上 下
16 / 42
転んだら立ち上がる

1 リラクと恋バナ

しおりを挟む
離れの温室に設えられたテーブルに、レッツェは座っていた。
ミルクティ色の髪を緩く編んで、翡翠の目を祈る様に向けている。
怯えたように縮こまり、胸の前で両手を握ってもみもみする様子は、おこじょの様に可愛いかった。
小柄な身体は筋肉も付いて無さそうだ。
柔らかそうで嫋やかそうでとても可愛い。
リラクは、保護欲を掻き立てられた。

レッツェはリラクの替え玉として、サダムとラブラブデートしていた子だ。

その家柄。家族構成。経済状況。
果てはパン屋への支払い状況まで、デイドが調べてくれた。

密かにと呼び出したリラクに。
『リラク様を救う為に求婚した慈愛に溢れた優しいサダム様』を解放して差し上げて下さい。
と、思い詰めた目をして訴えて来た。
『僕はサダム様をお慕い申し上げまております』と。





ハンターのリラクは見逃さない。
レッツェのきっちりと一番上まで留められたレースの襟に、見え隠れしている擦過傷の青タンを。
いっちゃあ何だがロープの跡がくっきりだ。
カップをもつ細い手首の、袖口からも擦過傷がのぞいている。

いやっ‼︎虐待か⁉︎
と、思ったら。

レッツェの翡翠の目は、熱に浮かされた様にギラギラと愛を語り始めた。

……Mですかっ!

こんな純なおこじょの見た目なのに、倒錯的世界にどハマりですかっ!
ちょっとリラクは引いた。
田舎でデートは
「んじゃ、ローダベアを狩に行こう♡」
「うん♡山二つ分、一緒にいられるんだね♡」
と、おずおずもじもじ手を繋いでいくのが定番だ。
うっかりキスなんかしたら、村に張られた監視の目に見られて
「テメェら若輩者には早い‼︎」
と、叱られる。
罰で走らされると、ヒューヒュー揶揄われて。
もうにっちもさっちも、居た堪れない甘くて酸っぱい上に苦い青い春になるのだ。
そ、それが…緊縛的束縛行為(恥ずかしいので難しい言葉を使った)で愛を確かめ合うってどゆこと。

いっとくがおこじょは肉食獣。
見た目に反して獰猛な獣だ。
呼び出しで、負けないわよ!と毛を逆立てていたレッツェだったが。
あれ?なんか違うかも?と思った。


リラクはデートなる物をした事が無い。
第二王子との殺伐とした会合も。
表面は甘いサダムのガブリ寄りも。
屋敷内で従者に包囲されコントロールされた物だった。
そんな未経験への興味と、恋に生きるレッツェとの波長がピッタリ合った。
そしていつのまにか恋バナが咲いていた。

「うん。辛いよね。秘密なんてやだよね。皆んなに祝福して欲しいよね。」

「そうよね。勝手に側が盛り上がっても心は付いてけないわよね」

「駄目だよぉ。子爵だからって言っても、愛してるんでしょう!」

「うん、あの冷徹さにきゅん♡ときちゃうの。」

「うん。僕にはわからないけど…諦めちゃダメ」

「ああ、諦めたく無い!サダム様と結婚したい!」

「うん。僕も諦めたくない。結婚したく無い!」

「リラクちゃんと替われたらいいのに」

「レッツェと替われたらいいのに」

いつしか二人は潤んだ目で互いを見つめていた。
愛と葛藤と憐憫が互いの傷を舐めていく。
どちらともなく手をとって握り合った。
互いの体温が混ざっていく。

側から見ていると、二匹の小動物が手を取り合って凄く微笑ましい。
なんかなごむ…



「そんなお二人に朗報が御座います。」

盛り上がりをスパッと切って。
怪しい通販の営業のように、デイドがにっこりと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

なぜ同じ部屋になるんだ!

猫宮乾
BL
 王道学園、非王道のお話です。生徒会顧問×風紀委員会顧問。告白されて、付き合うまで。片思いのお話です。

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

転生場所は嫌われ所

あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。 ※ ※ 最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。 とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった ※ ※ そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。 彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。 16:00更新

せっかくBLゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる!

左側
BL
New プロローグよりも前。名簿・用語メモの次ページに【閑話】を載せました。    つい、発作的に載せちゃいました。 ハーレムワンダーパラダイス。 何度もやったBLゲームの世界に転生したのにモブキャラだった、隠れゲイで腐男子の元・日本人。 モブだからどうせハーレムなんかに関われないから、せめて周りのイチャイチャを見て妄想を膨らませようとするが……。 実際の世界は、知ってるゲーム情報とちょっとだけ違ってて。 ※簡単なメモ程度にキャラ一覧などを載せてみました。 ※主人公の下半身緩め。ネコはチョロめでお送りします。ご注意を。 ※タグ付けのセンスが無いので、付けるべきタグがあればお知らせください。 ※R指定は保険です。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・

相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。 といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。 しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・

続・乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~恋人になった攻略対象の溺愛が止まりません

syouki
BL
タイトル通り、前作「乙女ゲームのモブに~」の続編です。 それぞれのカップリングのイチャイチャを詰め込みましたw トラブルもありますww 一人づつ書き上げたらアップしたいと思いますので、寛大な気持ちでお待ちいただけたらと思います。 R15は念の為。 一人、5話ほどで完結予定です。 ※現実に近い物は出てきますが、あくまでも空想の世界観です。 ※ご都合主義は見逃してください。

処理中です...