囚われの斎王は快楽に溺れる 竜と神話の王国

男神の眩惑

9 竜の望みは誰も知らない

　ごう！

天井が崩れていく。
そこに上昇気流がぐるぐる渦巻いて、噴き上がっていく。
小石が吸い込まれて、上へ上へと飛んでいく。

シリンの足元にも小さな旋風が踊っていた。
その風の渦が僅かづつ大きさを増していく。

「遠慮はしない。立てなくなるほど犯してやる。そのまま死んでも培養してやるからな。」

くっくっと喉の奥で笑いながら、ラグナロワは噛み付くようにシリンに被さった。

熱い舌が口腔内に入り、ぢゅ、ぢゅ、と水音が鳴る。
口の端から唾液が溢れていく。
シリンはひくんひくんと背を震わせた。
全身にどくどくと血が流れていくのがわかる。
下腹部に蕩けるように甘い痺れが広がる。

こんなときなのに……。

快感に全身が熱して震え出し、目尻から涙が溢れ出た。

襟元を鷲掴みされたまま、唇を塞がれている。

天井から石が
どごん。
どごん。
と落ちて、ぐらぐらといた土煙の中、シリンは欲情していく自分を嫌悪していた。




どん。


突然、体が揺れる。

ラグナロワに何かが当たり、紅い目が見開かれた。
自分の胸の真ん中に、硬い物が突き当たった。
弱まった腕に唇を離し、ソレを見下ろすと、そこには血を纏った剣先があった。

そう、ラグナロワの体から剣が生えていた。

ぎりぎりと震えるラグナロワの手が、シリンを突き飛ばす。
後ろに倒れ込んで見上げると、ラグナロワの腹から血塗れの剣が突き出ていた。

そして後ろにイズンがいた。


声も出せずに見守るシリンに、イズンの目が微笑んだ。
と、ラグナロワの腕が振り上げられ、イズンの体が吹っ飛ぶ。
驚愕で白くなっていた顔が、すぐに怒りで赤黒く染まった。

背中に剣のつかを生やしたまま詰め寄る。

片手でイズンを掴み上げると、その顔を覗き込んだ。

「き…さぁまぁ……」

歯を剥き出している。
その口からは血がぶくぶくと噴き出して、イズンの顔を濡らしていた。
殺気がぐるぐると大気を揺らし、刺さった剣からも血が撒き散らされる。



回復治療をしなくては……。
ぼんやりとシリンは見ていた。

怒りで我を忘れている。
致命傷になりそうなその傷は、肺を差し貫いているだろうに……。



イズンを高々と吊り上げて、ラグナロワは念入りに陣を練る。
残忍な悦びが、紅い瞳をキラキラ揺らした。
ひとおもいなんて勿体ない。
苦しんで苦しんで、殺して下さいと哭く程のものをくらわせてやる。
俺は王なのだ。

殺気の中に凶悪な陣が発動し、ぐるぐると回り始めた。