上 下
19 / 19
王宮の攻防

10 帰ってくる約束

しおりを挟む
手一つ握った事も無いけれど。(当たり前だ)
口付けした事も無いけれど。(当たり前だ)

俺たちの恋は終わった。

骨を実家に届けた時。
小さな家の壁には、よくあるブラウンの髪の子供が笑っている絵が掛かっていた。
こういう顔だったんだと感慨深くしげしげと見た。
あの美尻に比べて、しごく平凡な顔だったのに妙に納得した。

この絵の釣り書が届いても。
釣り書の山に埋もれて、選び出しはしないだろうなぁと思える平凡な顔だ。
そんな残酷な事を考えながらも。
どんな笑い方をするんだろう、とか。
一緒に歩く時は何を喋るんだろう、と考えていると。
なぜか目の前は滲んできた。

『生まれ変わります』
『急ぐから』
『好き』

そんな単語を書き散らかしながら、チャルは消えた。


ほら、俺は健康優良児。
いつだって臨戦態勢で。
いつだって出来る。
そんな自信がある訳で。

絵に描いた餅は食えない訳で。
体の健康の為にも、心の健康の為にも娼館に行く。

あっちからもこっちからも縁談と釣り書が舞い込む。
それらは全部お断りだ‼︎

ユスフは子煩悩おやぢに進化して、"家族はいいぞ"と言う。
早く忘れて結婚しろって事だよね。
そりゃいいだろうと思うけど。
俺には約束があるから。


王太子が御成婚なさって。
可愛いお子様が出来たんだけど。
おいおい。
生まれ変わって王太子の子供だったら、俺との身分も歳の差もあるから出来たら一般ピープルで生まれて来てくれよ。
と、心の中で突っ込むが当たり前だが返事は無い。
歳の差20はもう決まっているのだ。
俺ががっつり老け込む前に急いで生まれ変わって来て欲しい。

そんな事を考えて。
赤ん坊を見るたびにしげしげと見る。
もうロリコン変態の不審者だった。
そんな気持ちも時間が経つと落ち着いてきた。



ユスフが家飲みに誘ってきた。
ユスフの嫁は懐が深い。
子供は二人。
上の子はもう四歳になっている。
こっちを気遣っていたが、そろそろ落ち着いたかと声を掛けて来た様だ。

子供ってどんな土産がいいんだろう。
とりあえず菓子を見繕った。


家は緊張感が充満していた。
嫁も当人も喋らない。

イースタンの元に上の子がお盆を運んでくる。
そこには苺、葡萄、林檎がのってた。
~~飲みなのに、何故果物?

その子はユスフに似て天使の様に可愛い。
ふっくらしたほっぺに長いまつ毛をぎゅっと顰めて、ぷるぷる震えた。
なんか…既視感…?

その子の琥珀の様な目がぐっと見上げる。その小動物のような動きに、イースタンは目を見張った。

「チャル?」

喉が掠れて囁きにしかならない。
その子はふらふると小さく震え、そして眉を八の字にさげて泣いてる様に笑った。

チャル。
チャル!

イースタンは幼児を抱き上げた。
耳元で「なんかわかんなくって、言っていいのかわかんなくって。探してくれてるの聞いてたし、でも説明できなくて…」早口で焦った言葉が流れていく。

頬にちゅっと口付けをする。
何度も。
何度も。

「おいっ‼︎ それは早い!」

飛んで来たユスフの声は聞こえなかった。

手を握れるチャルがここにいる。
勿論成人までは大人のキスも出来ないが。
成人になっても、まだ好きでいてくれるのかわからないが。

チャルの琥珀が涙で揺れる。
ぎゅっと首に抱きつかれる。
くるくる回しながら、イースタンは幸せに酔いしれた。
新しい恋が今始まる。




     【 終わり 】


お読み頂きまして、ありがとうございました \(//∇//)\
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

初恋の公爵様は僕を愛していない

上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。 しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。 幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。 もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。 単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。 一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――? 愛の重い口下手攻め×病弱美人受け ※二人がただただすれ違っているだけの話 前中後編+攻め視点の四話完結です

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

女装令息と性癖を歪められた王子

白兪
BL
レーリアは公爵家の次男だが、普段は女装をしている。その理由は女装が似合っていて可愛いから。どの女の子よりも1番可愛い自信があったが、成長とともに限界を感じるようになる。そんなとき、聖女として現れたステラを見て諦めがつく。女装はやめよう、そう決意したのに周りは受け入れてくれなくて…。 ラブコメにする予定です。シリアス展開は考えてないです。頭を空っぽにして読んでくれると嬉しいです!相手役を変態にするので苦手な方は気をつけてください。

浮気されたと思い別れようとしたが相手がヤンデレだったやつ

らららららるらあ
BL
タイトルのまま。 初めて小説を完結させたので好奇心で投稿。 私が頭に描いているシチュエーションをそのまま文にしました。 pixivでも同じものを上げてます。 メンタル砂なので批判的な感想はごめんなさい:( ; ´꒳` ;):

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

大好きな幼馴染は僕の親友が欲しい

月夜の晩に
BL
平凡なオメガ、飛鳥。 ずっと片想いしてきたアルファの幼馴染・慶太は、飛鳥の親友・咲也が好きで・・。 それぞれの片想いの行方は? ◆メルマガ https://tsukiyo-novel.com/2022/02/26/magazine/

処理中です...