上 下
14 / 14
結婚への道  レイト

7 行き着くとこに行っちゃった訳

しおりを挟む
レイトのぐらつきを見とって、クレスト兄様はテーブルの上に地図を広げた。

「婿殿はこのたびグランハルトを拝領なさる。
今なら好きな所を選べるからね。」

王国の北側のグランハルトは公爵領だ。
端っこに稜線と湖がある。
あ、ここ絵本でも有名な妖精伝説のタニーア湖畔だ。
そんなレイトの視線は丸わかりの見え見えで、クレストはずばんと指差した。
その湖畔には避暑地として山荘の絵が書いてある。

「ここなら人も少ないし妖精も野良でフラフラしてるだろう。
この土地を頂くと契約すれば後はのんびりゆったりだねぇ。」

うん。そうかも。
それ、いいかもしれない。

そんなぐらついて横倒しになった心を立ち直す暇も与えず、呼び鈴が押された。
きゃーと待ちかねた母様が雪崩れ込んできて淑女らしからぬヒールでぴょんぴょんしてレイトに飛び付いてきた。

「お嫁さんなのねっ!結婚式なのねっ!
いやぁん、デザインを決めなくちゃあ‼︎」

「母様、明日契約書にサインしますが、先方の都合で多分結婚式は一週間後です。
すみませんが時間はあまり御座いません。」

え?
"うん"はそうだねの"うん"であって、了承の"うん"じゃ無いんですけど。

「何ですって、一週間⁉︎そんな馬鹿な!」

そうです母様。
言ってやって下さい。
そんなわけのわからんちんで末っ子を売り飛ばすのかって言ってやって下さい。

「一週間じゃ素敵なお衣装が出来ないわっ
ベールも領地から持って来れないじゃないのっ!
あのウェディングベールは代々引き継いできた幸せのベールなのよっ!」

なんか違う。
それでもいい。物言いをつけてくれ



「待ちなさいシャリーン。ベールはあるよ」

おっと。トランク片手に父様が乱入だ。

もあろうかと、持ってきてたんだよ。」

トランクの中には、引きずる事推定30メートルの雲のように美しいウェディングベールがあった。
ちょっと待て。
ってナニ⁉︎

「今でも目に浮かぶよ。花嫁の君は女神の様だった」
「あなたこそまるで王子様のようでしたわ。跪かれてどんなにときめいたか。
わたくしのドキドキが聴こえたらと震えてましたのよぉ」
「今でも綺麗だよシャリーン」
「あなたも素敵よぉ」
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

あかん。二人の世界に突入してる。
いや、ほんと待って。
領地出る時から決まってたの?

リアルドナドナにレイトは震えた。

一週間って何でそんなに切羽詰まってるの。
なんてこんなに推してくるの。
クレスト兄様、自分は結婚まだなのにどうして逃げ道埋めてくるの!


オロオロするレイトは、コツコツと窓を突く音に気がついた。
鳥。
伝書鳥!
慌てて窓を開けると、バサバサとクレスト兄様に飛んでいく。

色は野バトと同じ青みがかった灰色。
マル秘や緊急では無い。
クレストはすぐに魔力を流した。


「有給休暇中に申し訳御座いませぇん」

裏返った中年の声が流れた。

「クレスト様の休暇中に、長官は真面目にEDの魔道具を改良されまして『今日も元気に勃ったくん』を4号まで作られました。もう商業ギルドに渡せるまでになったと思って職員一同目を離してしまいました。
そしたら昨夜抜け出して泥酔なさったようで、今朝になって警らに捕獲されて帰って来て『ねぇゲロって見かけと臭いが悪いよね』と言い出したんですぅ」

レイトの頭の中にストレスで薄毛になった中年がオロオロする姿が浮かんだ。

「『口からキラキラくん』を作るよっ!と宣言されましてぇ。
職員は王都を巡って吐瀉物を採集させられています。
研究所は目に染みる臭いで溢れて、もぉもぉ大変なんですう。
お願いです‼︎長官を止めてください!
もう、クレスト様だけが頼りなんですう」

その後、鳥からは録音が切れるまで嗚咽が続いた。

クレスト兄様の眉間にマリアナ海溝よりも深い一本皺が縦に完成した。

「明日は一人で行けるかな?」

え、今から行って始まる説教が明日をも蹂躙するってことですかぁ?

クレスト兄様の笑顔の圧に頷いてしまったレイトだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

裏切られた腹いせで自殺しようとしたのに隣国の王子に溺愛されてるの、なぁぜなぁぜ?

柴傘
BL
「俺の新しい婚約者は、フランシスだ」 輝かしい美貌を振りまきながら堂々と宣言する彼は、僕の恋人。その隣には、彼とはまた違う美しさを持つ青年が立っていた。 あぁやっぱり、僕は捨てられたんだ。分かってはいたけど、やっぱり心はずきりと痛む。 今でもやっぱり君が好き。だから、僕の所為で一生苦しんでね。 挨拶周りのとき、僕は彼の目の前で毒を飲み血を吐いた。薄れ行く意識の中で、彼の怯えた顔がはっきりと見える。 ざまぁみろ、君が僕を殺したんだ。ふふ、だぁいすきだよ。 「アレックス…!」 最後に聞こえてきた声は、見知らぬ誰かのものだった。 スパダリ溺愛攻め×死にたがり不憫受け 最初だけ暗めだけど中盤からただのラブコメ、シリアス要素ほぼ皆無。 誰でも妊娠できる世界、頭よわよわハピエン万歳。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) https://x.com/__oc_t?s=21&t=FAViQBd96DmYN66_-4AnXw ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

処理中です...