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王宮の攻防

8 レヴュトの行方

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気がついた時。
レヴュトはいなかった。

あの意識のままならば、医術師のクワンと遭遇して。
自分がチャルだった事を思い出してしまったのだ。
その影に触れていたユスフとイースタンも、チャルが泣き叫ぶようすを自分の事として見てしまった。

ユスフは怒りで青褪めて、拳を震わせていた。
イースタンは自分を思う心に、途方に暮れた。
切なくて苦しくて、何も言葉が出なかった。

重い頭を振立てながら、二人は四阿を探した。
ただの夢だったと否定したくて、真剣に探した。
六角形のものは王宮では三箇所。
その内薔薇のある物へと急ぐ。
そして、まさしく、見たあれのままに。
書面は隠されていた。

王太子の命の元、すぐにクワンを拘束する。
王妃や協力者に繋ぎを取る前に、牢へ突き入れた。

あのチャルの意識を見た今。
ユスフもイースタンもクワンへの攻めは拷問に近かった。
イースタンはチャルの遺体の在処をただ尋ねた。


レヴュトは幽霊だ。
それをわかっていた。
わかってるつもりだった。
それがあんなに苦しんで、痛がって、泣いてたなんて。
それもこんな俺の為に我慢して、頑張っていたなんて。
俺の為に生きるのを諦めたなんて。

チャルが俺の元に現れたのはわかった。
逢いたい。そうおもってくれたからだ。

しりだけが見えていたのは…
尻だけが無事だったからだ。
クワンは「折角の人体だから、部位ごとの実験をした。」と、言った。
イースタンのほとんど狂気の殺気を浴びせられて、支離滅裂になりかけた言葉を纏めると…
「途中から喚かなくなったから、死んだんだと思う」
イースタンだけじゃなく、ユスフも。
苦しいのが早く終わって楽になれたら良かった。と、祈るように思った。


王太子は、屋敷に帰れと半ば強制的にイースタンを帰らせた。
クワンの逮捕。
毒物の特定。
そして証拠の書面。
侍従も騎士も文官も働いた。
あとは王妃の帰城を待つだけだ。

レヴュトは、いやチャルは。
初めて会ったコンサバトリーに逃げ帰っているかも知れない。
このまま昇天してしまったら、悔やんでも悔やみきれない。
心はふわふわと落ち着かず。
イースタンは馬に鞭まで入れて屋敷に帰った。


チャルは隅で震えていた。
暗いところでふるふるとちいさくなっている。
しゃがんでいるのか、泣いているのか…

「チャル。ありがとう。」

済まないでは無い。
俺の事ばかり考えたチャルに言うのは、ありがとうだ。
自分よりも人を守ろうとしたチャル。
そんなチャルが痛かったなんて…
イースタンの涙が止まらない。

肩を揺らして。
ぽたぽたと落ちる雫に、チャルはぷるぷるした。


「LOVE」

ウィジャボードが告げた。
それはlikeの好きじゃなくて、愛してるの好きだ。
そうだな。
チャルはそうだな。
そして、俺だって。

「好きだ。」

チャルがふわりとイースタンに抱きついた。
いや、抱きついて来たというより、影が纏わって来た。
こんなに好きなのに、抱き合えない。
その身体はひんやりと涼しい。

チャルの身体が発見されるまで。
ひたすらイースタンとチャルはコンサバトリーにいた。

『生まれ変わってくる』
「待ってる」

『急ぐ』
「そうしてくれ」

『好き』
「俺も好きだ」

雨垂れのような言葉を紡いで、二人はいた。
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