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第八章 眼
第十五話
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翌日、樹達の四人はとあるアパートの部屋の前に居た。屋代がインターホンを鳴らすと、みすぼらしい格好をした小太りの四十代後半ほどの男が気怠そうに顔を出す。
屋代と真琴が警察手帳を見せると男はドアを閉めようとするが、すかさず屋代がつま先でドアが閉まるのを阻止する。
「葛丘亮太か?過去の事でいくつか話を聞きたい」
男は歯が数本抜けているのか、滑舌悪く悪態をつく。
「お、俺は近頃じゃあ何もやってねぇ。話す事なんてねぇ!」
「別に逮捕しに来たわけじゃあない。それとも、こんな玄関先で女児に付きまとった件を、大声で問いただされたいか?ここには今後住みにくくなるだろうなぁ」
目と眉をしかめると、男はドアノブを握る力を緩めた。
「わ、わかった。どうすればいい?」
「とりあえず部屋へ上がらせてもらえるか?」
男は屋代の後ろに控える真琴と舞果の姿を捉えると、ニタっと不潔そうな歯を覗かせ、一行の入室を許可した。汚らしく散らかった室内が見えると、舞果だけは断りなく当然の権利を主張する様に、土足で玄関を上がっていった。
亮太だけを居間の椅子に座らせ、四人は彼を囲むように立つ。そして姉弟は、持っていた鞄からそれぞれ人形を取り出し、それを持ちながら手を男の頭にかざす。
「な、なんだあ、これは・・・・」
そう男はキョロキョロと姉弟を不快そうに見上げる。屋代はいつもより低めの声で、
「お前は気にするな。俺の質問にだけ答えればいい」
「一体何の真似なんだあ、気に食わねえやあ」
「お前、若い頃から色々やらかしてたな。記録には無かったみたいだが、父親の病院での盗撮で捕まってからも、盗みは続けていたのか?」
「やってねえってば・・・・」
その言葉の後、樹は嘘をついていると屋代に伝えると、舞果も続いて頷いた。すると男は激情し、
「でたらめを言うな!この若造は何なんだ!」
「いいから質問に答えろ。この中に盗んだ覚えのある物はあるか?」
そう言って屋代は男を鋭く睨みながら、人形殺人で使われた人形の写真を見せる。
「だ、だから盗みなんてやってねえって言ってるだろ」
「別に捕まえに来た訳じゃないと言っただろう。いいからよく見るんだ」
「見たら帰ってくれよ?」
男は雑に屋代の手から写真を奪い取ると、不機嫌な表情で写真を一枚一枚めくっていく。
「全部人形でねぇか。こんな金にもならんもん誰が盗むか」
男はそう言って写真を屋代に突き返す。不快害虫でも見るかのような目で、男の話を聞いていた舞果は屋代に伝える。
「嘘はついていないようだわ。でも、女性の下着なんて何に使うのかしら?そこの引き出しにあるでしょう?それも沢山」
舞果が指差す部屋の隅に置かれた箪笥の引き出しを真琴が開けると、女性物の下着が大量に出てくる。真琴はため息をつきながらその中の一つを手に取り、いつもはしないような冷たい口調で男を問い詰める。
「これ子供用のですよね?正直に話せば、これは見なかったことにしますが、最近報告にあった女児への付きまとい、本当にそれだけですか?」
「それ以上の事は、な、何も・・・・」
さっきより念入りに意識を集中させ、舞果は淡々と真琴達に伝える。
「服越しとはいえ、体を撫でまわしたのはそれ以上の事ではないのかしら?」
「さ、さっきから何なんだこの嬢ちゃんは!?正直に言えば無かった事にしてくれるんだよな?い、一回だけだ!」
それを聞いた屋代は厳しい剣幕で男の頭を掴み、テーブルへと押さえつける。
「ひ、卑怯だぞ!正直に言っただ!暴力まで振るうたあ!」
「うるせえ、おめぇみてーなクズ捕まえんのが仕事なんだよ。ついでにもう一つ質問だ。お前、人を殺した事はあるか?」
「ねえ!ねーよ!」
姉弟は殺人に関する記憶がない事を確かめると、屋代を見て残念そうに首を横に振る。屋代は舌打ちをし、男の頭から手を放した。
尚も増してボサボサ頭になった男は、怯えた調子で言葉を漏らす。
「い、一体なんだってんだよう。それにお前ら人形なんか持ちよって。親父の潰れた病院に居た奴の知り合いか何かか?」
四人はその言葉にハッとする。屋代がそれを詳しく話せと言い、姉弟は再び男の頭に手をかざす。男は若干逆らうのを諦めた様に話し出した。
「こ、これでもよう、親父の命日には花あげに行ってんだ。親父が死んだあの場所に。十年以上前の事だが、不気味な奴だったからよく覚えてんだ。廃墟になったあの中でよ、人形が顔覗かしたリュックサックを背負って、何か一人でブツブツ呟きながら、ほったらかされたカルテとかを漁ってたんだ」
屋代はそれを聞き少し不思議に思う。
「確かに不審な奴だが、ただの肝試しや廃墟マニアじゃないのか?なんでそんなにそいつが印象に残ってるんだ?」
「不気味なのはよ、人形の方だあ。俺は面倒事を避けたくて、奴が帰るまで影で様子を窺ってたんだあ。そしたらよう、動くんだよ、人形の目玉が。こう、ギョロギョロって」
樹がその証言について伝える。
「今の話は事実の様です。ですが、肝心の男の顔はずっと後ろを向いている記憶しかないようですね」
亮太は樹を見上げ、調子づいて笑顔を見せた。
「そう、そうなんだよ!良く分かるな兄ちゃん」
樹はそんな男を無視して、舞果に耳打ちをする。
「念のためこの記憶は人形に保存しておくよ、姉さん」
屋代は先ほどから黙って見ている真琴に次の行動を伝える。
「その人形を背負った男が、何を調べていたか気になるな。今も何か残っているか分からないが廃病院に向かおう」
「はい。窃盗と強制わいせつの容疑で連行するよう、仲間に伝えておきます」
それを聞いた男は四人の去り際に騒ぎ立てる。
「くそ!こんなのありか!きたねえやり口だあ!男の恐さを知らねえ生娘があ。覚えてろぅ!」
真琴は少しも臆することなく、男に怒りを滲ませながら告げる。
「我々を部屋に招き入れたのはあなたです。せいぜい逃げようなどとは思わないでください。ご協力、感謝します!!」
小声で悪態を吐き続け、うなだれる男。四人はアパートを後にすると、例の廃病院へと向かった。
屋代と真琴が警察手帳を見せると男はドアを閉めようとするが、すかさず屋代がつま先でドアが閉まるのを阻止する。
「葛丘亮太か?過去の事でいくつか話を聞きたい」
男は歯が数本抜けているのか、滑舌悪く悪態をつく。
「お、俺は近頃じゃあ何もやってねぇ。話す事なんてねぇ!」
「別に逮捕しに来たわけじゃあない。それとも、こんな玄関先で女児に付きまとった件を、大声で問いただされたいか?ここには今後住みにくくなるだろうなぁ」
目と眉をしかめると、男はドアノブを握る力を緩めた。
「わ、わかった。どうすればいい?」
「とりあえず部屋へ上がらせてもらえるか?」
男は屋代の後ろに控える真琴と舞果の姿を捉えると、ニタっと不潔そうな歯を覗かせ、一行の入室を許可した。汚らしく散らかった室内が見えると、舞果だけは断りなく当然の権利を主張する様に、土足で玄関を上がっていった。
亮太だけを居間の椅子に座らせ、四人は彼を囲むように立つ。そして姉弟は、持っていた鞄からそれぞれ人形を取り出し、それを持ちながら手を男の頭にかざす。
「な、なんだあ、これは・・・・」
そう男はキョロキョロと姉弟を不快そうに見上げる。屋代はいつもより低めの声で、
「お前は気にするな。俺の質問にだけ答えればいい」
「一体何の真似なんだあ、気に食わねえやあ」
「お前、若い頃から色々やらかしてたな。記録には無かったみたいだが、父親の病院での盗撮で捕まってからも、盗みは続けていたのか?」
「やってねえってば・・・・」
その言葉の後、樹は嘘をついていると屋代に伝えると、舞果も続いて頷いた。すると男は激情し、
「でたらめを言うな!この若造は何なんだ!」
「いいから質問に答えろ。この中に盗んだ覚えのある物はあるか?」
そう言って屋代は男を鋭く睨みながら、人形殺人で使われた人形の写真を見せる。
「だ、だから盗みなんてやってねえって言ってるだろ」
「別に捕まえに来た訳じゃないと言っただろう。いいからよく見るんだ」
「見たら帰ってくれよ?」
男は雑に屋代の手から写真を奪い取ると、不機嫌な表情で写真を一枚一枚めくっていく。
「全部人形でねぇか。こんな金にもならんもん誰が盗むか」
男はそう言って写真を屋代に突き返す。不快害虫でも見るかのような目で、男の話を聞いていた舞果は屋代に伝える。
「嘘はついていないようだわ。でも、女性の下着なんて何に使うのかしら?そこの引き出しにあるでしょう?それも沢山」
舞果が指差す部屋の隅に置かれた箪笥の引き出しを真琴が開けると、女性物の下着が大量に出てくる。真琴はため息をつきながらその中の一つを手に取り、いつもはしないような冷たい口調で男を問い詰める。
「これ子供用のですよね?正直に話せば、これは見なかったことにしますが、最近報告にあった女児への付きまとい、本当にそれだけですか?」
「それ以上の事は、な、何も・・・・」
さっきより念入りに意識を集中させ、舞果は淡々と真琴達に伝える。
「服越しとはいえ、体を撫でまわしたのはそれ以上の事ではないのかしら?」
「さ、さっきから何なんだこの嬢ちゃんは!?正直に言えば無かった事にしてくれるんだよな?い、一回だけだ!」
それを聞いた屋代は厳しい剣幕で男の頭を掴み、テーブルへと押さえつける。
「ひ、卑怯だぞ!正直に言っただ!暴力まで振るうたあ!」
「うるせえ、おめぇみてーなクズ捕まえんのが仕事なんだよ。ついでにもう一つ質問だ。お前、人を殺した事はあるか?」
「ねえ!ねーよ!」
姉弟は殺人に関する記憶がない事を確かめると、屋代を見て残念そうに首を横に振る。屋代は舌打ちをし、男の頭から手を放した。
尚も増してボサボサ頭になった男は、怯えた調子で言葉を漏らす。
「い、一体なんだってんだよう。それにお前ら人形なんか持ちよって。親父の潰れた病院に居た奴の知り合いか何かか?」
四人はその言葉にハッとする。屋代がそれを詳しく話せと言い、姉弟は再び男の頭に手をかざす。男は若干逆らうのを諦めた様に話し出した。
「こ、これでもよう、親父の命日には花あげに行ってんだ。親父が死んだあの場所に。十年以上前の事だが、不気味な奴だったからよく覚えてんだ。廃墟になったあの中でよ、人形が顔覗かしたリュックサックを背負って、何か一人でブツブツ呟きながら、ほったらかされたカルテとかを漁ってたんだ」
屋代はそれを聞き少し不思議に思う。
「確かに不審な奴だが、ただの肝試しや廃墟マニアじゃないのか?なんでそんなにそいつが印象に残ってるんだ?」
「不気味なのはよ、人形の方だあ。俺は面倒事を避けたくて、奴が帰るまで影で様子を窺ってたんだあ。そしたらよう、動くんだよ、人形の目玉が。こう、ギョロギョロって」
樹がその証言について伝える。
「今の話は事実の様です。ですが、肝心の男の顔はずっと後ろを向いている記憶しかないようですね」
亮太は樹を見上げ、調子づいて笑顔を見せた。
「そう、そうなんだよ!良く分かるな兄ちゃん」
樹はそんな男を無視して、舞果に耳打ちをする。
「念のためこの記憶は人形に保存しておくよ、姉さん」
屋代は先ほどから黙って見ている真琴に次の行動を伝える。
「その人形を背負った男が、何を調べていたか気になるな。今も何か残っているか分からないが廃病院に向かおう」
「はい。窃盗と強制わいせつの容疑で連行するよう、仲間に伝えておきます」
それを聞いた男は四人の去り際に騒ぎ立てる。
「くそ!こんなのありか!きたねえやり口だあ!男の恐さを知らねえ生娘があ。覚えてろぅ!」
真琴は少しも臆することなく、男に怒りを滲ませながら告げる。
「我々を部屋に招き入れたのはあなたです。せいぜい逃げようなどとは思わないでください。ご協力、感謝します!!」
小声で悪態を吐き続け、うなだれる男。四人はアパートを後にすると、例の廃病院へと向かった。
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