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第四部

第25話 ぼっちの現実と理想②

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「そんじゃ、始めるぞー」

 先生が片手にボールを持ち、2チームの間に立つ。
 ……失礼を承知で心の中で呟いてもよろしいでしょうか。

 先生、居たんですね。

「レディー……ゴー!」

 まるで今から運動会でも始まるかのようなスタートの合図に、思わずツッコミたくなる衝動を抑えて、僕は味方コートよりに後ろへ下がる。
 天井高く上がったボールを取ったのは、どうやら僕達のチームのようだ。

西村にしむら! こっちだ!」

「オッケー」

 西村と呼ばれたチームメイトは、相手にマークされつつも、コート全体が見えているように相手をかわしつつドリブルで距離を詰める。上手いな、こいつ。

 男子あるあるだと思うが、部活でもない競技でも何故か上手いという。
 その体育筋、ほんの僅かでも分けて欲しいものだ。

木村きむら!」

「よっと! ナイスパスだ、西村!」

 木村と呼ばれたチームメイトは、西村からボールを受け取りドリブルでゴールへとける。
 だが、体育だからといって、手加減するような試合を男子がするわけもなく……、

「行かせるか!」

「……っち!」

 相手チームの1人が木村の前進を止めた。
 1歩、木村は後ろへと引く。

 もちろんマークしているのはその1人だけではない。素人ながらも、そこそこに出来た陣形を取りながら、木村を通さまいとディフェンスしているようだ。

 いくら体育であっても負けることは許されない──男子の謎のプライドだよな。こういうの、本当に多いと思うのは僕だけか?
 とはいえ、中には真剣な奴も当然いるわけで、

「後ろだ、木村!」

本村もとむら! 頼むぞ!」

 木村は本村と呼ばれたチームメイトにパスを出す。……ってか、僕のチームメイトに何人“○村”付いてる男子居るんだよ! もう3人目なんだけど!

 ……まさかとは思うが残りの1人も……、

さかき! 攻めるぞ!」

「おう!」

 何でそこは普通にありふれた名字なんだよ! 逆にツッコミ入れたくなるだろうが!
 そこは『村』付いてくれよ! 1人だけ仲間外れみたいになってるじゃないか!

 いや……違うか。

 頼られているところをみるに、おそらく榊も陽キャの一員だろう。なら尚更──僕のような陰キャと同等に数えてやるのは失礼だな。

 まぁよかった。
 これでハブられ組は僕1人。
 いつも通りの枠組みの出来上がりという訳だ。

 榊と本村が中心となって相手ゴールへと攻めている。状況と時間的にここからの形勢逆転はありえないだろう。余程のことがない限り。

 なら、このまま体育館のはしに寄っておくか。
 チームメイトの中に最早僕が入り込める隙はない。
 チーム内には完全に『空気』が作られているし、ここで僕が介入して空気を壊すようなことをする必要性はどこにもない。寧ろ迷惑でしかない。そんなの、僕のポリシーが許さない。


 伊月には悪いが、この試合、僕はボールに触れることなく終わりそうだ。

 ま、当然だろうな。

 何しろ普段からクラスの奴らとまともに話そうとしないのだ。よって──実力は未知数。それよりか無戦力と思われたって仕方がないのだ。

 そんな信用度ゼロな相手にパスを回すほど、チームメイトもバカではないだろう。
 まぁ完全に自虐だが、そうだと自分で思ってしまっているのだから否定することもない。

 僕は味方ゴール付近で立ち尽くし、目立たずに試合を終えようと試みる。
 試合時間は残り20秒。出番なく、無事に終わりそうだ。

「あっ、やべぇ! リバウンド!」

 と、榊の口から焦りの言葉が聞こえる。

 どうやらシュートをミスってしまったらしい。陽キャも完璧ではないということを、ここで証明しなくてもいいんだが……。

 まぁどうせ僕には無関係なことだ。
 陽キャ同士の試合に陰キャが入り込む術《すべ》はない。
 大人しく引き下がっているのが身のため己のため……、

「そっち行ったぞ! !」

 ほらな、今だって僕ではない誰かが頼られて…………、





 …………………………………………………………………………………………………………ん?





 今、一体誰の名前を呼んだんだ?

 バスケチームは全員で5人。
 メンバーは、西村、木村、本村、榊。そして、僕。……ちょっと待て。……僕? さっき、ひょっとすると僕が呼ばれたのか?

 なっ──!? ど、どうしてチームメイトが僕の名前を呼ぶ必要がある!?

 危機感を感じ取った僕は、上の空状態だった意識を急いで目の前へとそそぐ。
 そこには、先程の優勢な状況などは一切無く、寧ろ『敗北』へと近づいていた。

 何故気を抜いた!? しかも、こっち側味方ゴールに居る人、僕しかいないってどういうことだよ! 全員で何で上がってんだよ!!

「和泉! 止めろ!」

 僕の心情など知るはずもなく、西村が大声で僕にそう言った。

 止めろだって? ──それが出来なかった人間の態度かっての!

 とは言っても、陽キャに逆らえないのが陰キャの運命さだめ。僕はすぐさま動いた。

 素早く、的確に、無駄なく。

 余計な思考は一旦省こう。そんなのは体力までもを無駄落ちさせてしまうだけだ。
 たった今僕に与えられた使命は──『負ける』という状況を作らないこと。

 たった1つ。
 陰キャにとっては非常に困難な使命だけだ。
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