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5日目―レンスという女―
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「ねぇねぇ お母さんって強かったの?」
時刻は夕方
ディラの母は武器屋カウンターの仕事を終えて帰宅後
くつろいでいる所に息子ディラが突然問う
「お、なぁに いきなり?」
唐突な質問なのは間違いない
寝そべった体を起こして嬉しそうな顔をする
よくぞ聞いてくれたというところか
「お母さんも昔 戦士だったんだよね?」
「うん、そうよ~こんぐらいの剣振り回してたんだぞ」
こんぐらい そう言いながら
自分の首に手を当てるディラ母
まさに身の丈ほどある剣という表現だ
「え~ほんと?」
疑うのも無理は無い
少し前、ディラは父親に片手剣を持たせてもらった
戦士達の間では小回りの利く剣とのことだが
ディラにとってはそれを持つことさえかなわない重さだった
それが母ほどの大きさの剣となれば……
とりあえず頭にふってきたらペシャンコは余裕だろうな
と、思った
「持つだけならいまでも余裕だよ
ほらみて、ちからコブ ヘヘヘ」
ニヤニヤと笑いながら力こぶを作ってみせる母
母は元戦士というだけあって魔界の女性の中では
ガタイは大きいほうだが
今だけはその腕がさらに堅く膨れ上がった
「おわぁ……!!」
ディラはこれが自分の母親の腕か? と
今度は目を疑った 今日は疑うのに忙しい
ただしこのちからコブはあくまでも
目に見えるだけのものにしかすぎない
いくらディラ母が豪傑だといっても
身の丈ほどの鉄塊を軽々と振り回すには
その程度の力コブでは無理というものだろう
魔族たる彼らは肉体の筋肉をさらに魔力で増強させ
人間離れした身体能力を得るのだ
純粋な肉体の強さは人間とそう大差はないが
そこに魔力というものが加わり埋められぬ差をつける
……そんな魔族の肉体事情などもちろん知らずに
ディラはテンションをあげる
「凄いなぁお母さん
もしかしてお父さんより強かったり?」
冗談交じりの笑みでいうディラ
「ふふ、口じゃ勝てるよ口じゃ
腕ではまぁ……さすがにあの人には勝てないかな?」
どこか懐かしむような顔をしながら言うディラ母
「勝負したことあるの!?」
「ん~勝負はないかな、まぁ男は強いし……」
どこか恥ずかしそうな顔をするディラ母
「お母様の体温が上昇してイまス
大丈夫デすカ?」
「やだよーディラミスちゃん もー」
ますます頬を赤らめる母に
なんともいいがたい顔をするディラ
「ねぇなんかあったの?」
「……もうーそこまでいうなら
出合った時の話を聞かせてあげよう
……あのね――」
実は言いたくてしようのなかった母
さてさて、それはそれは昔々……
まだディラの姿形もない時代
町の武器屋に勤める一人の女性魔人がいた
「おい、レンスちゃん
また会計間違えてるよ、しっかりしてくれよ」
「あ、うー……すんません!」
レンスというその女性はオレンジ色の長く
しかし整っていない髪を掻き分け店長と思しき男に謝る
この女性こそがディラの母親となる運命の少女レンスだ
「いくら武器が好きな子でも肝心の値段を、しかも
1000メディと10000メディまちがえられちゃ
たまったもんじゃないんだよ!」
「えへへ」
「わらいごとじゃないよ!」
彼女は相当おバカであった
やはりというかおおよその魔族が
学問などを修業しておらず、数字さえまともに読めないものが多い
故に、お会計という仕事さえも難易度の高いほうなのだ
「うちの知り合いに武器の知識はないけど
頭のいい子がいるから次しくじったらすぐ入れ替えるぞ!」
「はーい、きをつけます!」
にくったらしい笑みで返すディラ母・レンス
次はないようだが……
こんな調子で日々接客をつづけていた
――ある日
「……ん?」
今度は間違えないように数字の勉強をしながら
お客をまっていたレンスは妙な雰囲気に肌がヒリついた
やがてそれはズルズル……と鈍くなにかが
引きずられたような音が近づいてくる
気になったレンスは店番をすっぽかして外へ出てみた
「……!」
わぁ などと声は出ず、目の前の光景に腰を抜かした
緑色の髪をした男が片手足を失い
店に向かって這いつくばってきていたのだ
レンスにとってはじめて見るその重症は
恐怖を覚えたが何よりも男の介抱に体を動かされていた
「ぅ…ぅぅ……ぅぁ………」
うめき声か、なにかを訴えたいのか
鍛え抜かれた体を持つ重症の男は寄り添ってきたレンスの
衣服を千切れるほどの勢いで握り寄せる
魔族は五体が満足でなくとも即死ということはない
たとえ首をはねられても場合によってはすぐに死なないのだ
但し切断後、適切な処置を行わない限り
体から命を司る魔力が溢れ出ていきやがては絶命してしまう
大抵は切断された体の部位があれば
癒術知識のない戦士でも簡単に接合できるのだが
この男の荷物には体の部位らしきものはない
様子から見て絶命は時間の問題だ
「……あ!」
しかしレンスはそれだけでないことに気付いた
男の背中の傷である
「この切り口……!
あんた毒牙ライハードを受けたね!?」
傷の形を見てレンスはそういった
それは魔界でごく一部に普及されている猛毒を含んだ剣の名だ
レンスは剣に関する知識が豊富で切り口を見ただけでもどの剣かが分かる
「あ、あんた! うごいちゃだめだよ!
ライハードの猛毒は動く度に回るんだから!」
男にここを動かないように指示を出してから
レンスは店の中へと入っていった
「こらっ!! 今度は店番をすっぽかしてなんのつもりだ!」
何も知らない店長はレンスをどやしつけるが
聞く耳持たない彼女は自分のバッグをがむしゃらに漁る
「あった!!」
術のない戦士にとって毒は大敵であり、解毒薬の所持が常識となっている
ただし戦闘中に数が尽きた時はこの限りではない
きっとこの男も解毒薬が底を尽きたのだろう
とにもかくにも解毒薬を所持していたレンスは男のもとへと急いだ
何事かと店長も後を追う
「あんた口は開ける!?」
レンスは男に問うがうつ伏せのまま反応がない
あとから来た店長はこの状況に驚いた
「ごめん染みるけどガマンして!」
口が無理なら と直接患部に解毒薬をすり込んだ
「うぁああああああああ!!!!!!!!!!」
絶叫し悶絶する男
レンスはその声に一瞬怯んだが治療を続ける
「これで…いいはずなんだけど……!」
解毒薬を塗り終えたレンスは
小刻みに震える自分の手を地面につき崩れ落ちた
男も解毒薬が効いたのか呼吸は穏やかに、静かに眠っている
これで癒術師が来てくれるまでは十分もつだろう
「レンスちゃんこれは一体……」
「あ、いえ…切り傷特集って本にこんなキズがあって
このひと毒なのかなぁって」
そんな本があるのか…という驚きの顔をした店長だが
同時にレンスの武器に対する知識にも驚いた
「あの……あたしなんだか力はいらなくて……
このひとの事おねがいします……」
初めて目の当たりにした重傷者に
応急手当をしたレンスの心拍数は異常なものだった
一度崩れおちた体がピクリともうごかない
「あ、あぁ 体力の回復ぐらいならできる薬があったはずだ
癒術師の手はずもわたしがやっておこう」
そういって店長は瀕死の男を担ぎ上げ店内の裏へ連れて行く
レンスはそれをみながら重すぎる体を何とか起こした
「店番……ほったらかしちゃったなぁ……
もうクビだあたし……うっ…うっ……」
目に涙をため嗚咽をあげながら
ふらふらとレンスは店を後にした
―――
「……懐かしいねぇ それでもうクビだとおもったからさ
開き直ってあたしは家にかえってやったんだよ」
ガチャガチャ……ガチャッ
急に家の扉が開いた
何事かといった表情でディラと母が見る
「あれ! きょうは早いじゃん!」
母が驚くのも無理はない
そこにはいつもより帰りが3時間も早い父がいた
「おう、今日は人が余ってよ
いらねぇなら帰らせてくれって言ったんだ」
「バカだなぁあんた ちょっとでも稼いでこないと~」
「おいおいそっちこそバカいうなよ
せっかくはやく帰ってきたんだ
たまにはみんなで外食にでもいこうぜ」
ディラと母が顔を見合わせてニカっとする
「私はお留守番しておきマすね」
この場合、正しい判断だが
ディラミスはそう答えた
ディラと母は顔を見合わせて頷く
「ディラミスちゃんもおいでよ
みんなで食べに行こ」
ディラもそうしようよ というように頷く
「ハイ、わかリましタ」
もちろん彼女は特に喜ぶわけでもなかったが
別にディラ母は気にしていなかった
たとえキカイでも
レンスにとって、母にとっては
娘が一人ふえたような気がしていたから
そしてディラは結局父母の馴れ初めを
最後まで聞くことはできなかったが
実はあまり興味がなく
まるでアニメのワンシーンのように
家族で手を繋いで夕陽の中へと消えていった
5日目―レンスという女―
まタ明日……
時刻は夕方
ディラの母は武器屋カウンターの仕事を終えて帰宅後
くつろいでいる所に息子ディラが突然問う
「お、なぁに いきなり?」
唐突な質問なのは間違いない
寝そべった体を起こして嬉しそうな顔をする
よくぞ聞いてくれたというところか
「お母さんも昔 戦士だったんだよね?」
「うん、そうよ~こんぐらいの剣振り回してたんだぞ」
こんぐらい そう言いながら
自分の首に手を当てるディラ母
まさに身の丈ほどある剣という表現だ
「え~ほんと?」
疑うのも無理は無い
少し前、ディラは父親に片手剣を持たせてもらった
戦士達の間では小回りの利く剣とのことだが
ディラにとってはそれを持つことさえかなわない重さだった
それが母ほどの大きさの剣となれば……
とりあえず頭にふってきたらペシャンコは余裕だろうな
と、思った
「持つだけならいまでも余裕だよ
ほらみて、ちからコブ ヘヘヘ」
ニヤニヤと笑いながら力こぶを作ってみせる母
母は元戦士というだけあって魔界の女性の中では
ガタイは大きいほうだが
今だけはその腕がさらに堅く膨れ上がった
「おわぁ……!!」
ディラはこれが自分の母親の腕か? と
今度は目を疑った 今日は疑うのに忙しい
ただしこのちからコブはあくまでも
目に見えるだけのものにしかすぎない
いくらディラ母が豪傑だといっても
身の丈ほどの鉄塊を軽々と振り回すには
その程度の力コブでは無理というものだろう
魔族たる彼らは肉体の筋肉をさらに魔力で増強させ
人間離れした身体能力を得るのだ
純粋な肉体の強さは人間とそう大差はないが
そこに魔力というものが加わり埋められぬ差をつける
……そんな魔族の肉体事情などもちろん知らずに
ディラはテンションをあげる
「凄いなぁお母さん
もしかしてお父さんより強かったり?」
冗談交じりの笑みでいうディラ
「ふふ、口じゃ勝てるよ口じゃ
腕ではまぁ……さすがにあの人には勝てないかな?」
どこか懐かしむような顔をしながら言うディラ母
「勝負したことあるの!?」
「ん~勝負はないかな、まぁ男は強いし……」
どこか恥ずかしそうな顔をするディラ母
「お母様の体温が上昇してイまス
大丈夫デすカ?」
「やだよーディラミスちゃん もー」
ますます頬を赤らめる母に
なんともいいがたい顔をするディラ
「ねぇなんかあったの?」
「……もうーそこまでいうなら
出合った時の話を聞かせてあげよう
……あのね――」
実は言いたくてしようのなかった母
さてさて、それはそれは昔々……
まだディラの姿形もない時代
町の武器屋に勤める一人の女性魔人がいた
「おい、レンスちゃん
また会計間違えてるよ、しっかりしてくれよ」
「あ、うー……すんません!」
レンスというその女性はオレンジ色の長く
しかし整っていない髪を掻き分け店長と思しき男に謝る
この女性こそがディラの母親となる運命の少女レンスだ
「いくら武器が好きな子でも肝心の値段を、しかも
1000メディと10000メディまちがえられちゃ
たまったもんじゃないんだよ!」
「えへへ」
「わらいごとじゃないよ!」
彼女は相当おバカであった
やはりというかおおよその魔族が
学問などを修業しておらず、数字さえまともに読めないものが多い
故に、お会計という仕事さえも難易度の高いほうなのだ
「うちの知り合いに武器の知識はないけど
頭のいい子がいるから次しくじったらすぐ入れ替えるぞ!」
「はーい、きをつけます!」
にくったらしい笑みで返すディラ母・レンス
次はないようだが……
こんな調子で日々接客をつづけていた
――ある日
「……ん?」
今度は間違えないように数字の勉強をしながら
お客をまっていたレンスは妙な雰囲気に肌がヒリついた
やがてそれはズルズル……と鈍くなにかが
引きずられたような音が近づいてくる
気になったレンスは店番をすっぽかして外へ出てみた
「……!」
わぁ などと声は出ず、目の前の光景に腰を抜かした
緑色の髪をした男が片手足を失い
店に向かって這いつくばってきていたのだ
レンスにとってはじめて見るその重症は
恐怖を覚えたが何よりも男の介抱に体を動かされていた
「ぅ…ぅぅ……ぅぁ………」
うめき声か、なにかを訴えたいのか
鍛え抜かれた体を持つ重症の男は寄り添ってきたレンスの
衣服を千切れるほどの勢いで握り寄せる
魔族は五体が満足でなくとも即死ということはない
たとえ首をはねられても場合によってはすぐに死なないのだ
但し切断後、適切な処置を行わない限り
体から命を司る魔力が溢れ出ていきやがては絶命してしまう
大抵は切断された体の部位があれば
癒術知識のない戦士でも簡単に接合できるのだが
この男の荷物には体の部位らしきものはない
様子から見て絶命は時間の問題だ
「……あ!」
しかしレンスはそれだけでないことに気付いた
男の背中の傷である
「この切り口……!
あんた毒牙ライハードを受けたね!?」
傷の形を見てレンスはそういった
それは魔界でごく一部に普及されている猛毒を含んだ剣の名だ
レンスは剣に関する知識が豊富で切り口を見ただけでもどの剣かが分かる
「あ、あんた! うごいちゃだめだよ!
ライハードの猛毒は動く度に回るんだから!」
男にここを動かないように指示を出してから
レンスは店の中へと入っていった
「こらっ!! 今度は店番をすっぽかしてなんのつもりだ!」
何も知らない店長はレンスをどやしつけるが
聞く耳持たない彼女は自分のバッグをがむしゃらに漁る
「あった!!」
術のない戦士にとって毒は大敵であり、解毒薬の所持が常識となっている
ただし戦闘中に数が尽きた時はこの限りではない
きっとこの男も解毒薬が底を尽きたのだろう
とにもかくにも解毒薬を所持していたレンスは男のもとへと急いだ
何事かと店長も後を追う
「あんた口は開ける!?」
レンスは男に問うがうつ伏せのまま反応がない
あとから来た店長はこの状況に驚いた
「ごめん染みるけどガマンして!」
口が無理なら と直接患部に解毒薬をすり込んだ
「うぁああああああああ!!!!!!!!!!」
絶叫し悶絶する男
レンスはその声に一瞬怯んだが治療を続ける
「これで…いいはずなんだけど……!」
解毒薬を塗り終えたレンスは
小刻みに震える自分の手を地面につき崩れ落ちた
男も解毒薬が効いたのか呼吸は穏やかに、静かに眠っている
これで癒術師が来てくれるまでは十分もつだろう
「レンスちゃんこれは一体……」
「あ、いえ…切り傷特集って本にこんなキズがあって
このひと毒なのかなぁって」
そんな本があるのか…という驚きの顔をした店長だが
同時にレンスの武器に対する知識にも驚いた
「あの……あたしなんだか力はいらなくて……
このひとの事おねがいします……」
初めて目の当たりにした重傷者に
応急手当をしたレンスの心拍数は異常なものだった
一度崩れおちた体がピクリともうごかない
「あ、あぁ 体力の回復ぐらいならできる薬があったはずだ
癒術師の手はずもわたしがやっておこう」
そういって店長は瀕死の男を担ぎ上げ店内の裏へ連れて行く
レンスはそれをみながら重すぎる体を何とか起こした
「店番……ほったらかしちゃったなぁ……
もうクビだあたし……うっ…うっ……」
目に涙をため嗚咽をあげながら
ふらふらとレンスは店を後にした
―――
「……懐かしいねぇ それでもうクビだとおもったからさ
開き直ってあたしは家にかえってやったんだよ」
ガチャガチャ……ガチャッ
急に家の扉が開いた
何事かといった表情でディラと母が見る
「あれ! きょうは早いじゃん!」
母が驚くのも無理はない
そこにはいつもより帰りが3時間も早い父がいた
「おう、今日は人が余ってよ
いらねぇなら帰らせてくれって言ったんだ」
「バカだなぁあんた ちょっとでも稼いでこないと~」
「おいおいそっちこそバカいうなよ
せっかくはやく帰ってきたんだ
たまにはみんなで外食にでもいこうぜ」
ディラと母が顔を見合わせてニカっとする
「私はお留守番しておきマすね」
この場合、正しい判断だが
ディラミスはそう答えた
ディラと母は顔を見合わせて頷く
「ディラミスちゃんもおいでよ
みんなで食べに行こ」
ディラもそうしようよ というように頷く
「ハイ、わかリましタ」
もちろん彼女は特に喜ぶわけでもなかったが
別にディラ母は気にしていなかった
たとえキカイでも
レンスにとって、母にとっては
娘が一人ふえたような気がしていたから
そしてディラは結局父母の馴れ初めを
最後まで聞くことはできなかったが
実はあまり興味がなく
まるでアニメのワンシーンのように
家族で手を繋いで夕陽の中へと消えていった
5日目―レンスという女―
まタ明日……
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