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第六部

第44話「幼馴染と、本屋にラノベを買いに行く②」

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「ふぅ。うん、気に入った! これにする!」

「…………そっか」

「それにしても、ラノベって持ちやすいんだね。これだったら、鞄とかに2冊か3冊ぐらい入れてても平気そう!」

「……1日でそんなに読む気か? いくら僕でも深夜帯覚悟だぞ」

「いっつも深夜じゃない。寝てるの」

「……何で知ってんだよ」

「忘れたの? 私と晴斗の部屋、離れてはいるけれど真隣じゃない」

「……そういえばそうだったっけ」

「酷い! 肝心なこと忘れないでよ!」

 別にそこまで重要視するような情報でもなくないか?
 と、そんなことを思ったが、こいつにとっては僕が思うよりも重要なことなのかもしれない。──何せ、一度は告白した『幼馴染』だから。

「もう! 晴斗だって、普通に2・3冊ぐらい持ってきてるんじゃないの? 見る度に、寝てるか本読んでるかだし」

「学生らしいところは何も無し、と。でも、そこまで詰めてはない。精々、1日に1冊半って感じだ。あまり一気に読んでも仕方ないしな」

「ふーん。そうなんだ」

「だからお前も、あんま無茶するような方向へは行かない方がいいぞ」

「そこは、あれだよ! 気合いと根性で!」

「精神論やめろ。そんなのは僕に通用しない」

 和気藹々と振る舞う彼女を目で追うが、先程のような凛々りりしさはどこにも感じられない。
 普通の女子高生のように、元気で、陽キャな幼馴染。

 僕がよく知っている──一之瀬渚だ。

 そして渚は、オススメした1巻から3巻までを棚から抜き出して、そのままの勢いで僕の手を握り込んできた。

「……っ!!」

 ふわっとした、柔らかい感触があった。
 ……何なんだ、これ?

「ほらっ! 買うんだから早く並ぼ!」

「あ、あぁ……」

 未知な感覚に違和感を抱きつつも、僕は目当てだった新刊2冊を手に渚の後ろに並んだ。
 学園青春モノと異世界ファンタジーモノを1冊ずつ。どちらとも、新作だ。

 公式ページを閲覧した限り、王道作品のようだったがそれでいい。王道は少し躊躇う人もいるかもしれないが、王道だからこそいいものがあると僕は思う。

 一方渚は、先程の3冊とプラスで、見たことがない作品を手に取っていた。

「……なぁ。もう1冊の方、さっきは持ってなかったよな。新刊か?」

「あぁー、これ? ……少し、気になっててさ。読んでみようと思って」

 見る限り文庫本、じゃない。単行本だと思うが、どういった作品なんだろうか。
 こいつが興味を持ったってことは……やっぱり、ミステリーものか?

「ふぅん……」

「……何その適当な返し方。もうちょっと興味持ってくれてもよくない?」

「お前が買いそうなものなんて、大体検討がつく」

「ふーーん。じゃあ、当ててみて?」

「……確か今月に、有名なミステリー作家が送る単行本の新刊が出るらしいな。何も、一度ベストセラーを取った作者が書く、新しいミステリーもの。一般小説、それもミステリー好きな渚なら、手を伸ばしそうではあるよな?」

「な、何でそんなこと知って──」

「今月の新刊の話をしたとき、喋ってただろ。それも大声で」

「~~~~~~~っ!?」

 墓穴掘ったな。でもこれは、僕は何もしていない。自分の発言を見直しもせず言及してきた渚に責任があると思う。

「……恥ずい」

「だな。だいぶ恥ずかしかったな」

「……そういうこと言うの、本当……昔から意地悪だよね。……まぁそれがいいんだけどさぁ──……」

「………………」

 最後の方、余計な言葉というか、今の僕にとってはちょっとダメージがありそうなこと言いませんでしたか?

 そんなこんなで時間は刻々と過ぎ、本屋を出る頃には既に日は暮れ始めていた。立ち読みプラス選ぶ時間なんかも加えたお陰で、現在午後の5時半過ぎ。

「やばっ! もうこんな時間!」

 スマホで時間を確認した渚は焦り気味にそう言った。

「そりゃあ誰かさんが第1章読み終わるまで、ずーっと立ち読み決め込んでたからでしょ」

「……すみませんでした! あぁでもどうしよ……今からご飯作るのもなぁ」

 顎に手を当てながら渚は「うぅ~ん……」と唸り始めた。
 しかし──渚が答えを導き出す前に、僕は『仕方ない』と呆れ込み、ふと一息吐いた。
 そして、その言葉を割り出した。

「今日、ウチ泊まるか? お前もそれ、読みたくてしょうがないんだろ?」

「………………えっ?」

「何だその反応」

「い、いや……その。……気にしてないの?」

「何が?」

「だ、だから──私が前に晴斗の部屋入ったときにしたことよ!! わ、私、あれからずっと、晴斗の家に上がる度に、結構意識してたんだからね!?」

 いやそれは知らんて。
 あのとき僕は、こいつのために出来ることをしただけだし。

 ってか、それは逆に、僕の部屋に入るというその前提を作らなければ別に大した問題ではないのでは?

「それは、そうだけど……」

「……わかった。じゃあ、泊りは無しでいいから。その代わり、晩ご飯は食べてけよ」

「………………そ、それなら」

 また僕の家に上がる口実が出来たというのに、何だその反応は。さすがにそこまで反応が露骨だと傷つくんだが。────って、ちょっと待て!



 ……今、僕……何て?

 上がる口実? せっかく? ……こいつの代弁、だよな?



 露骨な反応を見せた張本人様は、アスファルトの地面を見るように俯いてしまった。

 そんな彼女の耳朶は、真っ赤に染まっていた。
 夕日のせいかもしれない。

 それとも、幻覚でそう見えてしまっただけかもしれない。
 けど、仮にそうだとしてもだ──。

 僕は、こいつのことを……見ていたんじゃないのか? それを、異性として、女性として、意識してしまっているのか?

 もしそうだとしたら、僕は……どうするべきなんだ?
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