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第7章 器

34話

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 武御磐分たけみいわけを相手にした戦闘指南が始まった。八対一。それも神器を装備しているにも関わらず、イナホ達は手も足も出ない。彼の繰り出す横一閃が、イナホ達を吹き飛ばす。武御磐分は武器を地面に突き立てると、
 「ふん、敵が悪神ともなれば、我のような加減無し!衣一つ切れぬなぞ、その斬鉄の刀、飾りか?」
 イナホは立ち上がると、
 「あ痛たた。もう!馬鹿にされっぱなしだよ」
 「神器を扱うなれば、剣術が全ての礎なり。敵を斬り、上手く受けねば八咫射弩やたのいどを生かす事かなわん」
 イナホ達は再び刀を握り直すと、また武御磐分に挑むのだった。しかし彼は、鉄をも容易く切るはずの秋ノ御太刀あきのみたちによる攻撃を、少々の刃こぼれ程度で防ぎきっている。再び武御磐分により放たれた一閃。凄まじい剣圧に皆が膝をついた。百花はうなだれ、
 「全然歯が立たない!やっぱり特務隊の腕利きの人が行った方が良いんじゃないの!?」
 そこに訓練を見に来たメイアは、
 「おいおい、今はお前らがその特務隊だろうに。もっと自覚持てよ?それに、師匠から一本取るのは、相当骨が折れるからな」
 息を切らすイナホが武御磐分を見据えたまま答える。
 「神器が無かったらほんとに折れてるかも・・・。母さんどうやって一本とったの?」
 「それは内緒だ、じゃあ頑張れよ」
 メイアが去っていった後、日付が変わる頃まで訓練は続き、宿舎に着くと皆一斉に倒れ込む。
 「げ、限界。時間が無いからって、詰め込みにもほどがあるよ」
 イナホはそう呟くと気を失うように眠りに落ちた。

 次の日、また次の日も訓練は続く。ツグミによる日本についての情報や、地球上の武器知識などの勉強会も開かれた。
 その間、愛数宿は境内にある霞み池を逆流させる実験を繰り返し、八人を同時に転送できるだけの時間を確保できる段階に近づいていた。

 武御磐分との戦闘も少し様になってきた頃、愛数宿に呼ばれ一同は霞み池の前に集まった。そこには何かの機械をいくつか手にした御産器老翁も居た。
 「ほっほ。カラクリの娘っ子よ。お前さんの量子じーぴーえす機能を真似して発信機を作ってみたんじゃ。ちと信号が拾えるか試してみてくれんかのう」
 「はい。・・・シグナルが三つ。正常に機能しているようです」
 「良かった良かった。こいつを今から日本に流そうと思っての。お前さん達がバラバラの地点に流されては困るからのう。てすとじゃ、てすと。ほっほ」

 すると、愛数宿が意識を集中し、不思議な力を霞み池に注ぎ始めた。池の靄が桃色から青に変化し、愛数宿が頷くと、御産器老翁は発信機を一つ投げ入れた。そして少し時間を置き、同じ事をもう二度ほど繰り返すとツグミに、
 「どうじゃ?」
 「はい。三つとも日本の同じ地点にたどり着いたようです。これは関東と呼ばれる地域ですね。かなりノイズ混じりですが、映像も受信しました。人の姿は確認できません・・・・。一面荒れ果てていますね」
 そう話していると霞み池が元の色に戻った。
 「そうか、しかし一先ず、不安材料が一つ消えたのは良かったのう。通信機能も載せてはみたんじゃが、思うような性能が、どういう訳か出ていないようじゃ。向こうへ行ったら、こちらとは思うようにやり取りが出来んかもしれん」
 「秋津国の特殊な立ち位置。世界の構造が何か影響しているのかもしれません」
 愛数宿が少し疲労の色を見せつつ、調査班に向かい、
 「これでほぼ、霞み池反転の儀は完成と言えるでしょう。あなた方を送る日には巫女達にも協力してもらい、より安定した力で日本への道を開きます。あとはあなた方の覚悟と準備が整い次第です」
 その言葉に、改めて身を引き締めたイナホ達。話し合いにより、決行は四日後。あと二日は訓練と準備をし、最後の一日は各々で過ごす時間と決めたのだった。

 そして決行前日。短い時間だが、それぞれは家族と過ごしてきた様で、夜になると本部に皆が戻ってきた。目元が少し赤い者もいる。最終的な打ち合わせが特務隊内で行われると、調査班は団結の意思を示した。
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