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血の護り人
11 執着は愛じゃない
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イシスの的確なイメージを受けて、何度か転移する。
転移は出口に門が無い限り、禁止される事が多い。
なぜなら出口の座標の風景を、はっきりイメージする事が難しいからだ。
漠然とした風景では無く、はっきり座標をイメージしないといけない。
そして出た時、例えば地下の岩盤に出現する事が無いように考えないといけない。
転移の空間は闇だ。
そして寒い。
光も無く音も無い。
乗っている竜の触れている感覚さえ消える。
何も無いということを知覚した時の、心も凍る寒さの中は、理性を失ってしまうほどの恐怖を覚える。
それは一瞬の筈だが、永遠に思える。
自分の叫びも、両頬に手を当てても、それを感じる事ができない。
心を殺すよう訓練した軍隊の者ならば、なんとか耐えられるが、多くの者はその空虚な空間に心を壊す。
門は、そんな闇の中に眩く光る灯台のようだ。
死の闇の中に、目標として手を差し伸べる。
ソレがあるから普通の人間は、狂わずに転移できる。
だからこそ門が作られてその間を移動する。
竜に座標イメージを求めて転移すると言う事は正直有り得ない事だった。
何度も転移空間を出入りするのは、精神的にキツい。
イシスに頼ったまま、アキラはその疲れで頭がぼうっとし始めていた。
『イタ!』
イシスの言葉にハッとする。
****
「…あ…ん。アキラ…い…い…」
啜り泣くような声が聞こえる。
よろよろと竜から降りて、アキラは立ち尽くした。
アキラの目前には、草の上で黒い大男に組み敷かれたネティが、蕩けた顔でアキラを呼んでいた。
その場にいる赤鬼竜も、イシス達も固まっている。
救うべき女王が、伴侶では無い男と睦んでいる。
攻撃対象では無いということか。
一目で阻害魔法をかけられたと悟るアキラでは無く、竜はそこまでの機微を理解出来ない。
転移で起こる次元の揺れで、ザイルは悟っていた。
右肩にネティの脚を乗せて腰を動かしたまま、顔を向ける。
右手をネティの頭の横につけたまま、左手でネティの顎を掴んだ。
ゆっくり陣を解きながら、その顎を左に向ける。
蕩けた目が、立ち尽くすアキラを捉えた。
脳が理解できず、その顔が無になる。
抜け落ちた表情が、蝋で出来た人形のように白い。
その目がぴくりと震えると、半開きの口が大きく開いた。
「あああぁぁぁぁーーーっーー」
叫びが湧き上がる。
全身を麻痺させたその叫びが後孔をぎゅっと絞り込み、痛みでザイルは放った。
「いやあぁっ!ーあぁぁーー」
放って離れたザイルの体の下で身を捩る。
団子虫のようにぎゅっと身を縮めて丸くなる。
「いやだぁ!やだあぁぁ…っ…」
髪を掻きむしりながら叫ぶ姿にアキラは踏み出し、ザイルは膝を付いて手を伸ばそうとした。
『だめダ!』
その場を差し貫くように、ラゴウの叫びが木霊した。
降り向こうとしたザイルは、巨大な顎が自分の左肩に噛み付いたのを見た。
ぶんという風をきる音が耳をつんざき、体が宙を舞っていた。
ぶちぶちという音がする。
痛みより熱が襲ってきて、撒き散らされる血の中で、どさりと砂の上に転がった。
ぽかんと見上げる上に、ラゴウがいた。
牙の覗くその口から血をだらだら垂らしながら。
ネティを庇うように立って。
痺れて痛みは来ない。
ただ自分の竜が自分を襲った事に、ついていけない。
その間にアキラはネティを抱きしめた。
震える体を抱きしめて、大丈夫。
大丈夫。と、繰り返す。
愛してるよ。大丈夫。
『あああぁぁぁぁー!ざいルぅ!』
ラゴウの慟哭が空気を揺らした。
転移は出口に門が無い限り、禁止される事が多い。
なぜなら出口の座標の風景を、はっきりイメージする事が難しいからだ。
漠然とした風景では無く、はっきり座標をイメージしないといけない。
そして出た時、例えば地下の岩盤に出現する事が無いように考えないといけない。
転移の空間は闇だ。
そして寒い。
光も無く音も無い。
乗っている竜の触れている感覚さえ消える。
何も無いということを知覚した時の、心も凍る寒さの中は、理性を失ってしまうほどの恐怖を覚える。
それは一瞬の筈だが、永遠に思える。
自分の叫びも、両頬に手を当てても、それを感じる事ができない。
心を殺すよう訓練した軍隊の者ならば、なんとか耐えられるが、多くの者はその空虚な空間に心を壊す。
門は、そんな闇の中に眩く光る灯台のようだ。
死の闇の中に、目標として手を差し伸べる。
ソレがあるから普通の人間は、狂わずに転移できる。
だからこそ門が作られてその間を移動する。
竜に座標イメージを求めて転移すると言う事は正直有り得ない事だった。
何度も転移空間を出入りするのは、精神的にキツい。
イシスに頼ったまま、アキラはその疲れで頭がぼうっとし始めていた。
『イタ!』
イシスの言葉にハッとする。
****
「…あ…ん。アキラ…い…い…」
啜り泣くような声が聞こえる。
よろよろと竜から降りて、アキラは立ち尽くした。
アキラの目前には、草の上で黒い大男に組み敷かれたネティが、蕩けた顔でアキラを呼んでいた。
その場にいる赤鬼竜も、イシス達も固まっている。
救うべき女王が、伴侶では無い男と睦んでいる。
攻撃対象では無いということか。
一目で阻害魔法をかけられたと悟るアキラでは無く、竜はそこまでの機微を理解出来ない。
転移で起こる次元の揺れで、ザイルは悟っていた。
右肩にネティの脚を乗せて腰を動かしたまま、顔を向ける。
右手をネティの頭の横につけたまま、左手でネティの顎を掴んだ。
ゆっくり陣を解きながら、その顎を左に向ける。
蕩けた目が、立ち尽くすアキラを捉えた。
脳が理解できず、その顔が無になる。
抜け落ちた表情が、蝋で出来た人形のように白い。
その目がぴくりと震えると、半開きの口が大きく開いた。
「あああぁぁぁぁーーーっーー」
叫びが湧き上がる。
全身を麻痺させたその叫びが後孔をぎゅっと絞り込み、痛みでザイルは放った。
「いやあぁっ!ーあぁぁーー」
放って離れたザイルの体の下で身を捩る。
団子虫のようにぎゅっと身を縮めて丸くなる。
「いやだぁ!やだあぁぁ…っ…」
髪を掻きむしりながら叫ぶ姿にアキラは踏み出し、ザイルは膝を付いて手を伸ばそうとした。
『だめダ!』
その場を差し貫くように、ラゴウの叫びが木霊した。
降り向こうとしたザイルは、巨大な顎が自分の左肩に噛み付いたのを見た。
ぶんという風をきる音が耳をつんざき、体が宙を舞っていた。
ぶちぶちという音がする。
痛みより熱が襲ってきて、撒き散らされる血の中で、どさりと砂の上に転がった。
ぽかんと見上げる上に、ラゴウがいた。
牙の覗くその口から血をだらだら垂らしながら。
ネティを庇うように立って。
痺れて痛みは来ない。
ただ自分の竜が自分を襲った事に、ついていけない。
その間にアキラはネティを抱きしめた。
震える体を抱きしめて、大丈夫。
大丈夫。と、繰り返す。
愛してるよ。大丈夫。
『あああぁぁぁぁー!ざいルぅ!』
ラゴウの慟哭が空気を揺らした。
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