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第二部

第11話 陰キャラと陽キャラの雑談

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 僕のクラスには学年で1番の美女がいる。

 休み時間になる度に、彼女の視界に入ろうと多くの男子が彼女の元へとやって来る。
 時間帯はいつもバラバラだが、こんな調子では男子は報われない恋をし続けることになってしまうな。

 美桜自体に悪気はないとはいえ、さすがに申し訳なさは感じてほしいものだ。
 それは──美桜が他人には決して笑顔を見せず、常に他人との距離を空ける無愛想な性格を持ち合わせているからである。

 ……そう考えると、僕は結構レアなんだと思い知らされる。
 あいつと幼馴染をやっていなければ、きっと僕も、あいつの無愛想さに巻き込まれる1人になっていたことだろうしな。

 と、自席でいつものように女神様を傍観していると、前の空席に1人の男子が座った。

「はぁぁぁぁああ…………」

「おいおい! 人が話しかける前にため息を吐くな! 傷つくだろうが!」

「ほぉ。お前でも傷つくことがあるんだな、意外だよ」

 さほど意味のない傍観を妨げて僕とコミュニケーションを取ろうとしてくるこの陽キャ。
 こんな自席で早く学校が終わって欲しいと望むこの陰キャに堂々と話しかけてくる奴なんて、僕が知る限り、1人しかいない。

 村瀬むらせ伊月いつき──赤髪かかった焦げ茶の髪と、ブラウンの瞳。制服の第一ボタンは開けられており、ネクタイも少し緩くなっている、完璧なる今どきの陽キャだ。

 ちなみに、この間のベッド騒動のときに美桜が口にしていた『村瀬君』とは紛れもなくこいつのことだ。

「なんだよぉ……。1人で悲しく自席で真城さんのことを傍観してるから、よし相手してやるかと思って話しかけてやったっていうのに!」

「余計なお世話だ。とっとと輪の中に戻った方がいいと思うぞ」

 伊月は僕とは違う世界線に生きている人間だ。
 現に言えば、美桜だってそうだ。

 太陽の下をお喋りしながら歩行し、放課後には友達や恋人と一緒に流行りのタピオカでも飲みに行くのだろう。
 僕にはそんなことは出来ない。日陰の下を歩行し、放課後になったら即座に家に帰って横になって寝る。毎日それの繰り返し。

 到底陽キャとは釣り合わない世界に生きていることなど、一目瞭然だ。

「バカを言え。お前だって、オレの友達だろ? 陽キャとか陰キャとかそんなの些細な問題だ。そうだろ?」

「……実に陽キャの発言だな」

「嫉妬したか?」

「つい数秒前の自分の発言を思い返してみろよ」

 どうしたら僕が伊月に嫉妬しなくちゃならないんだ。
 バカも休み休みにしてほしい。

「ところで、真城さんと今日一緒に来てたみたいだけど、偶然会ったのか?」

「……っ! 見てたのか」

「偶々だよ。廊下からお前達が肩を並べて歩いているのが見えたもんでね」

「そんな大層なものでもないがな。……そうじゃなかったらおかしいだろ。勘繰られて、オドオドする僕を見たいか?」

「それはそれで面白そうだけどな!」

 にへら、と性悪な笑みを浮かべる伊月に僕は軽くため息を吐いた。

 人のことを棚に上げて、こいつはのうのうと見物する気満々らしい。
 仕返ししてやろうかと反撃の一手を打とうとしたが、寸でのところでやめておいた。

「話したりとかしねぇの?」

「現カップルのお前と一緒にするな。いくら幼馴染だからって、立場の差は歴然としてるし、僕が学校で話さないことは美桜も承知してくれてる」

「……え、まじで言ってんの?」

「まじだけど」

「はぁぁあ……。真城さんが不憫ふびんすぎて何も言えねぇ……」

 伊月は頬杖をついて僕のことをじーっと睨み付ける。
 一体何にそんな気落ちしているのか訊いた方がいいんだろうけど、何だか変な流れが出来てしまう気がするのでスルーしておこう。流しておくに越したことはない。

「……なぁ。真城さんから、何か言われたか?」

「何か、って?」

 机の中から本を取り出して読もうと思った矢先、タイミングを見計らったように伊月が僕に、真剣そうな目つきで訊ねてきた。

「決まってんだろ。いくらお前らが学校内で関係を持っていなくても、さすがに学校外だったら関係持ってるんだろ?」

「……引っかかる言い方だな」

「そりゃあもう! お前らの馴れ初めの話を聞くぐらいには期待してるんだぜ!」

「何だそれ。言っておくが、僕と彼女は恋人じゃない。ただの幼馴染だ」

 この際だ。改めて言っておこう。

 僕と真城美桜はだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 確かに、美桜のことは魅力的だと思うし個人的に惹かれている部分は存在しているのだろう。それこそ彼女の知性さであったり、僕にしか見せないような世間ずれした考えを持っているお陰で、放っておけない部分は確かにある。

 けれど、女の子として『好きか』と問われたら「いいえ」と否定する。

 ……それに、人を好きという感情で見てしまうことに碌なことなんてない。いずれかはその考えも全て『無』になるのが当たり前だから──

「……美桜とは、こういう関係が丁度いいんだよ」

「ふーーん」

「……な、なんだよ。その変な頷き方は」

「いや~? 頑固だなぁとか、がたい思考してんなぁとか思ってねぇよ?」

「心の内側がただ漏れしてんぞ」

「じゃあさ。だったらどうなんだ?」

「どう……って?」

「確かに、真城さんには常に周囲の目っていうのが付き纏ってくるだろうさ。それも、周囲をも巻き込んでしまうような、そんな大きい目がさ。でも、今はその範囲として固定されているのは学校内のみ。学校外でも──って言ってるけど、この言い方だと『家の中』ってのは含まれないよな~!」

「あ、悪質だ……こいつ」

 犯罪者に向いてそうな思考に、僕は思わずドン引きする。

 しかし僕の反応に驚きもツッコミもせず、伊月は淡々と話を続ける。

「それでそれで? 実際のところはどうなんだ?」

「んなわけないだろ……。僕は目立つのが嫌いなんだ。んな危ない橋を渡るような真似、僕がすると本気で思うのか?」

「……それもそうだな。お前はただでさえ陰キャで、オレ以外の友達が皆無かいむなわけだし」

 ……何故かしゃくさわるような言い方をされたが、気にせずにスルーする。

「でも、人っていうのは咄嗟の判断に遅い生き物だからな。もしかしたら、そういうことも? みたいなのがあるわけよ」

「……だから?」

「わかんねぇかなぁ? 要するに──みたいなことだよ!」

「ぶっ────!?」

 伊月からの突然のカミングアウトにさすがに耐久はがれ、僕は唾を思いっきり吹いてしまった。

 さすがの伊月も今のには驚いたようで「汚っ!」と少し席から遠のいた。

 いや、確実にこいつが悪い! 僕にだって沸点ぐらいあるんだからな!?

「ちょ! そんなに驚くことねぇだろ!」

「んなの突然言われたら誰だって驚くわっ!!」

 カマをかけられたというわけではなさそうだが、予想もしていなかった的確な答えをされたために思わず身を退いてしまったのだ。

 美桜は現在、僕の家に居候している。

 実質、同居と同じこと。恋人同士でこういう状況を言うのであればそれは『同棲』ということになるのだろうが、僕達にはそれは当てはまらない。

 だが、伊月の言ったことは昨日の美桜の台詞と一致していたのだ。
『同棲してください!』と、同居と同棲の違いをまず説明するべきではないかと思わず心配になってしまった台詞でもある。

 陽キャというのは、心を読める悟り妖怪か何かなのだろうか?
 僕の突発的な台詞に動じるものの、僕が残してしまった台詞を幾度となく拾い上げては、陰キャの心を掻き乱す──羨ましい力でもあるが、同時に憎みたい力だ。

「……そんなことを言うってことは、もしかして?」

「勘繰るな。そろそろ自分の教室帰れ」

「冷たいこと言うなよ! 知的好奇心だ、付き合ってくれてもいいだろ?」

「ふざけるな」

 僕は少しイラッときたために強気に返す。

 ここまで普段静かで平凡に日常を過ごす僕の心を沸騰させるのは、きっとこの先、伊月だけだ。
 嫌のようなそうでもないような。何とも言えない、微妙な居心地だな。
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