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プロローグ

1 逃げる馬

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鎧を蹴り付けるように。
ハイヒールの爪先に力を込めた。

散々言われた"淑やかな横乗り"を、マスターしなくて良かった。
リラクはパニエのせいで鞍に座れない。
中腰の前傾姿勢で馬を駆っていた。

脚を広げて鞍に跨がる。
硬いパニエのおかげで、帆船の帆のように風圧を受けて。
ちっくしょう‼︎ と、耐えていた。

飛ばされないように内股に力を入れてぐっと前を向く。
リラクの魔力は低い。
しかも風の適性では無い。
だから力技だけでただただ耐えていた。


馬は速足で街道を走る。
すぐ後ろを守る様に、デイドが続く。

のんびり歩く旅人は驚いて、頭が馬の動きを追っていた。
そりゃそうだろう。
勅命や緊急事態でも無い限り、こんな走りをする奴はいない。
しかもこの馬達は新婚用の馬車に付いてたモノだ。
馬のたてがみは編み込まれて、花や宝石で飾られている。
~~つまり、二度見するほどに飾りでギンギンだ。
ぽかんと口を開けて見送る農民達から、すぐにこの馬達の噂は流れるだろう。


ウェディングドレスを交換して良かった。

叩き売れば、レースもその縫い込めた宝石も結構なお金になると思ったけど。
今の300倍は目立っていたに違いない。



三人がかりでぎゅっと締められたコルセットは、ひたすら急ぐ理由にもなっていた。
早く緩めないと死ぬ‼︎
マジ意識飛びそうだ!
しかもパニエを3枚も重ねられて。
普通の令息なら、身動き一つ出来ないだろう!


リラクは今頃アシュバートン家の教会で、サダムと結婚式を挙げてるはずだった。
そこから入れ替わって逃げてきた。


ピィッ‼︎

口笛で振り向く。
合図で人目が途切れた事を知って、脇道に駆け込んだ。
この後は目立つ馬に人形を乗せて、このまま街道を走らせる。隠していた荷物を拾って着替えたら、全然違う方向に行くんだ。
目をつけていた故買屋で、今来てる服も売っぱらう。
お貴族様のコルセットは、無駄に華美だからきっといい値が付くだろう。
『お願い。駆け落ちなんですぅ』と、涙の一つも流したらもうバッチリさ。




あはははははっ


喉から裂けんばかりの声が弾ける。
風が顔を叩きつけて。
固めてあった髪がばらけて翻る。
その毛先がぱん!と頬を叩いて目が覚めるようだ。

自由だ。
思いっきり馬を駆って。
思いっきり笑う。
もう僕は自由だ。


神父の前で永遠を誓って。
キスのためにウェディングベールをめくった時に。
サダムと、あのクッソ忌々しい第二王子がどんな顔をしたのか。
……叶うことなら、それだけは見たかったなぁ。


あはははははっ


リラクはしがらみから逃げ失せて。
大声で哄笑した。
ざまぁみやがれっ!

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