【完結】幸せの嘘

チンアナゴ🐬

文字の大きさ
上 下
8 / 13

第8話

しおりを挟む

「こんにちは」

「あら、颯汰くんまた来てくれたの?」

「うん。これから毎日来ようと思ってるんだけど、いいかな?」

「私も悠雅も構わないけど…颯汰くんが大変じゃない?」

「僕は大丈夫だよ!あと、友達もお見舞いに来たいって言ってるんだけど、いい?」

「友達って、海くんとか、奏斗くんとか?」

「そうそう!」

「それなら悠雅も喜ぶわ。本当にありがとうね、颯汰くん」

「早く元気になってほしいから!」

 颯汰がそう言うと、悠雅の母親が一瞬悲しそうな顔をした。

「…どうしたの?」

「実は…悠雅の心臓の病気、移植しないといけないらしくて…」

「移植…?」

「他の人の心臓を悠雅の心臓と取り換えなきゃいけないの。心臓を取り換えてくれる人をドナーって言うんだけど、ドナーがずっと見つからなかったらずっと病院にいなきゃいけないし、最悪、見つかるより早くに…」

 そこで悠雅の母親は口を閉じる。颯汰は無意識に身震いした。

「ついこの間まで、普通に遊んでいたのに…なんで?なんで悠雅なの?悠雅、なんにも悪いことしてないじゃん…」

 颯汰は耐え切れずに俯いて、唇を噛んだ。悠雅の母親の、鼻をすする音が聞こえる。

「やっぱり、今日は帰るね。こんな気持ちで悠雅に会っても悠雅を不安にさせるだけだし」

「…分かった。ありがとう。気をつけて帰ってね」

「うん」

 こうして颯汰は病院をあとにした。




 次の日学校へ行くと、健悟たちが待っていた。

「颯汰!聞いてくれた?」

「うん。聞いたよ」

「どうだった?」

「…心臓を、移植しなきゃいけないんだって…」

「え?移植って、あれだよね?他の人と心臓を入れ替えるやつ…」

「うん…」

 3人が、口を開けたまま固まっている。

「ど、どうしよう…どうしたらいいんだろ…」

「分かんない…」

 海が悩みに悩んで、案を出した。

「昼休みに図書室の先生に聞いてみない?」

「そうだね…それしかないかも」

 ちょうどよく、五分前のチャイムが鳴る。颯汰たちは一度目を合わせてから、それぞれの席についた。どうしたらいいのか答えが出ないまま、昼休みになった。

「よし、行くぞ!」

 颯汰たちはまた、教室を飛び出す。図書室に着くと、急いで靴を脱いで、カウンターを見る。

「先生!」

「こんにちは。何か分かった?」

「うん!悠雅は心臓の病気で、移植しなきゃいけないんだって…」

 奏斗は威勢よく話し出したが、段々と声が小さくなり、遂に黙ってしまった。見かねた健悟が助け舟を出す。

「だからさ、先生。俺たちにもできる事ないかな?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ことりの台所

如月つばさ
ライト文芸
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 オフィスビル街に佇む昔ながらの弁当屋に勤める森野ことりは、母の住む津久茂島に引っ越すことになる。 そして、ある出来事から古民家を改修し、店を始めるのだが――。 店の名は「ことりの台所」 目印は、大きなケヤキの木と、青い鳥が羽ばたく看板。 悩みや様々な思いを抱きながらも、ことりはこの島でやっていけるのだろうか。 ※実在の島をモデルにしたフィクションです。 人物・建物・名称・詳細等は事実と異なります

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   

設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

私にとっては、それだけで

吉華(きっか)
ライト文芸
 とある伯爵と後妻である商人の娘との間に生まれたシャルロットは、小さい頃から変わらずに前妻である貴族の娘を母に持つ腹違いの姉を姉として慕っている。しかし、姉を姉と慕い仲良くすれば痛めつけられるのは姉の方。それ故に、表立っては姉に辛辣な態度を取っていた。  そんな中、姉の結婚が近づいてくる。しかし、姉の結婚相手は悪い噂しかない放蕩王子。  姉を守りたかった不器用な妹は、自分の方が王子に相応しいから自分の方を嫁がせろと父に願い出た。   *****  これは、大事な人を守りたかった女の子が頑張って頑張って努力して、報われる話。

灰かぶり姫の落とした靴は

佐竹りふれ
ライト文芸
中谷茉里は、あまりにも優柔不断すぎて自分では物事を決められず、アプリに頼ってばかりいた。 親友の彩可から新しい恋を見つけるようにと焚きつけられても、過去の恋愛からその気にはなれずにいた。 職場の先輩社員である菊地玄也に惹かれつつも、その先には進めない。 そんな矢先、先輩に頼まれて仕方なく参加した合コンの店先で、末田皓人と運命的な出会いを果たす。 茉里の優柔不断さをすぐに受け入れてくれた彼と、茉里の関係はすぐに縮まっていく。すべてが順調に思えていたが、彼の本心を分かりきれず、茉里はモヤモヤを抱える。悩む茉里を菊地は気にかけてくれていて、だんだんと二人の距離も縮まっていき……。 茉里と末田、そして菊地の関係は、彼女が予想していなかった展開を迎える。 第1回ピッコマノベルズ大賞の落選作品に加筆修正を加えた作品となります。

So long! さようなら!  

設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して 気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。 そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング おまけに聡明さも兼ね備えています。 なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって 遥の元からいなくなってしまいます。 理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を 応援しつつ読んでいただければ、幸いです。 *・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o ❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...