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第11話
しおりを挟む完全に、相手の過失による事故だった。颯汰の母親は、病院から電話を受けて驚愕し、急いで病院に向かう。しかも、そこは悠雅が入院している病院だった。
少し待つように言われて、嫌な予感に心臓を潰されそうになりながら待っていると手術室から人が出てきた。
「先生っ!あのっ、息子は、私の息子は…」
医師は一瞬、言葉に詰まる。重そうに口を開いた。
「最善を尽くしましたが…息子さんは今、脳死状態です。命は取り留めましたが、今後、意識を取り戻すことはないかと…」
そこでいったん言葉を切って、頭を下げる。
「申し訳ありません」
颯汰の母親は、膝の力が抜けて、椅子に座り込んだ。
「そんな…そんなことって…あの子はまだ十二歳なのに」
そこまで言って、泣き崩れた。少し落ち着くと、看護師が病室に通してくれた。機械音だけが響いている。颯汰の母親はまた涙が溢れて、そのまま眠ってしまった。
次の日の午後、颯汰の父親も仕事を休んで一緒に医師から詳しい説明をうけた。
「朝にも検査をしましたが、脳死で間違いないと思います。この状態だと、長くは持ちません。長くて三日です」
「そんな…」
「知っていてほしいことがあります。臓器提供について、です」
颯汰の母親は顔を上げた。悠雅の顔が浮かんだからだ。そこから、臓器提供についても詳しい説明をうけ、「後はお二人でよく話し合われて下さい」と言って医師が部屋を出ていく。
長い長い沈黙の後、母親が口を開いた。
「颯汰ね、心臓の病気にかかっている友達がいるのよ。しかも、臓器提供が必要なくらい重い病気の」
父親は、黙って耳を傾ける。
「だから、臓器提供した方が颯汰の気持ちに寄り添えるかなって」
「でも、それが颯汰の希望とは限らないだろ。俺は、息子を殺したくない。だって、まだ生きてるのに…」
また長い沈黙が訪れる。そうして時間は流れ、医師に話し合いの結論を伝えたのは次の日だった。
「臓器提供を、しようと思います…」
医師は、深々と頭を下げる。
「よく決断してくださいました。これで、何人かの命を救うことができます。本当に、ありがとうございます」
父親が口を開く。
「ただ一つだけ、お願いがあります」
「何でしょうか?」
「心臓の提供は、この病院に入院している安瀬悠雅くんにして頂きたいのです」
医師は頷いた。
「掛け合ってみます」
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