上 下
20 / 54
第二部

第18話 女神様の最高の……

しおりを挟む
「えっと……まずはジャガイモですね」

 買い物メモを片手に持ち、僕は買い物カゴを片手で持っている。
 徐々にこの軽さが重さに変わっていくんだろうなという、ちょっとしたうつつに身を投じていた。

 まあそれ以前として、先程からビシビシと感じる周りの視線が痛い。きっと「あれ、彼氏かな? 絶対似合ってないよね」とか陰口を言われていることだろう。

 客観的な感想は人それぞれだし、その全てを否定することは望ましくない。
 なので、振り返ることもせず、憂鬱ゆううつ感を抱きつつ美桜の後をついて行く。

「次は……っと、大丈夫ですか?」

「えっ?」

「買い物カゴです。重たいなら私が持ちますが」

「い、いい! そんなことされたら刺される!」

「何にですか?」

 きょとん、と訊ねてくる美桜。悪気はないんだろうがさすがに天然すぎないか?

 自分が周りから『尊敬されている』というより『モテている』という意味であることを自覚させないとダメな気がする。

「いや……この店に入店してから感じてた視線だよ。わかるか?」

「まったく」

 何の迷いもなく言い切ったよこの人! 本当に心配させるな!

「はぁ……。どうして、僕ってこんなにも周囲から忌み嫌われるんだ。前世の行いが悪かったからそれの制裁なのか?」

「さすがにそこまで壮大ではないと思うのですが」

「うん、だね。盛った。今のは盛りました。すいません」

 もし前世での行いが悪かったのなら、こんな可愛らしくて危なっかしい女神様と幼馴染に、ましてや同居生活なんて出来ていない。
 あ……でも、これが“浄化”という意味で例えるなら違ってくるのか?

 僕の脳内で天秤にかけられる『制裁』と『浄化』という単語たち。どちらにしたって良い行いをしていないと自負しているらしいな、僕の脳内は。

 すると、黙り込んで考え込んでいた美桜がふと閃いた顔をして、

「──もしかして、嫉妬でしょうか?」

「嫉妬の視線じゃなかったら僕がこんなに刺されるのはおかしいでしょ」

 何を今更言っているんだこの人、という感想しか出てこない、非常に唐突なボケをかまされた気分だ。

「本当ですか? でしたら、ちょっと嬉しいです」

「い、いや……そのまとめ方は何かがおかしいです、美桜さん」

「何がですか? 少なくとも私からしてみれば、その視線に威張りたいところです。だってその人達からすれば、私達は『お似合い』という風に見られているわけじゃないですか」

「え……う、うん?」

 ちょっと観点がおかしいが、根本的なところは間違っていない。
 すると、美桜は前を歩くのをやめて僕の隣で肩を並べて歩き始めた。

「み、美桜!?」

「お店の中です。大声を発するのは控えてください」

「い、いや……」

 無理でしょ!! と、大声で叫びたいこの気持ち。

「それにです。湊君にとっては嫌かもしれませんが、私は嬉しいです。湊君はいい人なのだと、私にとっては最高のこ……」

「こ?」

「こほん。間違えました。私にとっては最高の幼馴染だと、周りに思ってもらえるチャンスでもあるのですから」

 僕は美桜のその言葉に驚いた。

 今までの美桜の様子を見るに、僕との『幼馴染』関係を根元から否定するようなことは無いと思ってはいたが、思うのと実際に言われることでは威力が違う。

 美桜からそう思われていた事実が、何よりの証明だ。
 僕も少なからず、美桜のことを特別視している。
 他の奴らとは全然違う。例えば──他の奴らの中に美桜と同じような性格の女子が居たとしよう。けれど僕は、今のように関わってなどいないと思う。

 根拠なんてものはないが、強いて言うなら──関わり合いの大差からだろうか。

「……僕も、かな。僕の幼馴染に変わりはいないと思ってる。それに、お前は他の奴らよりも一段増して放っておけないしな」

「癪に障る言い方をしますね。私は素直に抗弁したというのに」

「ごめんごめん」

「謝る気のない謝罪はいりません。……もう、十分です」

 美桜の頬が若干赤らみを帯びていることに気がついた。
 そんなに照れくさいことだっただろうか。

「よし。とりあえずこれで全部だな。じゃあレジに行って会計を──」

「──待ってください。まだお赤飯の食材と調味料を買っていません」

 逃げさせてくれないか……厳しいガードだなまったく。


 その後、逃げることすら叶わなかった僕は、大人しく美桜の意見に従った。
 買い物カゴが重くなりだしたところで買い物を終え、僕達は6時前にはアパートへと戻ってきた。

 手を洗い、食品等を整理し、後は調理していくのみ。

 シチューと言っても、僕達はプロの職人ではないため普通にシチューの素を使う。
 美桜はエプロンを着用し、準備万全な状態になった。まるで、今から戦でもしに行く武士みたいな風情ふぜいがあるのは気のせいか?

 そこからはお互い、慣れた手つきで徐々に調理を進めた。
 美桜はジャガイモを手早い包丁捌きでスルスルと皮を剥いていたが、僕は慣れていないし怖いので大人しくピーラーを使うことにした。

「子ども向けですね」

「誰もがりんごの皮むきが出来るわけないだろうが」

「何でりんごで例えたんですか?」

 そんな理由は僕が1番知りたい。けれど何故か、似合っているような例えでもあるように思えた。

 終始無言にはならず、お互いにそこそこのペースで会話をし暇潰し程度に相槌あいづちを打つということを繰り返す。

 そうしている間に時間は過ぎていき、あっという間にシチューの具材を炒める工程へ。

「湊君、お肉はどうしますか?」

「そうだな。カレーもそうだが、シチューもどっちでもいいんだよな。美桜は豚肉か鶏肉かどっちがいい?」

「そうですね。……豚肉がいいです」

「カレーにも豚肉入れたがる派だな」

「な、何故わかって……」

「僕も同じだからだよ」

 好みって被るもんなんだよな。カレーに入れる肉なんてのがそう。
 家庭にあるものを使った──っていう考え方が1番一般的なんだろうが、両方あるのに「気分的に」とか答えてる奴は、大抵選んだ方が好きだったりする。

 実際、美桜はそうっぽいし僕もそうだからな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

お隣に住む従姉妹のお姉さんが俺を放っておいてくれない

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
青春
大学合格を機に上京してきた主人公。 初めての一人暮らし……と思ったら、隣の部屋には従姉妹のお姉さんが住んでいた。 お姉さんは主人公の母親に頼まれて、主人公が大学を卒業するまで面倒をみてくれるらしい。 けどこのお姉さん、ちょっと執着が異常なような……。 ※念のため、フリー台本ではありません。無断利用は固く禁止します。 企業関係者で利用希望の場合はお問合せください。

おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました

星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位! ボカロカップ9位ありがとうございました! 高校2年生の太郎の青春が、突然加速する! 片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。 3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される! 「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、 ドキドキの学園生活。 果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか? 笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

彼女たちは爛れたい ~貞操観念のおかしな彼女たちと普通の青春を送りたい俺がオトナになってしまうまで~

邑樹 政典
青春
【ちょっとエッチな青春ラブコメディ】(EP2以降はちょっとではないかも……)  EP1.  高校一年生の春、俺は中学生時代からの同級生である塚本深雪から告白された。  だが、俺にはもうすでに綾小路優那という恋人がいた。  しかし、優那は自分などに構わずどんどん恋人を増やせと言ってきて……。  EP2.  すっかり爛れた生活を送る俺たちだったが、中間テストの結果発表や生徒会会長選の案内の折り、優那に不穏な態度をとるクラスメイト服部香澄の存在に気づく。  また、服部の周辺を調べているうちに、どうやら彼女が優那の虐めに加担していた姫宮繭佳と同じ中学校の出身であることが判明する……。      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  本作は学生としてごく普通の青春を謳歌したい『俺』ことセトセイジロウくんと、その周りに集まるちょっと貞操観念のおかしな少女たちによるドタバタ『性春』ラブコメディです。  時にはトラブルに巻き込まれることもありますが、陰湿な展開には一切なりませんので安心して読み進めていただければと思います。  エッチなことに興味津々な女の子たちに囲まれて、それでも普通の青春を送りたいと願う『俺』はいったいどこまで正気を保っていられるのでしょうか……?  ※今作は直接的な性描写はこそありませんが、それに近い描写やそれを匂わせる描写は出てきます。とくにEP2以降は本気で爛れてきますので、そういったものに不快に感じられる方はあらかじめご注意ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...