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女神の血脈
10 ネティ 国境
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山に入ると植物層が変わった。
バーキュライトは高いカナラクニ山があるだけで、ほとんど平地と岩山だったから、こんな深い木々の山は初めてだ。
獲物も平地とは変わって、隠れ場所が多いせいか魔狼とかが見え隠れする様になった。
足弱の多い僕らは、魔物避けの張られた街道からは離れられない。
誰かが見張っている間に慌てて木ノ実を取ったりしているが、着実に食料は減っていく。
3食を2食にし、採取した薬草を多く入れたりして、大人は我慢しながら国境を目指す。
気を紛らわすように、大人が話をしてくれる。
お伽話や、街の話。
国境は街道の上では白い石で線が引かれているそうだ。
そこに帯の端でも入れば、ナカツクニに保護される。
昔、駆け落ちした恋人が、追っ手から逃れる為に風魔法で背中側を爆発させて飛び込んだそうだ。
そんな話をしながら、下を向かない様に歩く。
もうすぐだ。
あの山をこえたら国境だ。
お腹は空いていても、疲れていても、その希望だけで笑顔がでる。
『ニゲテ!』
微かな叫びがネティの頭に響いた。
びくりとして周りを見渡したが何も見えない。
でも心がドキドキして、ぶるぶる体が震えて…
「走って!」
叫んでいた。
「走って。国境まで走って!竜が来る!」
疲れている人を押し出す。
はじめぽかんとしていた人も、ネティの様子に走り出した。
もう少し。
もう少しで国境だ。
走れ。 走れ!
列の最後で警備しながら、ネティは必死で声を上げる。
ピーーーっという風切り音がした。
振り向いた目に、風魔法で強化された矢が見える。
まだ竜の姿も見えないのに、目眩しで飛ばしてきている!
とっさに風の盾を使って弾いた。
逃げてる人を護らなくては。
背後を見せれない。
完全に後ろに向き合って腰を落とす。
また矢が来る。
次々と。
「ネティ!」
テラダの声がするけれど余裕が無い。
テラダは他の人の幼児を二人抱き抱えている。
「いいから行って!僕も行くから。」
矢を弾きながら、出来るだけ速足で後退する。
弾いた矢が検問所に刺さり、兵が何か叫んでいる。
ちらっと検問所を伺うと、その向こうに数頭の赤鬼竜が見えた。
ナカツクニの兵が来てくれてる。
こっち側だと手も出せないけれど、来てくれてる。
心がぽっと熱くなる。
全員でここから逃げるんだ。
どんどんと骨を殴りつけるような地響きが近づいてくる。
もう黒い竜騎士の乗る竜が、この前の赤鬼竜だということがみえる。
さっき警告を出してくれた子だ。
でも何度呼び掛けても返事が無い。
薬を使われているのかもしれない。
次々と矢を打ってくる。
そう、殺す気だ。
逃がす気がないんだ。
あまり大きな盾は作れない。
飛んでくる矢を見ながら必死で弾く。
「民が襲われているぞ!アリアンロッドの兵は何もしないのか!」
怒号が響くが兵はオロオロするだけだ。
弾かれた矢が検問所の壁に刺さり、街道に刺さる。
その爆発音にひいっと声を上げながらも、アリアンロッドの兵は何もしない。
相手が、こっちを狙っているのが黒い竜騎士だからか、平和ボケしているからか。
ただ、ありがたいことに検問所を次々と駆け抜ける人を止めることもしない。
「ネティ、早く!」
「大丈夫。早く越えて下さい。」
集中を切らしたく無い。
じりじりと後退しながら、ネティは相手を睨みつける。
もう全身がはっきり見える。
ギラギラと睨みつける目も。
その大きな体で振り絞る弓も。
風魔法を集めて矢が鈍く光る。
向かってきた矢を弾くと爆発音がした。
「武器もない子供を狙うのがゼオライトのやり口か!」
叫びに竜騎士は口元を歪ませた。
「うるさい小僧!俺に恥をかかせたのが悪い」
「ネティ 全員越えたぞ!」
引き絞られた弓に風魔法がまとわり、ものすごい早さで来る。
それを全身で相手に向かって弾き飛ばすと同時に、ネティは駆け出した。
国境標石へ。
必死に走る。
アレだ。あの白い線。
「危ない!」
『トンデ!』
テラダの声と共に大きくスライディングしたのに、ももに焼ごてが押しつけられたようになり、風圧で転がされた。
バーキュライトは高いカナラクニ山があるだけで、ほとんど平地と岩山だったから、こんな深い木々の山は初めてだ。
獲物も平地とは変わって、隠れ場所が多いせいか魔狼とかが見え隠れする様になった。
足弱の多い僕らは、魔物避けの張られた街道からは離れられない。
誰かが見張っている間に慌てて木ノ実を取ったりしているが、着実に食料は減っていく。
3食を2食にし、採取した薬草を多く入れたりして、大人は我慢しながら国境を目指す。
気を紛らわすように、大人が話をしてくれる。
お伽話や、街の話。
国境は街道の上では白い石で線が引かれているそうだ。
そこに帯の端でも入れば、ナカツクニに保護される。
昔、駆け落ちした恋人が、追っ手から逃れる為に風魔法で背中側を爆発させて飛び込んだそうだ。
そんな話をしながら、下を向かない様に歩く。
もうすぐだ。
あの山をこえたら国境だ。
お腹は空いていても、疲れていても、その希望だけで笑顔がでる。
『ニゲテ!』
微かな叫びがネティの頭に響いた。
びくりとして周りを見渡したが何も見えない。
でも心がドキドキして、ぶるぶる体が震えて…
「走って!」
叫んでいた。
「走って。国境まで走って!竜が来る!」
疲れている人を押し出す。
はじめぽかんとしていた人も、ネティの様子に走り出した。
もう少し。
もう少しで国境だ。
走れ。 走れ!
列の最後で警備しながら、ネティは必死で声を上げる。
ピーーーっという風切り音がした。
振り向いた目に、風魔法で強化された矢が見える。
まだ竜の姿も見えないのに、目眩しで飛ばしてきている!
とっさに風の盾を使って弾いた。
逃げてる人を護らなくては。
背後を見せれない。
完全に後ろに向き合って腰を落とす。
また矢が来る。
次々と。
「ネティ!」
テラダの声がするけれど余裕が無い。
テラダは他の人の幼児を二人抱き抱えている。
「いいから行って!僕も行くから。」
矢を弾きながら、出来るだけ速足で後退する。
弾いた矢が検問所に刺さり、兵が何か叫んでいる。
ちらっと検問所を伺うと、その向こうに数頭の赤鬼竜が見えた。
ナカツクニの兵が来てくれてる。
こっち側だと手も出せないけれど、来てくれてる。
心がぽっと熱くなる。
全員でここから逃げるんだ。
どんどんと骨を殴りつけるような地響きが近づいてくる。
もう黒い竜騎士の乗る竜が、この前の赤鬼竜だということがみえる。
さっき警告を出してくれた子だ。
でも何度呼び掛けても返事が無い。
薬を使われているのかもしれない。
次々と矢を打ってくる。
そう、殺す気だ。
逃がす気がないんだ。
あまり大きな盾は作れない。
飛んでくる矢を見ながら必死で弾く。
「民が襲われているぞ!アリアンロッドの兵は何もしないのか!」
怒号が響くが兵はオロオロするだけだ。
弾かれた矢が検問所の壁に刺さり、街道に刺さる。
その爆発音にひいっと声を上げながらも、アリアンロッドの兵は何もしない。
相手が、こっちを狙っているのが黒い竜騎士だからか、平和ボケしているからか。
ただ、ありがたいことに検問所を次々と駆け抜ける人を止めることもしない。
「ネティ、早く!」
「大丈夫。早く越えて下さい。」
集中を切らしたく無い。
じりじりと後退しながら、ネティは相手を睨みつける。
もう全身がはっきり見える。
ギラギラと睨みつける目も。
その大きな体で振り絞る弓も。
風魔法を集めて矢が鈍く光る。
向かってきた矢を弾くと爆発音がした。
「武器もない子供を狙うのがゼオライトのやり口か!」
叫びに竜騎士は口元を歪ませた。
「うるさい小僧!俺に恥をかかせたのが悪い」
「ネティ 全員越えたぞ!」
引き絞られた弓に風魔法がまとわり、ものすごい早さで来る。
それを全身で相手に向かって弾き飛ばすと同時に、ネティは駆け出した。
国境標石へ。
必死に走る。
アレだ。あの白い線。
「危ない!」
『トンデ!』
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