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03 おどろなるもの

恋路に障害が?

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03

 「ニコラ、大変だよ!」
 「どうしたの、サマンサ」
 ある休日の午後、寮の自室で勉強をしていたニコラは、血相を変えて駆け込んできたサマンサに驚く。
 サマンサは肝が据わっている。
 多少のことで慌てることはない。
 実際、これだけ慌てているサマンサを見るのは初めてだ。
 「シャルルが…シャルルが婿養子に入るかも知れないんだよ!」
 「え…?」
 寝耳に水の話だった。
 サマンサは水差しの水でのどを潤すと説明していく。
 
 シャルルはモンターニュ公爵家の嫡子だ。
 だが、出自は少し複雑なのだ。
 シャルルの父親は、ゼルドリッツ公国の大公家の末子だった。
 親戚であるモンターニュ公爵家に世継ぎの男子がおらず、後継ぎ争いを避ける意味もあり、婿養子に出されていたのだ。
 ところが、今度はゼルドリッツの大公家に問題が発生する。
 不幸が重なり、大公位の継承者たちが病気で相次いで亡くなってしまう。
 繰り上がる形で時期大公とされたのは、シャルルのいとこおばに当たる女性、ユリアンナだった。
 だが、問題が山積していた。
 問題は主に3つ。
 1つは、ユリアンナは大公家の分家筋であり、今の大公から血筋的に離れすぎている。
 2つめに、ユリアンナはバツイチで独身であり、子供もいない。
 最後に、ユリアンナは妾の子であり、大公位継承に足る出自かどうか疑問が呈されている。
 つまり、ユリアンナが大公に即位したとしても、立場が極めて不安定になってしまうことが予想されたのだ。
 跡目争いやお家騒動が危惧されていた。
 それやこれやの問題の善後策が協議される。
 そこで持ち上がったのが、父が養子に出されたとはいえ、現大公の直系の孫であるシャルルをユリアンナの婿養子とするという策だった。
 2人のあいだに子供が生まれれば、それは正統なる大公家の血脈ということになるのだ。
なんと、シャルルに会いにユリアンナがすでにこの町に来ているというのだ。
 
 「すでに29歳のおばさんと甘く見るなかれ。
 すごくきれいで気立てのいい女の人。
 それに、色っぽくて床上手だってもっぱらのうわさだよ」
 サマンサは自分のことのように心配なようだ。
 (シャルルはどう考えているだろう…?)
 ニコラはサマンサの言葉に、急に不安になってくる。
 貴族の子女となれば、自分の考えばかりで身のふりを決めることはできない。
 まして、ゼルドリッツ公国の大公位の継承が絡んでいるとなれば、シャルルとユリアンナの縁談は強引にでも進められてしまうかも知れない。
 それに、元は男である自分より、生まれたときから女である人の方が抵抗がないかも知れない。
 なにより、ずっと煮え切らずにシャルルを待たせてきたのが自分だ。
 ユリアンナに優しくされれば、シャルルはなびいてしまうかも知れない。
 悪く考え始めると、ネガティブな思考のスパイラルにはまってしまう。
 (どうしよう…シャルルが他の女と結婚しちゃうなんていやだよ…。
 でも…私どうしたら…?)
 「ニコラ!
 どうするの?
 一国の主ともなれば、結婚と後継ぎにはなりふりかまわないってこともある。
 ユリアンナ様は、あの手この手でシャルルを籠絡しようとするかも。
 シャルルも、体で誘惑されたら堕とされちゃうかもだよ!」
 「シャルルが…そんな…シャルルに限って…」
 ニコラは言葉につまってしまう。
 シャルルに限ってそんなことはない。そう言いきれなかったのだ。
 そう思うと、もういてもたってもいられなかった。
 「私、ちょっとシャルルの家に行ってくる」
 「あ、私も行くよ」
 部屋を飛び出すニコラを、サマンサが追う。
 
 モンターニュ公爵家を訪れたニコラとサマンサは、衝撃的な光景を目にする。
 中庭で、シャルルとものすごい美人がお茶を傾けていたのだ。
 おそらくは、あれがユリアンナだろう。
 流れるようなアッシュブロンドの髪が美しい、蠱惑的な美女だった。
 29歳というのが信じられないほど、若々しく快活に見える。
 楽しそうに話をするユリアンナに対して、シャルルは若干表情が硬かった。
 (すごく…きれいで上品な人…)
 シャルルの気持ちを確かめたいと願っていたニコラの気持ちは、急速にしぼんでしまっていた。
 勝てない、とは思わない。
 だが、今日は出直すべき。
 本能的にそう思ったのだ。
 「サマンサ、今日は帰ろうか」
 「え?シャルルに会っていかないの?」
 サマンサは驚いた様子になる。
 「出たとこ勝負じゃ負ける可能性がある。
 ちょっと作戦を練って、出直す必要がありそうなの」
 ニコラは、自分の言葉を自分でも本心ではないと感じていた。
 どうしていいかわからないのだ。
 シャルルとユリアンナに割り込んで、なんと言えばいい?
 それがわからなかった。
 結局、ニコラとサマンサはそのまま寮に帰るのだった。
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