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第3章 母の足跡
12話
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境内の清掃を終えると、イナホ達は拝殿内の神鏡の前に連れてこられた。鏡を挟んで向かいに立つ武御磐分が、少し意識を集中すると、鏡にぼんやりと像が浮かび上がった。
「これより見せるは、我の過去の記憶。イナホよ、汝にはその事実、酷な事もあるやもしれん。よいな?」
「はい、お願いします!」
イナホが強い意思を示すと、鏡の中の像が鮮明になっていく。
十四年前の大社。そこは秋津国の最高神、愛数宿が住まう、広大な敷地を有する山の上の神殿である。
メイアは、武と力を司る神の誕生を聞きつけ、そこを訪れていたようだった。まだ近衛特務隊の設立前、愛数宿の最重要警護を、付きっきりでしていた武御磐分。その彼に会いたいと、しつこく懇願するメイアに困り果てた巫女と宮司が、武御磐分の元にやって来ていた。
中から出てきた武御磐分は、剣術の稽古をつけてほしいと懇願するメイアを見て、とても刀など振るえそうもないと、一度は鼻であしらおうとする。だが、彼女の瞳に宿る、覚悟と狂気にも似た感情を見抜いた武御磐分は、人の道を踏み外さぬようその願いを飲んだのだった。
稽古を開始してすぐに、人並み外れた身体能力を見せるメイア。武御磐分は、イナホ同様にその力の異様さに、メイアの身を案じた。
境内の隅で剣を振るうメイア。大して息を切らさずに続ける彼女に、武御磐分は力の代償について問うと、意外にもすんなりそれを話した。
「それで!?母さんは何て言ってたのっ?」
「うむ・・・・」
「今すぐにどうということはないが、寿命を少し捧げた、とでも言えばいいだろうか。私の作った強化細胞、これでも極限まで副作用を抑えたが、テロメアを少しづつ食うんだ。だがその代わり、身体、脳機能の飛躍的な向上をもたらす。なんでも吸収する育ち盛りの子供時代が、数倍になったようなもんだ。もちろん研究はネズミか自分にしか試してないし、成果が得られた後は全て破棄してきた。良からぬ使い方をする奴が出るといけないからな。まぁ、真似して作って、不完全なものを使えば、悲惨な死に方をするだろう」
そう語り、再び練習台に向き合うと、別の一連の動作の稽古を始めた。その背中に、武御磐分は問いかける。
「その様な危うげな細工までし、汝は何と向き合う?汝は、一人娘を持つと聴いた・・・・」
「ああ。あの子は私が居なくても育つ。だが今の私は、復讐を奪われたら、正直どうしていいかわからない。そうだな・・・、一番の代償は、あの子との時間かもしれないな」
鏡の像が消えると、武御磐分はイナホを見据えた。
「いかほどまで生を全う出来るか、あの一番弟子は語らず。しかし、今、我の記憶にて語りし事は、何人にも他言無用と申していた。しかし、汝には知り得る権利有り」
頷きながら少しショックを受けるイナホ。
「そっか・・・。私の想像してた、戦闘の度に何か強い負荷がかかってるっていう事ではないのは、少し安心したけど。母さん寿命まで削って・・・。それに、全然強くなかった!強くないから、復讐なんか続けて・・・・」
横に居たツグミは、俯くイナホにそっと手を添える。その手をぎゅっと握り返し、武御磐分を見るイナホは、
「私にはまだ分からないけど、一番大切な人を亡くしたんだもんね・・・。そうだ、武御磐分様は、私の父さんの事は聞いてない?写真ですら顔見た事なくて」
「黒き異形により、その命を落としたというメイアの名付けか。確か三月と申したか。しかしながら、我も名を聞くだけに留まり、汝の期待には沿えぬ」
「三月・・・。それが、父さんの名前・・・・」
「・・・・イナホよ、今日、黒き異形を特務隊が如何にして斬れるようになったか、存じているか?」
「それは御産器老翁神様が、レゾナンスブレードを開発したからじゃないんですか?父さんと何か関係が?」
「三月の功績無しにして、今日があらず」
そう言うと、再び鏡に向かい意識を集中しだした。
「これより見せるは、我の過去の記憶。イナホよ、汝にはその事実、酷な事もあるやもしれん。よいな?」
「はい、お願いします!」
イナホが強い意思を示すと、鏡の中の像が鮮明になっていく。
十四年前の大社。そこは秋津国の最高神、愛数宿が住まう、広大な敷地を有する山の上の神殿である。
メイアは、武と力を司る神の誕生を聞きつけ、そこを訪れていたようだった。まだ近衛特務隊の設立前、愛数宿の最重要警護を、付きっきりでしていた武御磐分。その彼に会いたいと、しつこく懇願するメイアに困り果てた巫女と宮司が、武御磐分の元にやって来ていた。
中から出てきた武御磐分は、剣術の稽古をつけてほしいと懇願するメイアを見て、とても刀など振るえそうもないと、一度は鼻であしらおうとする。だが、彼女の瞳に宿る、覚悟と狂気にも似た感情を見抜いた武御磐分は、人の道を踏み外さぬようその願いを飲んだのだった。
稽古を開始してすぐに、人並み外れた身体能力を見せるメイア。武御磐分は、イナホ同様にその力の異様さに、メイアの身を案じた。
境内の隅で剣を振るうメイア。大して息を切らさずに続ける彼女に、武御磐分は力の代償について問うと、意外にもすんなりそれを話した。
「それで!?母さんは何て言ってたのっ?」
「うむ・・・・」
「今すぐにどうということはないが、寿命を少し捧げた、とでも言えばいいだろうか。私の作った強化細胞、これでも極限まで副作用を抑えたが、テロメアを少しづつ食うんだ。だがその代わり、身体、脳機能の飛躍的な向上をもたらす。なんでも吸収する育ち盛りの子供時代が、数倍になったようなもんだ。もちろん研究はネズミか自分にしか試してないし、成果が得られた後は全て破棄してきた。良からぬ使い方をする奴が出るといけないからな。まぁ、真似して作って、不完全なものを使えば、悲惨な死に方をするだろう」
そう語り、再び練習台に向き合うと、別の一連の動作の稽古を始めた。その背中に、武御磐分は問いかける。
「その様な危うげな細工までし、汝は何と向き合う?汝は、一人娘を持つと聴いた・・・・」
「ああ。あの子は私が居なくても育つ。だが今の私は、復讐を奪われたら、正直どうしていいかわからない。そうだな・・・、一番の代償は、あの子との時間かもしれないな」
鏡の像が消えると、武御磐分はイナホを見据えた。
「いかほどまで生を全う出来るか、あの一番弟子は語らず。しかし、今、我の記憶にて語りし事は、何人にも他言無用と申していた。しかし、汝には知り得る権利有り」
頷きながら少しショックを受けるイナホ。
「そっか・・・。私の想像してた、戦闘の度に何か強い負荷がかかってるっていう事ではないのは、少し安心したけど。母さん寿命まで削って・・・。それに、全然強くなかった!強くないから、復讐なんか続けて・・・・」
横に居たツグミは、俯くイナホにそっと手を添える。その手をぎゅっと握り返し、武御磐分を見るイナホは、
「私にはまだ分からないけど、一番大切な人を亡くしたんだもんね・・・。そうだ、武御磐分様は、私の父さんの事は聞いてない?写真ですら顔見た事なくて」
「黒き異形により、その命を落としたというメイアの名付けか。確か三月と申したか。しかしながら、我も名を聞くだけに留まり、汝の期待には沿えぬ」
「三月・・・。それが、父さんの名前・・・・」
「・・・・イナホよ、今日、黒き異形を特務隊が如何にして斬れるようになったか、存じているか?」
「それは御産器老翁神様が、レゾナンスブレードを開発したからじゃないんですか?父さんと何か関係が?」
「三月の功績無しにして、今日があらず」
そう言うと、再び鏡に向かい意識を集中しだした。
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