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7:グゴォ
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今日は一日中講義だった。途中で完全に寝てた気がするが、それはあくまでも気のせいだ。フタをしめていないペットボトルが机から落ちてフルーツオレが床にフルーティーな香りを塗りたくったのも、別に僕が机に突っ伏して熟睡していたせいではない。
長い坂道を登り、家についた時には、月が空にあがっていた。
今日はきちんと鍵を閉めたし、こんな時間だからあの姉弟も流石に来ていないだろう。
「...何処から入ってんの?」
と、いう非常にわかりやすいフラグは、ドアを開けた瞬間回収された。
というか、
「何見てんの?」
「お宝。」
本当にやめてほしい。
「ベッドとマットレスの間ねー。ちょっと捻ったみたいだけどまだ甘いですね。」
本当に返してほしい。それを真顔でガン見してる女子高生は見たくない。
姉さんの手には、僕の18歳の誕生日の深夜12時に、友達と買いに行った代物が収まっていた。
「佐藤さんこういうのがいいんだー。」
「いや、それは友達の」
床で寝転がっていた弟くんがグゴォ、と変ないびきをかいた。
「友達の?」
大きなつり目がじっと僕を射抜く。本当にこの子...この方の前世は、骨なしチキン(370円)なんだろうか。
「...2人の友達と僕の趣味の満場一致で購入しました。」
何を言わされてるんだ僕は。
「ここでとっても有益な取引をしませんか?」
姉さんは突然立ち上がって、ベランダへ出た。そして窓を開け、エ...お宝を天高く掲げた。
「ぉぁあぇぇええい?!?」
「佐藤さんいつも私たちに帰れって言いますよね?」
「きょ、今日は言ってない...!」
エ...お宝が風に吹かれてバサバサと音をたてる。
「私たちの自由な出入りを認めてくれなければ、これを公衆の面前に晒して」
いや、もう晒してる。
「佐藤さんの名前と住所を書いた上で風に飛ば」
「分かった!!分かった分かった!!それだけは勘弁してください!っていうかそれだけの為にそんなに過激なことする!?ただの死刑宣告だよそれ!社会的な!!」
姉さんは渋々といった感じで窓を閉めた。
「...あと、名前。」
「へぁ?」
僕は姉さんを止めようとした時の万歳のポーズのまま静止した。絶対人から見たら間抜けなポーズだ。
「佐藤さん、私...たちのこと、1回も名前で呼んだこと無いですよね。」
...それは、
「呼んでください。まさか名前覚えてないとか無いですよね?」
...覚えてるけど....。
「じゃあ、コイツの名前は?」
弟くんを指さす姉さん。
「あ、あぁ、もちろん覚えてるとも。彼は怪盗キッd」
脇腹に飛んできたチョップを間一髪でかわす。
「漢字が違います。」
「...海斗くんでしょ、覚えてるよ...。」
「じゃあ私の名前も覚えてますよね?」
「笠原(姉)」
姉さんがエ...お宝を再び取り上げた。
「な、なぁーんてね!冗談さ!」
じとっとした目線に耐える。
そうだな、おじいさんはあの鶏のことを、
「ポッピーちゃ」
窓を開ける姉さん。お宝を握った右手を大きく振りかぶった。
「あーーー!ごめんなさいごめんなさい!ちゃんと言います!」
「...なんでそんなに渋るんですか。」
「...舞さん?」
「私の方が年下です。」
「...舞ちゃん...?」
「...ほとんど年違わないのにすごい子供扱いされた気分ですけど、まあ1000歩譲って良しとします。」
「年下って言ったの君...じゃない、舞ちゃんの方でしょ!?」
名前は...あまり呼びたくない。
もし、僕が死んで、来世の''僕''が今の''僕''を思い出したとき、きっと彼は今の''僕''を調べるだろう。小学生だった僕がそうしたように。
そうすれば、自然に思い出してしまう。おじいさんのことも、ホテル客室員の男性のことも、そのまた前世の人達のことも。
前世を思いだすということは、死を思い出すことだ。
僕は6回死んだ。
もし来世の僕がそれを思い出せば、彼、もしくは彼女の精神状態は、今の僕より酷いことになるだろう。人とかかわるのを恐れ、漠然とした劣等感から抜け出せない、今の僕よりも。
おじいさんは馬鹿だった。多分彼は、来世が自分と、自分と関わりのある人を「思い出せるように」、会う人会う動物に名前を付けて呼んだ。確かに僕は、おじいさんの一生をすぐに思い出せた。一生を、死を。
純粋な善意のつもりでそうしたのなら、とんだ見当違いだ。
おじいさん自身も子供の頃、自分の前世で同じことを体験しただろうに。
長い坂道を登り、家についた時には、月が空にあがっていた。
今日はきちんと鍵を閉めたし、こんな時間だからあの姉弟も流石に来ていないだろう。
「...何処から入ってんの?」
と、いう非常にわかりやすいフラグは、ドアを開けた瞬間回収された。
というか、
「何見てんの?」
「お宝。」
本当にやめてほしい。
「ベッドとマットレスの間ねー。ちょっと捻ったみたいだけどまだ甘いですね。」
本当に返してほしい。それを真顔でガン見してる女子高生は見たくない。
姉さんの手には、僕の18歳の誕生日の深夜12時に、友達と買いに行った代物が収まっていた。
「佐藤さんこういうのがいいんだー。」
「いや、それは友達の」
床で寝転がっていた弟くんがグゴォ、と変ないびきをかいた。
「友達の?」
大きなつり目がじっと僕を射抜く。本当にこの子...この方の前世は、骨なしチキン(370円)なんだろうか。
「...2人の友達と僕の趣味の満場一致で購入しました。」
何を言わされてるんだ僕は。
「ここでとっても有益な取引をしませんか?」
姉さんは突然立ち上がって、ベランダへ出た。そして窓を開け、エ...お宝を天高く掲げた。
「ぉぁあぇぇええい?!?」
「佐藤さんいつも私たちに帰れって言いますよね?」
「きょ、今日は言ってない...!」
エ...お宝が風に吹かれてバサバサと音をたてる。
「私たちの自由な出入りを認めてくれなければ、これを公衆の面前に晒して」
いや、もう晒してる。
「佐藤さんの名前と住所を書いた上で風に飛ば」
「分かった!!分かった分かった!!それだけは勘弁してください!っていうかそれだけの為にそんなに過激なことする!?ただの死刑宣告だよそれ!社会的な!!」
姉さんは渋々といった感じで窓を閉めた。
「...あと、名前。」
「へぁ?」
僕は姉さんを止めようとした時の万歳のポーズのまま静止した。絶対人から見たら間抜けなポーズだ。
「佐藤さん、私...たちのこと、1回も名前で呼んだこと無いですよね。」
...それは、
「呼んでください。まさか名前覚えてないとか無いですよね?」
...覚えてるけど....。
「じゃあ、コイツの名前は?」
弟くんを指さす姉さん。
「あ、あぁ、もちろん覚えてるとも。彼は怪盗キッd」
脇腹に飛んできたチョップを間一髪でかわす。
「漢字が違います。」
「...海斗くんでしょ、覚えてるよ...。」
「じゃあ私の名前も覚えてますよね?」
「笠原(姉)」
姉さんがエ...お宝を再び取り上げた。
「な、なぁーんてね!冗談さ!」
じとっとした目線に耐える。
そうだな、おじいさんはあの鶏のことを、
「ポッピーちゃ」
窓を開ける姉さん。お宝を握った右手を大きく振りかぶった。
「あーーー!ごめんなさいごめんなさい!ちゃんと言います!」
「...なんでそんなに渋るんですか。」
「...舞さん?」
「私の方が年下です。」
「...舞ちゃん...?」
「...ほとんど年違わないのにすごい子供扱いされた気分ですけど、まあ1000歩譲って良しとします。」
「年下って言ったの君...じゃない、舞ちゃんの方でしょ!?」
名前は...あまり呼びたくない。
もし、僕が死んで、来世の''僕''が今の''僕''を思い出したとき、きっと彼は今の''僕''を調べるだろう。小学生だった僕がそうしたように。
そうすれば、自然に思い出してしまう。おじいさんのことも、ホテル客室員の男性のことも、そのまた前世の人達のことも。
前世を思いだすということは、死を思い出すことだ。
僕は6回死んだ。
もし来世の僕がそれを思い出せば、彼、もしくは彼女の精神状態は、今の僕より酷いことになるだろう。人とかかわるのを恐れ、漠然とした劣等感から抜け出せない、今の僕よりも。
おじいさんは馬鹿だった。多分彼は、来世が自分と、自分と関わりのある人を「思い出せるように」、会う人会う動物に名前を付けて呼んだ。確かに僕は、おじいさんの一生をすぐに思い出せた。一生を、死を。
純粋な善意のつもりでそうしたのなら、とんだ見当違いだ。
おじいさん自身も子供の頃、自分の前世で同じことを体験しただろうに。
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