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子供は宝と言うけどね

1 取り残された僕

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強張っていた父様の手が、柔らかくなって来た。
ぐにゃりと冷たくて凶々しい。

わかってる。
父様は死んだ。
この手はもう動かない。
僕の頭を撫でてはくれないのだ。

せめて顔が穏やかなのが、ホワンは嬉しかった。
最近は何も口にしようとしなかった。
痛そうな、苦しそうな顔はもう無い。

なんでだろう。
生きてないって言うだけで、こんなによそよそしいなんて。

やつれても微笑んでいるような深い皺を見上げながら、ホワンはとろとろと意識を手放した。
頭の隅で鶏に餌をあげなきゃ、とか
仕事さぼってマスター怒っているかな、とか考えたけど。
もうどうでもいいや。と吐き出した。
鶏は庭から出て野原に行っちゃうだろうけど。
仕事しないとパンが買えなくなるけれど。
もう、どうでもいいや。

父様が死んだ。
母様に頼まれていたのに、父様が死んだ。
もうこの地上で僕は独りぼっちだ。

もう何もしたくない。
もうどうでもいい。
のふのふと時折り覚める意識の中で、ホワンは再び沈んでいく。

どうせなら連れて行って。
置いてかないで。
一緒に連れて行って。
僕はもういい




どこん。


大きな音が扉を噴き上げた。
不格好に乗っていた屋根のスレートが、反動で飛び散る音がする。
鍵と蝶番を破壊されて、一枚板になった扉が床に倒れて埃を舞い上げた。

「うおっ!」
「くっせぇ。窓開けろっ‼︎」

そんな野太い声を、ホワンは閉じた意識の中で聞いていた。

「あっ!発見しました!」
「待てっ、口元を覆えっ!腐乱が始まってる」
「早く防腐シートを広げろ、そこにお移しする」

扉が無くなって外からの光が広がった。
舞い上がる埃がキラキラする中で、黒い人影がちらちらする。

掴まっていた父様から引き剥がされた事で、ホワンは目醒めた。
知らない男達が、死体をシーツで包み込んで持ち上げる。
広げたシートに横たえるので、ホワンは焦って叫ぼうとした。

「~~~~~~」喉が掠れて声が出ない。
何日眠っていたのか力が入らない。
必死で頭を持ち上げて、倒れながら近くの男に縋った。

ホワンに縋られて男は驚いてひいっと叫んだ。

「た、隊長!子供がいます‼︎」
「はあっ⁉︎」

わさわさと人影が動く。
ホワンはぐいとひっくり返され、少し頭を持ち上げられた。

「水をよこせ!」
「君。君は誰だ⁉︎」
「いつからここにいた。」

大声が吹き荒れる嵐の中でホワンの唇に水筒が当たる。
否応なく入ってきた水は、塞がった喉にぼこんと固まって、ぐえっと咳き込ませたがその水分は頬肉や舌にじゅっと沁み込む。

「連れてかないで。父様を連れてかないで」

必死で叫んだが、ただの弱々しい息漏れにしかなってない。
男の人は膝をついてホワンの口元に耳を寄せた。
言葉を聞き取ると「父様ぁ?」と頓狂な声を上げた。
その声に男達に動揺が走る。

「お子様がいらっしゃったのか⁉︎」
「まさか‼︎」

「どうする?ご遺体の回収しか命じられて無いぞ」
「いや、こんな幼いお子様はありえないだろうが!」
「そうだよ。孤児を引き取って世話をさせてたんじゃないか」
「どうする…」

連れ帰っていいものか。

動揺でおろおろする男達の後ろから
「その子は確かにオルフォンス様のお子様だ」

声がした。
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