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01 女の子は馴れない
手をつないで
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10
「遅くなっちゃったな…」
放課後、日が傾きかける中ニコラは教室に向けて歩いていた。
中庭のそうじが長引いてしまった。
「なにも落ち葉全部、片付けさせることはないだろうに…」
先日の大風で、学園の敷地内の樹木の葉がほとんど落ちてしまった。
折悪しくそのあとに雨が降り、地に落ちた葉が見てくれの悪い濡れ落ち葉になってしまったのだ。
臨時の掃除が企画され、本来掃除当番ではない生徒たちまでが駆り出された。
ほうきで掃き出した濡れ落ち葉を一カ所に集め、乾かして肥料にするらしい。
学園の広い中庭を総ざらいすることになった。
いい迷惑だった。
「シャルルはもう帰ったかな」
ニコラは思う。
シャルルは教室の掃除当番だった。
中庭とは違い、とっくに終わっていることだろう。
シャルルとは、最近登校も下校も基本的に一緒だ。
朝はシャルルがわざわざ寮まで迎えに来てくれて、夕方は送ってくれる。
最初は気恥ずかしかったが、今ではそれがすっかり普通になっていた。
(まあ、たまには1人で帰ることもあるさ…)
ニコラはそう思うが、なんだかすごく寂しかった。
女体化して以来、シャルルは自分にかまい過ぎだと思う。
だが一方で、横にシャルルがいないとなにかが足りないような気がしてくる。
(これも、感性が女になってるってことなのかな…)
ニコラ自身にも、女体化した体に合わせるように感性がゆっくりと女になっていく自覚はある。
シャルルをどう思っているのか、シャルルとどう向き合っていくのか、それは、まだニコラ自身にもわからないことだったが。
「あ…シャルル…」
教室のドアを開けると、今思っていた人物はそこにいた。
机に伏せて、居眠りをしているようだ。
(もしかして、俺を待っててくれた…?)
そう考えると、申し訳ないと同時になんだか嬉しかった。
ともあれ、そろそろ帰らなければならない。
「あ…」
シャルルから不思議なにおいがする。
汗のにおいのようだが、少しも不快ではない。
午後に体育があったから、そのときにかいた汗だろう。
(なんだろう…すごくどきどきする…)
フェロモンなのだろうか。
シャルルの体からするにおいに、胸がどきどきとして、体がふわふわする感覚に包まれる。
(寝顔…かわいいな…)
シャルルは有力貴族の子弟として、いつもりんとしている。
だが、寝顔は意外にあどけなかった。
ニコラは我を忘れて見入ってしまう。
(俺…私は…シャルルのことが好きなのかな…?
好きか嫌いかと聞かれれば、間違いなく好き。
でも…女になってからシャルルとどう接していいかわからない…)
シャルルを憎からず思っている自覚はありながらも、自分の気持ちが向くままに任せて行動できない。
ニコラは、自分の意気地のなさが哀しかった。
(確かめて…みようかな…)
ニコラはシャルルに顔を近づけてみる。
シャルルは、机の上に組んだ腕の上にあごを乗せる形で寝ている。
うまくすれば、唇同士を触れあわせることもできそうだった。
(こんなことしていいのかな…?でも…止められない…)
女の芯からわき上がる衝動に突き動かされて、ニコラはシャルルに顔を近づけていく。
柔らかそうな唇が、どんどん近づく。
が…。
ぱちり。
その時、閉じていたシャルルの双眸が開いた。
「んん…ニコラ…?」
「あ…シャルル…」
ニコラは慌てて後ずさる。
(私、今なにをしようとしてたの!?)
顔から火が出そうだった。
寝ているシャルルにキスしようとしていたなど、ハレンチではないか。
気持ちを確かめるというのは、そういうことではないはずだ。
「シャルル、起きた?帰らないと」
耳まで真っ赤になったまま、ニコラはその場を取り繕う。
「ああ…えと…ニコラ、今のは…?」
シャルルは寝ぼけているようだが、目を開けたらニコラの顔がすぐ前にあったことは覚えているようだ。
(うわわ…恥ずかしい。顔赤くなったまま戻らないよ…)
よもや、自分がキスしようとしていたことまでは気づかれていないだろう。
だが、これはそういう問題ではない。
シャルルのいいにおいと寝顔に理性が麻痺して、衝動的にキスしようとした。
もしシャルルが目を覚まさなければ、あのまま勢いで唇を重ねていたことだろう。
なぜそんなことをしようとしたのか。
ニコラは自分がわからなかった。
「今のはと言われましても…。
シャルルが声かけてもゆすっても起きないから、どうしようかと思ってたところだけど…」
「あれ、そうだったのか…。ごめんごめん…。なんだか眠くてさ」
シャルルは、とくにニコラの言葉に疑問を持っていないようだった。
若い者は代謝が活発なのでよく眠る。
実際、授業中でさえ居眠りをしていることも少なからずある。
そういうことだと納得したらしい。
「帰ろうよ」
「そうだな」
ニコラの言葉に応じ、シャルルはぐっと伸びをして、鞄を担ぐ。
「シャルル、手つなごうか」
「いいのか?つなごう」
帰り道。
ニコラの申出に、シャルルは嬉しそうにニコラの手を握る。
いつもは、手をつなぎたいと言うのはシャルルの方だ。
だが、今日は自分から手をつなぎたいと思ったのだ。
(あったかくて大きい手…。男の手だな。
私の感性が完全に女になったら…。シャルルのことを素直に好きって思えるかな…?)
シャルルのことはいい感じだと思っているが、自分の中に中途半端に残っている男である部分が、素直に恋をすることを阻んでいるよう。
そんなことを思いながら、ニコラはシャルルとともに家路を歩くのだった。
「遅くなっちゃったな…」
放課後、日が傾きかける中ニコラは教室に向けて歩いていた。
中庭のそうじが長引いてしまった。
「なにも落ち葉全部、片付けさせることはないだろうに…」
先日の大風で、学園の敷地内の樹木の葉がほとんど落ちてしまった。
折悪しくそのあとに雨が降り、地に落ちた葉が見てくれの悪い濡れ落ち葉になってしまったのだ。
臨時の掃除が企画され、本来掃除当番ではない生徒たちまでが駆り出された。
ほうきで掃き出した濡れ落ち葉を一カ所に集め、乾かして肥料にするらしい。
学園の広い中庭を総ざらいすることになった。
いい迷惑だった。
「シャルルはもう帰ったかな」
ニコラは思う。
シャルルは教室の掃除当番だった。
中庭とは違い、とっくに終わっていることだろう。
シャルルとは、最近登校も下校も基本的に一緒だ。
朝はシャルルがわざわざ寮まで迎えに来てくれて、夕方は送ってくれる。
最初は気恥ずかしかったが、今ではそれがすっかり普通になっていた。
(まあ、たまには1人で帰ることもあるさ…)
ニコラはそう思うが、なんだかすごく寂しかった。
女体化して以来、シャルルは自分にかまい過ぎだと思う。
だが一方で、横にシャルルがいないとなにかが足りないような気がしてくる。
(これも、感性が女になってるってことなのかな…)
ニコラ自身にも、女体化した体に合わせるように感性がゆっくりと女になっていく自覚はある。
シャルルをどう思っているのか、シャルルとどう向き合っていくのか、それは、まだニコラ自身にもわからないことだったが。
「あ…シャルル…」
教室のドアを開けると、今思っていた人物はそこにいた。
机に伏せて、居眠りをしているようだ。
(もしかして、俺を待っててくれた…?)
そう考えると、申し訳ないと同時になんだか嬉しかった。
ともあれ、そろそろ帰らなければならない。
「あ…」
シャルルから不思議なにおいがする。
汗のにおいのようだが、少しも不快ではない。
午後に体育があったから、そのときにかいた汗だろう。
(なんだろう…すごくどきどきする…)
フェロモンなのだろうか。
シャルルの体からするにおいに、胸がどきどきとして、体がふわふわする感覚に包まれる。
(寝顔…かわいいな…)
シャルルは有力貴族の子弟として、いつもりんとしている。
だが、寝顔は意外にあどけなかった。
ニコラは我を忘れて見入ってしまう。
(俺…私は…シャルルのことが好きなのかな…?
好きか嫌いかと聞かれれば、間違いなく好き。
でも…女になってからシャルルとどう接していいかわからない…)
シャルルを憎からず思っている自覚はありながらも、自分の気持ちが向くままに任せて行動できない。
ニコラは、自分の意気地のなさが哀しかった。
(確かめて…みようかな…)
ニコラはシャルルに顔を近づけてみる。
シャルルは、机の上に組んだ腕の上にあごを乗せる形で寝ている。
うまくすれば、唇同士を触れあわせることもできそうだった。
(こんなことしていいのかな…?でも…止められない…)
女の芯からわき上がる衝動に突き動かされて、ニコラはシャルルに顔を近づけていく。
柔らかそうな唇が、どんどん近づく。
が…。
ぱちり。
その時、閉じていたシャルルの双眸が開いた。
「んん…ニコラ…?」
「あ…シャルル…」
ニコラは慌てて後ずさる。
(私、今なにをしようとしてたの!?)
顔から火が出そうだった。
寝ているシャルルにキスしようとしていたなど、ハレンチではないか。
気持ちを確かめるというのは、そういうことではないはずだ。
「シャルル、起きた?帰らないと」
耳まで真っ赤になったまま、ニコラはその場を取り繕う。
「ああ…えと…ニコラ、今のは…?」
シャルルは寝ぼけているようだが、目を開けたらニコラの顔がすぐ前にあったことは覚えているようだ。
(うわわ…恥ずかしい。顔赤くなったまま戻らないよ…)
よもや、自分がキスしようとしていたことまでは気づかれていないだろう。
だが、これはそういう問題ではない。
シャルルのいいにおいと寝顔に理性が麻痺して、衝動的にキスしようとした。
もしシャルルが目を覚まさなければ、あのまま勢いで唇を重ねていたことだろう。
なぜそんなことをしようとしたのか。
ニコラは自分がわからなかった。
「今のはと言われましても…。
シャルルが声かけてもゆすっても起きないから、どうしようかと思ってたところだけど…」
「あれ、そうだったのか…。ごめんごめん…。なんだか眠くてさ」
シャルルは、とくにニコラの言葉に疑問を持っていないようだった。
若い者は代謝が活発なのでよく眠る。
実際、授業中でさえ居眠りをしていることも少なからずある。
そういうことだと納得したらしい。
「帰ろうよ」
「そうだな」
ニコラの言葉に応じ、シャルルはぐっと伸びをして、鞄を担ぐ。
「シャルル、手つなごうか」
「いいのか?つなごう」
帰り道。
ニコラの申出に、シャルルは嬉しそうにニコラの手を握る。
いつもは、手をつなぎたいと言うのはシャルルの方だ。
だが、今日は自分から手をつなぎたいと思ったのだ。
(あったかくて大きい手…。男の手だな。
私の感性が完全に女になったら…。シャルルのことを素直に好きって思えるかな…?)
シャルルのことはいい感じだと思っているが、自分の中に中途半端に残っている男である部分が、素直に恋をすることを阻んでいるよう。
そんなことを思いながら、ニコラはシャルルとともに家路を歩くのだった。
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