ヤコン村は20軒ほどがくっついている、辺鄙で山奥に点在する村の一つだ。
裏に川が流れる丈夫な納屋だった家を、キリルさんは借りて改造した。
「お仕事は狩猟ですから、川も天井の高さもありがたいです」と言った時に冗談だと思っていたら。
本当に牙や毛皮を行商人に売っていた。
フォレアちゃんを産んでから、もう二年たった。
暇な年寄り(膝や腰にガタがきて畑仕事に出れなくなった)を、子供番として幾ばくかで雇い。
親の仕事に連れて行くしか無かった幼い子供達を、集会所で観て貰うようにしたのもキリルさんだった。
おかげで子供の心配が無くて畑仕事が捗っている。
年寄りも仕事を貰って生き生きしている。
罠で捕まえられない凶暴な獣も狩ってもらえるし。
キリルさんが来た事で、ヤコン村は賑わっていた。
フォレアは二歳になって動きも活発になった。
燃料が切れたみたいにパタリと眠る。
夕食中に、スプーンを持ったまま突っ伏してしまったフォレアの口元を拭い、キリルはふふふと笑った。
ガルゼがスプーンをそっと離して抱え上げる。
ガクンと頭が落ちたが、その勢いにも目を覚まさなかった。
子供ベッドはわらだとチクチクすると思い。
セコイアの新芽をたっぷり敷いて、シーツを被せている。
野原で走り回った終わりに、新芽に包まれて寝るのだ。
なんて贅沢なんだろう。
大きくなったなぁ。
ふにゃふにゃと、トカゲのようだった赤ん坊が。
みるみるうちに人になった。
その不思議さと、誰かを思い出させる青空色の目にキリルは目を細めた。
城から出て、どこに行こうか?となった時。
キリルは母上に連れて行ってもらって修行した、ナルディル領の山奥に行きたいと思った。
なまじっか学園時代を知っている者と会いたく無かった。
表向き母上はファンドール家で病死した事になっている。
ナルディル家のお祖父様もお祖母様も、母上が出奔した事は知っていて、詫びと負い目でほとんど孫に接触しては来なかった。
代替わりした事もあるどろうし。
今更名乗り出てもやっかいな事にしかならないのはわかっていたから、流浪の民のようにいるつもりだった。
山を渡っているうちに。
ヤコン村でサニタ達に出会い。
知ってる人がまるで無いことに、とても安堵してフォレアをうんだ。
そして毎日が楽しかった。
78
お気に入りに追加
349
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ギャルゲー主人公に狙われてます
白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
王太子殿下は悪役令息のいいなり
白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
女装令息と性癖を歪められた王子
白兪
BL
レーリアは公爵家の次男だが、普段は女装をしている。その理由は女装が似合っていて可愛いから。どの女の子よりも1番可愛い自信があったが、成長とともに限界を感じるようになる。そんなとき、聖女として現れたステラを見て諦めがつく。女装はやめよう、そう決意したのに周りは受け入れてくれなくて…。
ラブコメにする予定です。シリアス展開は考えてないです。頭を空っぽにして読んでくれると嬉しいです!相手役を変態にするので苦手な方は気をつけてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる