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第七部
第58話「幼馴染は、私と外に出掛けたいらしい②」
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「それに、こんな微妙な空気の中で本読んでたって仕方ない。本を読むって、想像力を働かせるってことでもあるからさ、こんなんで働くわけないし」
「意外なこと言うんだね。もっとこう……腹が立つのかぁとか思ってた」
「逆に何でそうなる。絶不調なんて日によって様々だし、僕にだってそれはある。異世界転生した主人公じゃないんだしさ」
「さては最近そういう系のアニメ見たな?」
「……書店に、デカデカと宣伝してあったから、気になって見たら案外ハマった」
「宣伝効果恐ろしいねぇ。こんなオタクの心さえ掴むとは」
「いや、寧ろオタクだからじゃないか? アニメ好きっていう肩書きがあれば、そいつはもうオタクだろ。アイドルとかと一緒。ハマればそれはファン。……みたいな感じ」
「え、晴斗ってそういうの見るの……?」
「何で引いてんだよ。──見てねぇって!」
いつの間にか趣旨が傾いていたものの、私と晴斗の間の淀んだ空気は少しずつ解消されているような気がした。
私達は一通りのやり取りを終えると、再びそのノリのまま読書を始めた。先程のような重苦しい空気は一変され、読書をする手も目も頭もスムーズに運ぶ。
とはいえ、まだ全部じゃない。
私以上の読書家である晴斗がラノベを読むスピードに勢いが乗っていないのだから、私がこの空間で過ごすというのはさすがに無理がありすぎると思う。
「……戻らない?」
「今日は読書会中止かもな。……こんなこと、初めてだ」
「スランプみたいなものかな?」
「そうだとしたら1ページも捲れてないと思う。でも、10分で5ページは捲れてる」
「十分のペースだと思うよ、それ」
一体、晴斗は1日でどれぐらいのページ数を読んでいるんだろうか。ざっと500はいってそうではある。完全なる偏見ではあるんだけども。
私も晴斗のようなペースでは読めないけれど、読める日は300ページほど読んでいる。
けど、それで晴斗に勝ってる気がしないんだよね……不思議。
「だったら別なことでもする? テレビ見るとか、勉強とか」
「さっきだって勉強してただろ」
「あれはほとんど優衣ちゃんの勉強だし、私は教えるって役目があるから勉強はしてないよ。だから、全然平気!」
「どっから来るんだよ、その体力。……っていうか、勉強は暇潰しにやるもんじゃないだろ、頭使うんだし。感覚がズレてきてるんじゃないか?」
だとしたら絶対晴斗のせいだと思う。
晴斗の隣に並んでいたいから──だから勉学も手を抜かない。いつしか晴斗を追い抜かして、晴斗に勉強をさせたい!
何気に私は中学以降、学校以外の場所で晴斗が勉強しているところを見たことがない。
おそらく授業中に覚えているんだろうけど。実際に私の横で勉強してるってところを見てみたいと思うのは、嘘じゃない。
「──じゃあ、散歩にでも行くか?」
「うん。……………………………うん?」
……ちょっと待ってください。
私の聞き間違いとかじゃなければ、今――晴斗が自分から『散歩に行く』って言いませんでしたか!?
……えっ!? 嘘でしょ!?
あの読書家で休日は絶対に家の外から出たくないともがき続けて15年の晴斗が…………自分から、散歩──っ!?
「おい。今すっごい失礼なこと考えなかったか?」
「き、気のせいです……」
私は鋭い目つきで射貫いてくる感覚に耐え切れず、すぐさま晴斗から視線を逸らす。
お、思わず驚きすぎてしまった……。いや、でもあそこまでなったって、何の不思議もない。何故なら、晴斗がそういう人だから。それだけの理由で片付いてしまう。
今までだったら在り得ないようなことを突然言われればそりゃあこうなる。それが世の摂理というもの。──腰が抜けそうだった……っ!
晴斗は私があからさまに目線を逸らしたことにより、盛大なため息を吐いた。
「……まぁいいや。とりあえず、その辺ぶらぶらするか。その間にさっき躊躇ったやつ吐き出せるようにしとけよ?」
「だから何にも無いってば!!」
……本音を言えば、言いたいことはたくさんある。文句だったり愚痴だったり。
けれどそれを言っても、晴斗は答えてくれない。──ただの勘でしかない。……ない、けれど。15年間も一緒に過ごしてきて何もわからないほど、私は鈍くない。
幼馴染だからって、何もかもを知り尽くしているわけじゃないのに……何でも言い合えるような仲でもないのに。……何で、こんなにも期待しているのだろう。
晴斗の方から『隠し事』を打ち明けて欲しい、とそう願っている私がいる。
汲み取ってほしいと。何故か思ってしまうのだ。
……叶うわけがないのに。読みであったり、勉学であっても。
私が晴斗に勝てたことなんて、過去に一度たりともないというのに──。
「意外なこと言うんだね。もっとこう……腹が立つのかぁとか思ってた」
「逆に何でそうなる。絶不調なんて日によって様々だし、僕にだってそれはある。異世界転生した主人公じゃないんだしさ」
「さては最近そういう系のアニメ見たな?」
「……書店に、デカデカと宣伝してあったから、気になって見たら案外ハマった」
「宣伝効果恐ろしいねぇ。こんなオタクの心さえ掴むとは」
「いや、寧ろオタクだからじゃないか? アニメ好きっていう肩書きがあれば、そいつはもうオタクだろ。アイドルとかと一緒。ハマればそれはファン。……みたいな感じ」
「え、晴斗ってそういうの見るの……?」
「何で引いてんだよ。──見てねぇって!」
いつの間にか趣旨が傾いていたものの、私と晴斗の間の淀んだ空気は少しずつ解消されているような気がした。
私達は一通りのやり取りを終えると、再びそのノリのまま読書を始めた。先程のような重苦しい空気は一変され、読書をする手も目も頭もスムーズに運ぶ。
とはいえ、まだ全部じゃない。
私以上の読書家である晴斗がラノベを読むスピードに勢いが乗っていないのだから、私がこの空間で過ごすというのはさすがに無理がありすぎると思う。
「……戻らない?」
「今日は読書会中止かもな。……こんなこと、初めてだ」
「スランプみたいなものかな?」
「そうだとしたら1ページも捲れてないと思う。でも、10分で5ページは捲れてる」
「十分のペースだと思うよ、それ」
一体、晴斗は1日でどれぐらいのページ数を読んでいるんだろうか。ざっと500はいってそうではある。完全なる偏見ではあるんだけども。
私も晴斗のようなペースでは読めないけれど、読める日は300ページほど読んでいる。
けど、それで晴斗に勝ってる気がしないんだよね……不思議。
「だったら別なことでもする? テレビ見るとか、勉強とか」
「さっきだって勉強してただろ」
「あれはほとんど優衣ちゃんの勉強だし、私は教えるって役目があるから勉強はしてないよ。だから、全然平気!」
「どっから来るんだよ、その体力。……っていうか、勉強は暇潰しにやるもんじゃないだろ、頭使うんだし。感覚がズレてきてるんじゃないか?」
だとしたら絶対晴斗のせいだと思う。
晴斗の隣に並んでいたいから──だから勉学も手を抜かない。いつしか晴斗を追い抜かして、晴斗に勉強をさせたい!
何気に私は中学以降、学校以外の場所で晴斗が勉強しているところを見たことがない。
おそらく授業中に覚えているんだろうけど。実際に私の横で勉強してるってところを見てみたいと思うのは、嘘じゃない。
「──じゃあ、散歩にでも行くか?」
「うん。……………………………うん?」
……ちょっと待ってください。
私の聞き間違いとかじゃなければ、今――晴斗が自分から『散歩に行く』って言いませんでしたか!?
……えっ!? 嘘でしょ!?
あの読書家で休日は絶対に家の外から出たくないともがき続けて15年の晴斗が…………自分から、散歩──っ!?
「おい。今すっごい失礼なこと考えなかったか?」
「き、気のせいです……」
私は鋭い目つきで射貫いてくる感覚に耐え切れず、すぐさま晴斗から視線を逸らす。
お、思わず驚きすぎてしまった……。いや、でもあそこまでなったって、何の不思議もない。何故なら、晴斗がそういう人だから。それだけの理由で片付いてしまう。
今までだったら在り得ないようなことを突然言われればそりゃあこうなる。それが世の摂理というもの。──腰が抜けそうだった……っ!
晴斗は私があからさまに目線を逸らしたことにより、盛大なため息を吐いた。
「……まぁいいや。とりあえず、その辺ぶらぶらするか。その間にさっき躊躇ったやつ吐き出せるようにしとけよ?」
「だから何にも無いってば!!」
……本音を言えば、言いたいことはたくさんある。文句だったり愚痴だったり。
けれどそれを言っても、晴斗は答えてくれない。──ただの勘でしかない。……ない、けれど。15年間も一緒に過ごしてきて何もわからないほど、私は鈍くない。
幼馴染だからって、何もかもを知り尽くしているわけじゃないのに……何でも言い合えるような仲でもないのに。……何で、こんなにも期待しているのだろう。
晴斗の方から『隠し事』を打ち明けて欲しい、とそう願っている私がいる。
汲み取ってほしいと。何故か思ってしまうのだ。
……叶うわけがないのに。読みであったり、勉学であっても。
私が晴斗に勝てたことなんて、過去に一度たりともないというのに──。
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