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第四部
第26話 ぼっちの現実と理想③
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試合時間はもう10秒もない。
ここからの形勢逆転なんて、少年漫画じゃないのだから不可能に決まっている。
現実を見ろ。理想を見るな。
まさにその通りだと思う。
だから僕は動かしたくない身体を動かす他なかった。
望んで1人になるのは別に構わない。慣れてるし、何より居心地がいい。
けれど、他者によって作られる1人というのは、屈辱の何物でもない。
クラスメイトからの罵詈雑言は避けたい──これだけが、今の僕の胸の内側を支配し、僕を動かす原動力だ。
……あぁぁぁあ。どうして、動いているのだろう。
望まれる、期待を持たれてしまう。
目立つことを避けたいのも、全ては過去の自分を繰り返さないため。同じ誤ちを、繰り返さないためだった。
けれど僕はクラスメイトのためにも、今身体を動かしている。
……謎だ。理解不能だった。
でもわかるのは、こうして動くのは……とても、久しぶりだったことだ。
「…………悪いけど、勝たせてもらうよ」
僕は僕のことなどまるで眼中にないかのようにドリブルをしてくる相手から──一瞬で『主導権』を奪え返した。
随分と舐められていたらしい。まさか、透明人間扱いされる日がくるとは。
無視はしてもいいけど、居ない人間扱いされるのは刻だなぁー。
「…………っ、あ、あれ?」
「………………」
案の定戸惑う様子を見せる相手チームを横目に、僕は即座に相手ゴールへとドリブルしていく。
あまり目立つのは嫌だし、すぐに味方へパスを回したいのが本音だ。
けどどうしてか、相手チームだけでなく、あの4人も呆然とし立ち尽くしている。
どうしてそこで放心状態になる! お前らが僕に『止めろ』と言ったのに、何でお前らが止まってるんだ!
チラッと、相手ゴールの近くに座っていた伊月を見る。
一瞬のことで識別能力が特別高いわけではないが、伊月の口角が少しニヤけているように見えた。……あいつ、絶対バカにしてやがるっ!
いや……考えすぎかもしれないが。
けれど他の奴らと同様に放心していないのは、やはりこうなることを予測していたからだろう。そうとしか考えられない。
──だとしたら、相当策士だぞあいつ。
味方ゴール付近だったボールは、僕の手によってあっという間に相手ゴールの中へと入っていった。それと同時に、こちら側に得点が入る。
更に、試合終了を知らせる笛が鳴る。
残り試合時間僅か10秒足らず。
そんな誰もが逆転を諦める時間の中に起こった、たった1度の奇跡。
誰もが思ってもいなかったことだろう。──クラスでも碌に話もせず、人と触れ合うことに引っ込み気味な誰もが認めるであろう陰キャな僕が、そんな奇跡を起こしてしまった張本人なのだから。
試合が終わったというのに、みんなその場から動こうとしない。歓声すらもない。
けれど僕の中では『やってしまった……』という後悔だけが残る。
おそらくみんなは違う。
現実を後悔する僕とは逆に、起きた現実を受けきれていないのだろう。
僕に『止めろ』と言ってきた西村も、まさか僕が本当に止め、尚且つ得点するなどという理想すら抱いていなかっただろうからな。
……やだな、こういう状況の後始末。
きっとアレだ。休み時間とかになったら、何かと噂されるんだろ。だから嫌なんだよ。体育みたいに、人前に出て『目立つ』っていうことが。
やっぱ、引き受けなきゃよかった……。
“後悔先に立たず”──まさに僕の状況を表す言葉に相応しい。
僕は浮かないこの気持ちを胸に、先程まで座っていた位置へと戻る。
誰もが意気消沈している最中、僕の耳に確かに届くたった1つの拍手の音。
「お疲れさん! ナイスシュー!」
パチパチパチと、賞賛の拍手を送っているのだろうが僕からしたらただの嫌味だ。
普通に呆れしか湧き上がってこない。
「……お前、絶対こうなるってわかってただろ」
「さぁて。何のことだかな?」
嘘をつけ、嘘を!
「けどさ、久しぶりに見た気がしたよ。お前のプレー」
「それはそれは。よかったな」
「人をゴミみたいに見る目でそんなこと言うなよっ! 余計褒めにくいだろうが!」
「……褒めてるところなんて無かっただろ?」
「送っただろ! この見事なまでの賞賛の拍手を!」
伊月はそう言うと、先程の賞賛の拍手とやらを再現する。
え……それ、お前的には『人を褒めてる』つもりだったってことか? そ、それはさすがに、詠み取れねぇって。
「……それで? どうだったよ、バスケの試合は」
「……アレだな。まさか、チームメイトに頼られる? 日が来るとは思ってもみなかったな。……どうして体育の授業を本気で受けなきゃならないんだ」
「日頃サボってるツケが回ってきたんじゃないか?」
「んなバカな……いや? もしかして、本当に?」
「とうとう疑心暗鬼になり出しか……」
僕は頭を抱えて蹲る。
この後からの悩みの種を増やされた気分で頭が痛い……。
「ま、あれだな。理想ばっか見てるから、現実を見れないんだよ」
「……また返された」
今日の僕はどうやら不幸の日らしい。
朝のモーニングコールと言い、先程の試合と言い。
心臓に悪いものばかりの今日は、なるべく『人目を避ける』ことを目標とした。
……こんな目標立てたの、初めてかもしれない。
ここからの形勢逆転なんて、少年漫画じゃないのだから不可能に決まっている。
現実を見ろ。理想を見るな。
まさにその通りだと思う。
だから僕は動かしたくない身体を動かす他なかった。
望んで1人になるのは別に構わない。慣れてるし、何より居心地がいい。
けれど、他者によって作られる1人というのは、屈辱の何物でもない。
クラスメイトからの罵詈雑言は避けたい──これだけが、今の僕の胸の内側を支配し、僕を動かす原動力だ。
……あぁぁぁあ。どうして、動いているのだろう。
望まれる、期待を持たれてしまう。
目立つことを避けたいのも、全ては過去の自分を繰り返さないため。同じ誤ちを、繰り返さないためだった。
けれど僕はクラスメイトのためにも、今身体を動かしている。
……謎だ。理解不能だった。
でもわかるのは、こうして動くのは……とても、久しぶりだったことだ。
「…………悪いけど、勝たせてもらうよ」
僕は僕のことなどまるで眼中にないかのようにドリブルをしてくる相手から──一瞬で『主導権』を奪え返した。
随分と舐められていたらしい。まさか、透明人間扱いされる日がくるとは。
無視はしてもいいけど、居ない人間扱いされるのは刻だなぁー。
「…………っ、あ、あれ?」
「………………」
案の定戸惑う様子を見せる相手チームを横目に、僕は即座に相手ゴールへとドリブルしていく。
あまり目立つのは嫌だし、すぐに味方へパスを回したいのが本音だ。
けどどうしてか、相手チームだけでなく、あの4人も呆然とし立ち尽くしている。
どうしてそこで放心状態になる! お前らが僕に『止めろ』と言ったのに、何でお前らが止まってるんだ!
チラッと、相手ゴールの近くに座っていた伊月を見る。
一瞬のことで識別能力が特別高いわけではないが、伊月の口角が少しニヤけているように見えた。……あいつ、絶対バカにしてやがるっ!
いや……考えすぎかもしれないが。
けれど他の奴らと同様に放心していないのは、やはりこうなることを予測していたからだろう。そうとしか考えられない。
──だとしたら、相当策士だぞあいつ。
味方ゴール付近だったボールは、僕の手によってあっという間に相手ゴールの中へと入っていった。それと同時に、こちら側に得点が入る。
更に、試合終了を知らせる笛が鳴る。
残り試合時間僅か10秒足らず。
そんな誰もが逆転を諦める時間の中に起こった、たった1度の奇跡。
誰もが思ってもいなかったことだろう。──クラスでも碌に話もせず、人と触れ合うことに引っ込み気味な誰もが認めるであろう陰キャな僕が、そんな奇跡を起こしてしまった張本人なのだから。
試合が終わったというのに、みんなその場から動こうとしない。歓声すらもない。
けれど僕の中では『やってしまった……』という後悔だけが残る。
おそらくみんなは違う。
現実を後悔する僕とは逆に、起きた現実を受けきれていないのだろう。
僕に『止めろ』と言ってきた西村も、まさか僕が本当に止め、尚且つ得点するなどという理想すら抱いていなかっただろうからな。
……やだな、こういう状況の後始末。
きっとアレだ。休み時間とかになったら、何かと噂されるんだろ。だから嫌なんだよ。体育みたいに、人前に出て『目立つ』っていうことが。
やっぱ、引き受けなきゃよかった……。
“後悔先に立たず”──まさに僕の状況を表す言葉に相応しい。
僕は浮かないこの気持ちを胸に、先程まで座っていた位置へと戻る。
誰もが意気消沈している最中、僕の耳に確かに届くたった1つの拍手の音。
「お疲れさん! ナイスシュー!」
パチパチパチと、賞賛の拍手を送っているのだろうが僕からしたらただの嫌味だ。
普通に呆れしか湧き上がってこない。
「……お前、絶対こうなるってわかってただろ」
「さぁて。何のことだかな?」
嘘をつけ、嘘を!
「けどさ、久しぶりに見た気がしたよ。お前のプレー」
「それはそれは。よかったな」
「人をゴミみたいに見る目でそんなこと言うなよっ! 余計褒めにくいだろうが!」
「……褒めてるところなんて無かっただろ?」
「送っただろ! この見事なまでの賞賛の拍手を!」
伊月はそう言うと、先程の賞賛の拍手とやらを再現する。
え……それ、お前的には『人を褒めてる』つもりだったってことか? そ、それはさすがに、詠み取れねぇって。
「……それで? どうだったよ、バスケの試合は」
「……アレだな。まさか、チームメイトに頼られる? 日が来るとは思ってもみなかったな。……どうして体育の授業を本気で受けなきゃならないんだ」
「日頃サボってるツケが回ってきたんじゃないか?」
「んなバカな……いや? もしかして、本当に?」
「とうとう疑心暗鬼になり出しか……」
僕は頭を抱えて蹲る。
この後からの悩みの種を増やされた気分で頭が痛い……。
「ま、あれだな。理想ばっか見てるから、現実を見れないんだよ」
「……また返された」
今日の僕はどうやら不幸の日らしい。
朝のモーニングコールと言い、先程の試合と言い。
心臓に悪いものばかりの今日は、なるべく『人目を避ける』ことを目標とした。
……こんな目標立てたの、初めてかもしれない。
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