17 / 77
17 初任務は失敗のようです。
しおりを挟む
盲滅法走って。
低い灌木に囲まれた迷路の中に、四つん這いになって入り込んだ。
しばらく後ろで呼ぶ声がしたけど、ここなら見つからないだろうし…。
厚みのある垣根の隙間に座り込むと、ほっと安堵の息を吐いた。
やってしまった。
嫌いな奴に、嫌いと言ってしまった。
もう、お茶会は出なくていいと言ってしまった。
これ幸いと、あいつは出席したりしないだろう。
膝を抱えて座る。
手にした紙片はくちゃくちゃのブロマイドで。
~~ごめんね宰相閣下。
俺、ダメだったよ。
右の頬がジンジンして、その熱さが左の瞼にも喉にも広がって、涙がぽろぽろと溢れてくる。
喉から嗚咽がぐふっぐふっと湧き上がって、もうこれまでにない程に泣いた。
誰にも見られてないから大丈夫。
もうとにかく泣いた。
なんか最近よく泣いてる気がする。
そのうち水分が無くなって、干からびちゃうんだろうか。
右頬がビリビリ痛くなってきて、くちゃくちゃなブロマイドをなんとか手で伸ばしてポケットに入れた。
冷やさないと。
明日は酷いことになっちゃうんだろうな…。
投げやりな気持ちで、膝の上に頬を擦り付けていたら、足音が聞こえた。
「どうしました?具合でも悪いのですか?」
あ、夜間巡回の人だ。
いけない。
これじゃ、不審者だ。
「何でもありません。大丈夫です。」
よれよれの涙声で答えたら、相手が近寄って来た。
だよね。
しっかりしろ、俺!
深呼吸をする。
別の隠れ家を見つけなきゃ。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
そう言って降り仰いだら、ヤルターシ様がいた。
そうか、今夜は当番だったんだ。
ジュノのえへらっとした顔を見て、ヤルターシが息を飲む。
「ちょっと待ってて下さい。いいですね。」
そう言うと踵を返して走り去った。
ああ、大ごとになっちゃうかも。
とりあえず隠れなきゃ。
でも、どこに。
後宮は……王子がまだいるかも知れないし。
恥を偲んで宰相の執務室に行くか。
仮眠所も併設されてるし。
意識を飛ばしていたら、ヤルターシが戻って来た。
そっと濡れた布を頬に当ててくれる。
ひんやりして、気持ちいい。
よっこいしょ、と。
垣根の隙間から引き抜かれ、近くの四阿に座らされた。
寝衣で薄着のジュノを、マントを脱いで包んでくれてる。
……騎士様だ。
お話しにある、正義の味方だ!
そんな優しさにほろっとなって、
どうしたの?
と言う言葉に、側妃になった事からお茶会のことまで。
はては宰相閣下のブロマイドに至るまで、洗いざらい吐いていた。
「そいつは……」
と、語尾を濁しながら、大変だったな。
よく頑張った。
と、ヤルターシは誉めてくれた。
「体も打ったんなら休んだ方がいい。
夜は物騒だから送るよ。何処に行く?」
そう聞かれると、すっかり冷静に戻ったジュノは恥ずかしさに赤くなった。
「宰相閣下の執務室へ。仮眠所に行きます。
明日朝一番に、任務を失敗した事を報告しないといけませんから。」
ヤルターシにマントごと抱き上げられて、ジュノは驚いた。
これ、世で言うお姫様抱っこでは…
恥ずかしい…
でも、打ちつけた体がどんどんぎしぎし痛くなって来て、とてもありがたい。
「頬は出来るだけ冷やして下さいね。」
ヤルターシは柔らかく言った。
そして薬を取り出した。
騎士の打ち身の薬だと言う。
「腫れは残りますが、痛みはマシになりますから。」
ああ、この抱擁力。
宰相閣下がいなかったら、惚れてしまいそうなくらい素敵です。
ジュノはありがたさにまた少し泣いた。
低い灌木に囲まれた迷路の中に、四つん這いになって入り込んだ。
しばらく後ろで呼ぶ声がしたけど、ここなら見つからないだろうし…。
厚みのある垣根の隙間に座り込むと、ほっと安堵の息を吐いた。
やってしまった。
嫌いな奴に、嫌いと言ってしまった。
もう、お茶会は出なくていいと言ってしまった。
これ幸いと、あいつは出席したりしないだろう。
膝を抱えて座る。
手にした紙片はくちゃくちゃのブロマイドで。
~~ごめんね宰相閣下。
俺、ダメだったよ。
右の頬がジンジンして、その熱さが左の瞼にも喉にも広がって、涙がぽろぽろと溢れてくる。
喉から嗚咽がぐふっぐふっと湧き上がって、もうこれまでにない程に泣いた。
誰にも見られてないから大丈夫。
もうとにかく泣いた。
なんか最近よく泣いてる気がする。
そのうち水分が無くなって、干からびちゃうんだろうか。
右頬がビリビリ痛くなってきて、くちゃくちゃなブロマイドをなんとか手で伸ばしてポケットに入れた。
冷やさないと。
明日は酷いことになっちゃうんだろうな…。
投げやりな気持ちで、膝の上に頬を擦り付けていたら、足音が聞こえた。
「どうしました?具合でも悪いのですか?」
あ、夜間巡回の人だ。
いけない。
これじゃ、不審者だ。
「何でもありません。大丈夫です。」
よれよれの涙声で答えたら、相手が近寄って来た。
だよね。
しっかりしろ、俺!
深呼吸をする。
別の隠れ家を見つけなきゃ。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
そう言って降り仰いだら、ヤルターシ様がいた。
そうか、今夜は当番だったんだ。
ジュノのえへらっとした顔を見て、ヤルターシが息を飲む。
「ちょっと待ってて下さい。いいですね。」
そう言うと踵を返して走り去った。
ああ、大ごとになっちゃうかも。
とりあえず隠れなきゃ。
でも、どこに。
後宮は……王子がまだいるかも知れないし。
恥を偲んで宰相の執務室に行くか。
仮眠所も併設されてるし。
意識を飛ばしていたら、ヤルターシが戻って来た。
そっと濡れた布を頬に当ててくれる。
ひんやりして、気持ちいい。
よっこいしょ、と。
垣根の隙間から引き抜かれ、近くの四阿に座らされた。
寝衣で薄着のジュノを、マントを脱いで包んでくれてる。
……騎士様だ。
お話しにある、正義の味方だ!
そんな優しさにほろっとなって、
どうしたの?
と言う言葉に、側妃になった事からお茶会のことまで。
はては宰相閣下のブロマイドに至るまで、洗いざらい吐いていた。
「そいつは……」
と、語尾を濁しながら、大変だったな。
よく頑張った。
と、ヤルターシは誉めてくれた。
「体も打ったんなら休んだ方がいい。
夜は物騒だから送るよ。何処に行く?」
そう聞かれると、すっかり冷静に戻ったジュノは恥ずかしさに赤くなった。
「宰相閣下の執務室へ。仮眠所に行きます。
明日朝一番に、任務を失敗した事を報告しないといけませんから。」
ヤルターシにマントごと抱き上げられて、ジュノは驚いた。
これ、世で言うお姫様抱っこでは…
恥ずかしい…
でも、打ちつけた体がどんどんぎしぎし痛くなって来て、とてもありがたい。
「頬は出来るだけ冷やして下さいね。」
ヤルターシは柔らかく言った。
そして薬を取り出した。
騎士の打ち身の薬だと言う。
「腫れは残りますが、痛みはマシになりますから。」
ああ、この抱擁力。
宰相閣下がいなかったら、惚れてしまいそうなくらい素敵です。
ジュノはありがたさにまた少し泣いた。
26
お気に入りに追加
1,765
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる