32 / 38
03 おどろなるもの
嫌な雨の日に
しおりを挟む
09
どんよりと嫌な雲行きで、雨が降りしきるある日の午後。
ニコラは自室の中、ひとりで待機していた。
「サマンサ…無事でいて」
声に出しても応えるものはいない。
出て行ったきり戻らないサマンサを探しに行きたいが、霊障が発生して外出禁止令が出ていては待機するほかない。
ニコラは、サマンサが霊障に巻き込まれたことを確信していた。
それは、午前中、朝食が終わった後のことだった。
「ねえニコラ、このままなにもしないつもりなの?」
「そういうことじゃないけど…」
不満顔で聞いてくるサマンサに、ニコラは歯切れ悪く応答する。
サマンサが言っているのはシャルルのことだ。
ユリアンナに対して、シャルルとお付き合いするのは自分だ。諦めてくださいと言わなければならない。
なのに、なにもできないまま時間だけが過ぎてしまったのだ。
「明日、モンターニュ公爵家で午餐会がある。
ようするにお披露目だよ。
“私たち結婚します”って宣言する場だってこと、わかってるでしょ?」
「わかってるよ…!わかってるけど…」
ここ一番と言うところで決断力に欠ける自分が、ニコラは恨めしかった。
自分の、そしてシャルルの気持ちを信じられず、踏み出すことができない。
ニコラの煮え切らない態度に、サマンサがなにかを決意した表情になる。
「ニコラ、こういうの早い者勝ちだよね?」
「え…?」
「ちょっと行ってくるから」
そう言って、サマンサは部屋を出て行ってしまった。
(何となく察してたけど…)
ニコラは膝を抱えながら思う。
同じ女体化したもと男だ。
恋の波動は読める。
サマンサはシャルルのことが好きだが、自分に遠慮していた。
それは漠然とだがわかっていたのだ。
(私が煮え切らないばかりに…)
サマンサがシャルルへの思いや自分に対する嫉妬、そして横恋慕するやましさを悪霊につけ込まれてしまったのだとしたら…。
(考えすぎだといいけど…。でも…もしシャルルがサマンサの告白を受けてしまったら?
シャルルとサマンサがお付き合いしていることに…私は耐えられる…?)
ニコラの思考は完全に負のスパイラルに陥っていた。
全部が自分のせいに思えた。
自分が結果のことなど考えず、シャルルにお付き合いを申し込んでいたら、最初から何の問題も起きなかったのだ。
その時だった。
「ぐううううっ!」
突然、外に爆発音が走り、男の悲鳴が聞こえたのだ。
恐る恐るカーテンをめくって外をうかがう。
(サマンサ…なんてこと…!)
騒ぎの中心にいたのはサマンサだった。
自慢の長く美しい金髪は、雨に濡れてみる影もない。
その顔には何の表情も浮かべていない。
いつもの快活でにこやかな彼女とは全く違った。
(悪霊に取り込まれている…)
ニコラは確信する。
学園の司祭や近隣の教会から派遣されてきた聖職者たちは、手をつかねているらしい。
サマンサを遠巻きに包囲したまま動けずにいる。
その中には、寮母も勤めるカトリーナの姿もあった。
「!?」
サマンサはノーモーションで瞬間移動するような動きを見せる。
なにが起きたのかまったくわからなかった。
気がつけば、10メートルも先にいた司祭にひとりにサマンサが抱きついていた。
司祭は暴れるが、小柄で華奢なサマンサを引きはがすことができない。
やがて彼は体をけいれんさせながら地面に倒れ伏した。
「生気を吸われてる…?」
ニコラはなんとなく察した。
悪霊がもたらす災いにもいろいろあるが、憑依した者の体を通して生者の生気を吸い取って衰弱させるといううわさを聞いたことがある。
「なんとかしないと…」
外出禁止令などどうでもよかった。
あのままでは、いずれ自分も巻き込まれてしまう。
とにかくできることをやってみなければ。
そんな思いに駆られたニコラは、部屋を飛び出していた。
どんよりと嫌な雲行きで、雨が降りしきるある日の午後。
ニコラは自室の中、ひとりで待機していた。
「サマンサ…無事でいて」
声に出しても応えるものはいない。
出て行ったきり戻らないサマンサを探しに行きたいが、霊障が発生して外出禁止令が出ていては待機するほかない。
ニコラは、サマンサが霊障に巻き込まれたことを確信していた。
それは、午前中、朝食が終わった後のことだった。
「ねえニコラ、このままなにもしないつもりなの?」
「そういうことじゃないけど…」
不満顔で聞いてくるサマンサに、ニコラは歯切れ悪く応答する。
サマンサが言っているのはシャルルのことだ。
ユリアンナに対して、シャルルとお付き合いするのは自分だ。諦めてくださいと言わなければならない。
なのに、なにもできないまま時間だけが過ぎてしまったのだ。
「明日、モンターニュ公爵家で午餐会がある。
ようするにお披露目だよ。
“私たち結婚します”って宣言する場だってこと、わかってるでしょ?」
「わかってるよ…!わかってるけど…」
ここ一番と言うところで決断力に欠ける自分が、ニコラは恨めしかった。
自分の、そしてシャルルの気持ちを信じられず、踏み出すことができない。
ニコラの煮え切らない態度に、サマンサがなにかを決意した表情になる。
「ニコラ、こういうの早い者勝ちだよね?」
「え…?」
「ちょっと行ってくるから」
そう言って、サマンサは部屋を出て行ってしまった。
(何となく察してたけど…)
ニコラは膝を抱えながら思う。
同じ女体化したもと男だ。
恋の波動は読める。
サマンサはシャルルのことが好きだが、自分に遠慮していた。
それは漠然とだがわかっていたのだ。
(私が煮え切らないばかりに…)
サマンサがシャルルへの思いや自分に対する嫉妬、そして横恋慕するやましさを悪霊につけ込まれてしまったのだとしたら…。
(考えすぎだといいけど…。でも…もしシャルルがサマンサの告白を受けてしまったら?
シャルルとサマンサがお付き合いしていることに…私は耐えられる…?)
ニコラの思考は完全に負のスパイラルに陥っていた。
全部が自分のせいに思えた。
自分が結果のことなど考えず、シャルルにお付き合いを申し込んでいたら、最初から何の問題も起きなかったのだ。
その時だった。
「ぐううううっ!」
突然、外に爆発音が走り、男の悲鳴が聞こえたのだ。
恐る恐るカーテンをめくって外をうかがう。
(サマンサ…なんてこと…!)
騒ぎの中心にいたのはサマンサだった。
自慢の長く美しい金髪は、雨に濡れてみる影もない。
その顔には何の表情も浮かべていない。
いつもの快活でにこやかな彼女とは全く違った。
(悪霊に取り込まれている…)
ニコラは確信する。
学園の司祭や近隣の教会から派遣されてきた聖職者たちは、手をつかねているらしい。
サマンサを遠巻きに包囲したまま動けずにいる。
その中には、寮母も勤めるカトリーナの姿もあった。
「!?」
サマンサはノーモーションで瞬間移動するような動きを見せる。
なにが起きたのかまったくわからなかった。
気がつけば、10メートルも先にいた司祭にひとりにサマンサが抱きついていた。
司祭は暴れるが、小柄で華奢なサマンサを引きはがすことができない。
やがて彼は体をけいれんさせながら地面に倒れ伏した。
「生気を吸われてる…?」
ニコラはなんとなく察した。
悪霊がもたらす災いにもいろいろあるが、憑依した者の体を通して生者の生気を吸い取って衰弱させるといううわさを聞いたことがある。
「なんとかしないと…」
外出禁止令などどうでもよかった。
あのままでは、いずれ自分も巻き込まれてしまう。
とにかくできることをやってみなければ。
そんな思いに駆られたニコラは、部屋を飛び出していた。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
【R18】注文の多い料理店【TS】ー完結ー
ジオラマ
大衆娯楽
【19年12月19日、完結しました】
完結済みにて、「小説家になろう」にも掲載しています。
https://ncode.syosetu.com/n8657fx/1/
山道に迷ったオレが入ったのは『注文の多い料理店』だった。
そこは、男を女に変える呪われたレストラン。
オレは気が付かないうちに、どんどん料理されていく。
女に変えられていく。
果たしてオレはここから抜け出すことができるのか。
メス化の毒牙から逃れることができるのか。
-----
キーワード: 密室調教、監禁、監禁調教、性転換、TS、TS、倒錯、性感開発、洗脳、美少女、性描写あり、メス化、雌化、牝化、メスイキ、メス堕ち、女性ホルモン、媚薬、注射、埋め込み、エッチ、エロ、あまあま、和姦、変態、可愛い受け、らぶえっち、無理やり、言葉攻め
*宮沢賢治先生の代表作『注文の多い料理店』のオマージュです。
*性転換(TS)の要素が含まれますので、苦手な方はご遠慮ください。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました
やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>
フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。
アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。
貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。
そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……
蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。
もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「…………はぁ?」
断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。
義妹はなぜ消えたのか……?
ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?
義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?
そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?
そんなお話となる予定です。
残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……
これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……
多分、期待に添えれる……かも?
※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。
buddy ~絆の物語~
AYANO
恋愛
小学校5年生の夏。芸能事務所GEMSTONEの元木浩輔にスカウトされ、練習生として入所することになった僚、明日香、深尋、竣亮、誠、隼斗の6人。高校1年の冬ダンス&ボーカルグループ「buddy」としてデビューすることに。
いなくなって初めて大切な存在に気づく僚、気持ちを伝えられない明日香、望みのない恋をする深尋、過去の傷を克服したい竣亮、一途に1人を思い続ける誠、明日香を守りたい隼斗。恋愛、家族愛、友情を通して成長していく6人の幼馴染の20年に渡る物語。
6人の話を中心に進みます。芸能界の話は薄めです
物語は小学生からスタートし、大人へと成長する過程を楽しんでいただけたらと思います。
大学生編からはR15指定になります。
※※※毎日21:00に更新※※※
エブリスタでは先行公開中
小説家になろうでも公開中
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】入れ替わった双子の伯爵令息は、優美で獰猛な獣たちの巣食う復讐の檻に囚われる
.mizutama.
BL
『僕は殺された。
この世でたった一人の弟である君に、僕は最初で最後のお願いをしたい。
僕を殺した犯人を、探し出してくれ。
――そして、復讐して欲しい』
山間の小さな村でひっそりと暮らしていた、キース・エヴァンズ。
存在すら知らされていなかった双子の兄、伯爵令息のルイ・ダグラスの死をきっかけに、キースは兄としての人生を歩むことになる。
――視力を取り戻したキースが見た、兄・ルイが生きてきた世界は、憎悪と裏切りに満ちていた……。
美しき執事、幼馴染、従兄弟、王立学院のライバルたち……。
「誰かが『僕』を殺した」
双子の兄・ルイからのメッセージを受け取ったキースは「ルイ・ダグラス」となり、兄を殺害した真犯人を見つけだすことを誓う。
・・・・・・・・・・・・
この作品は、以前公開していた作品の設定等を大幅に変更して改稿したものです。
R18シーンの予告はありません。タグを確認して地雷回避をお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる