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03 首都の空で
解放の凱歌
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03
アキツィア共和国。
フランク大陸南部、虹海に突き出たサーレー半島に位置する国家。
北にデウス公国。北東にヴェステンレマ共和国およびユニティア連邦をのぞむ。
かつてはヴェステンレマ帝国の構成国だった。が、ゲルマン優越主義、重農主義を標榜し押しつけてくる帝国の方針にしだいに反発が強まった。
人種的にも北フランク系と虹海系の混血であり、海洋国家でもあったアキツィアは、帝国の方針に常々不満を感じていたのだ。
19世紀、本格的な自治権獲得運動が起こる。
帝国もその動きを無視できず、名目上の冊封国という建前で、実質的な独立を認めざるを得なくなる。
やがてアキツィアは、ユニティア連邦など周辺国との同盟関係にものを言わせ、宗主国である帝国をしのぐ軍事力、経済力を身につけていく。
そして1945年8月。
アキツィアは帝国が経済的に窮乏しているところに目をつける。低利での多額の借款と引換に、名実ともに独立を認めさせることに成功したのだ。
アキツィア共和国の誕生である。
完全な主権を手にしたことで、アキツィアは工業化を推し進め、大国と言われるまでに発展していく。
時が流れて2005年。
領土問題に端を発する緊張が限界に達し、フランク大陸全土を巻き込んだ戦争が起きる。
デウス公国、ヴェステンレマ帝国ら同盟国がわと、ユニティア連邦を中心とする連合国がわの大規模な武力衝突。
後にフランク・レーマ戦争と呼ばれる戦争である。
デウス公国、ヴェステンレマ帝国は、比較的近しいアキツィアを同盟に引き入れることを画策する。
だがアキツィアは、デウスおよびヴェステンレマとの国境付近の境界線争い、いわゆる“未回収のアキツィア”問題から同盟を拒否。
逆に連合国がわに立って参戦する。
戦勝国となったアキツィアは、“未回収のアキツィア”部分の割譲を受けることとなる。
まあ、それが後のデウス戦争の一因となっていくのだが。
デウス国内には、サーレー半島北端の鉱山地帯はデウスの伝統的な領土であり、アキツィアに割譲されるものではなかったと主張する声が強かった。
当然デウスはアキツィアに遺恨を抱く。
アキツィアへの軍事侵攻は、多くのデウス国民にとって悲願となっていた。
不可侵条約を破棄し、ユニティア、イスパノに続く第三の戦線を開く愚を犯しても、アキツィアに侵攻する方針が選択されたのは、ある意味ではデウス公国の総意だったと言えたのだった。
2018年8月15日
アキツィア軍による首都ヨークトー奪還作戦が発動される。
「突撃にぃ、前へえ!」
ケン・クーリッジ一等陸尉隷下のアキツィア自衛陸軍第1旅団第68混成中隊を先頭に、アキツィアの地上部隊は整然と市街に向けて進み始める。
併せて、空自の航空部隊がエアカバーを担当する。
その中には、アキツィア自衛空軍第5航空師団第11飛行隊“フレイヤ”隊の2機の姿もあった。
迎撃に飛び立ったデウス軍のユーロコプター・ティーガー攻撃ヘリの部隊が、たちまち対空ミサイルと機銃によって火の玉となって落ちていく。
「よし、敵の空からの目はつぶした。
市街に突入するぞ!全部隊、奮起せよ!」
82式指揮通信車の司令席に収まるケンが、激励の言葉を発する。
車両から降りた陸自普通科の隊員たちが、89式小銃や分隊支援火器を油断なく構える。
どれだけ航空機や装甲車が発達しようと、市街戦は最終的には歩兵同士の殺し合いに落ち着く。
有能な陸自の指揮官であるケンは、それを心得ていた。
そして、貴族の子女である自分は、部下を戦わせて安全なところに隠れているようなことはしない。
巨大な通信機を背負った二曹をお供に連れて、彼自身も89式を担いで市街へと降り立った。
ともあれ、いざ市街に入ってみると、デウス軍は意外なほど逃げ腰だった。
時折、HKG36を構えた部隊が散見されたが、銃弾をばらまいて撤退して行くだけだった。
「司令部、敵は撤退していきます。
ヨークトーの占領を放棄する気かも知れません」
『報告は受けている。だが油断するな。
深追いは禁物だ』
無線で報告を入れるケンに、司令の一等陸佐が釘を刺す。
確かに、調子に乗って突出するのは危険な状況と言えた。
「よし、周辺の民家に声をかけろ。確実に、丁寧に、一区画ずつ確保していくんだ」
ケンは普通科の隊員たちに命令する。
市街戦は確実な面制圧が必須条件になる。
スターリングラード攻防戦で、ドイツ軍がソ連軍のゲリラ戦術に敗れたのも,面制圧に失敗したからだ。
街の区画を一つ一つ丁寧に掌握し、敵に利用させない体勢を構築しなければならない。
それができなければ、泥沼のゲリラ戦にはまり、意味もなく消耗するだけだ。
「隊長、都民は無事なようです。
デウス軍により外出禁止命令が出されていただけで、なにかされたわけではないと」
「ご苦労。引き続き、市街地を掌握していこう。
慎重にな」
ケンは、指揮下の三尉の報告で、気味が悪いほど市街地が静かな理由をやっと理解する。
デウス軍が外出禁止命令を出していたなら、都民たちもやぶさかではなかったのだろう。
わざわざ出て行って流れ弾に当たることもない。
「まあ、デウス軍も人道的配慮でそうしたわけではないか…」
通りを見回したケンはそうつぶやく。
徹底抗戦するにせよ、撤退するにせよ、群衆が外にいる状態ではやりにくい。
それだけのことであっただろう。
(願わくば、この状態が我々が首都を掌握するまで続いて欲しいが)
都民が家にこもって出てこないというのは、アキツィア軍にとってもありがたいことだった。
一般人を戦闘に巻き込んでしまう危険がない。
例えば、ハイジャック制圧作戦に際して、人質が余計なことをせず大人しくしていてくれた方が具合がいいのに似ている。
戦闘は戦闘員の仕事なのだ。
(頼むから、餅は餅屋に任せてくれよ)
ケンはそう祈りながら市街地を進んだ。
が、上空の航空隊が見る限り、ケンの願いは届かなかったらしい。
「こちらフレイヤ1。まずいぞ。都民が一斉に外に出ている!」
『こちらAWACS。確認した。どうやら組織的に動いているらしい』
愛機のMig-29を駆って首都の空を飛ぶエスメロードは、眼下に広がる市街で、今まで大人しかった都民が街頭に一斉に出始めたのを見た。
「陸自部隊聞こえるか?デウス軍はどうしてる?群衆と衝突することになりそうか?」
『こちら第68混成中隊。デウス軍は北に向けて撤退しつつある。
今のところ危険はないだろう。
ただ、敵航空隊が心配だ。空爆してくるかも知れない』
エスメロードの呼びかけに、ケンが答える。
もっともな話だ。
デウス軍地上部隊は、無理な市街戦を避けて撤退せざるを得ないだろう。
周り中敵だらけの状態で市街にとどまることは、戦車や装甲車両の弱点である上方からの攻撃をしこたま食らう危険がある。
(だが航空隊は?)
せめて一矢報いてやろうと、首都を空爆する可能性は充分にあり得た。
「わかった。敵航空隊はこちらで受け持つ。
すまないけど、都民を、私の家族を頼む!」
『任された。通信終わる!』
通信を終えたエスメロードは、Mig-29を翻し、敵航空隊が飛来する北東に機首を向ける。
「アールヴ聞こえたな?敵航空隊を市街に近づけるな」
『こちらアールヴ。コピー。敵攻撃機を優先的に殲滅する』
相棒であるジョージ・ケイン二等空尉は応じて、F-15JをMig-29の左斜め後ろにつける。
『くそ!そこかしこに群衆が溢れてるぞ!』
『スピーカーでG線上のアリアが流れてる!恐らくこれが蜂起の合図だったんだ!』
『撤退せよ!群衆に対する発砲は許可できない!』
オープン回線で聞こえるデウス軍の会話は、相当に焦燥したものだった。
音声に混じって確かにG線上のアリアが聞こえる。
時刻はちょうど17時。
子供たちに帰宅時間を知らせるチャイムは、本来交響曲第9番のはずだ。
彼らの言うとおり、それがG線上のアリアに差し替えられたのは、蜂起の合図だったのだろう。
『AWACSよりフレイヤ隊、レーダーに感。
反射パターン照合。敵部隊はF-4Eおよびミラージュ5と判明。
地上攻撃を目的とした部隊と思われる。
フレイヤ隊、交戦せよ!』
「フレイヤ隊了解。
FOX-2!」
『FOX-2!』
エスメロードとジョージは、ほぼ同時に99式空対空誘導弾を放つ。
射程100キロ超の撃ちっぱなし式ミサイルが白煙を引いて飛んで行く。
F-4Eもマルチロール性能は高いが、わけてもミラージュ5は対地攻撃を得意とする攻撃機だ。
彼らが首都上空に到達すれば、蜂起した群衆が被害を受ける危険がある。
『対空ミサイル、敵機を撃墜』
100キロも先だとミサイルが着弾したかどうか目視できないが、E-767からの通信で、2発とも初弾命中であったことが確認される。
(さすが、優秀なミサイルじゃないか)
エスメロードは、訓練で99式から逃げおおせた人間が、2名を除いていないことを思い出していた。
その2名とはエスメロードとジョージであることは言うまでもない。
相対速度が速いため、敵攻撃隊とフレイヤ隊はたちまち乱戦となる。
暴れ回るMig-29とF-15Jのコンビが、F-4Eとミラージュ5の部隊を次々と血祭りに上げていく。
『くそ!爆弾を投棄。交戦せよ』
『だめだ…間に合わない!ロックオンされたあ!』
デウス軍航空隊の判断は遅きに失した。
本来の任務である地上攻撃にこだわったため、重い荷物を放り出して身軽になる判断が遅れたのだ。
「センターに捉えた」
『ガンの射程内』
当初計8機いたF-4Eおよびミラージュ5の部隊は、5分と持たずに全滅していた。
(これで、首都が空爆される危険はなくなったか)
エスメロードはほっとしてエアマスクを外す。
放りだしてしまった家と家族だが、この戦闘でなにかあっては目も当てられない。
そう思わずにはいられなかったのだ。
アキツィア共和国。
フランク大陸南部、虹海に突き出たサーレー半島に位置する国家。
北にデウス公国。北東にヴェステンレマ共和国およびユニティア連邦をのぞむ。
かつてはヴェステンレマ帝国の構成国だった。が、ゲルマン優越主義、重農主義を標榜し押しつけてくる帝国の方針にしだいに反発が強まった。
人種的にも北フランク系と虹海系の混血であり、海洋国家でもあったアキツィアは、帝国の方針に常々不満を感じていたのだ。
19世紀、本格的な自治権獲得運動が起こる。
帝国もその動きを無視できず、名目上の冊封国という建前で、実質的な独立を認めざるを得なくなる。
やがてアキツィアは、ユニティア連邦など周辺国との同盟関係にものを言わせ、宗主国である帝国をしのぐ軍事力、経済力を身につけていく。
そして1945年8月。
アキツィアは帝国が経済的に窮乏しているところに目をつける。低利での多額の借款と引換に、名実ともに独立を認めさせることに成功したのだ。
アキツィア共和国の誕生である。
完全な主権を手にしたことで、アキツィアは工業化を推し進め、大国と言われるまでに発展していく。
時が流れて2005年。
領土問題に端を発する緊張が限界に達し、フランク大陸全土を巻き込んだ戦争が起きる。
デウス公国、ヴェステンレマ帝国ら同盟国がわと、ユニティア連邦を中心とする連合国がわの大規模な武力衝突。
後にフランク・レーマ戦争と呼ばれる戦争である。
デウス公国、ヴェステンレマ帝国は、比較的近しいアキツィアを同盟に引き入れることを画策する。
だがアキツィアは、デウスおよびヴェステンレマとの国境付近の境界線争い、いわゆる“未回収のアキツィア”問題から同盟を拒否。
逆に連合国がわに立って参戦する。
戦勝国となったアキツィアは、“未回収のアキツィア”部分の割譲を受けることとなる。
まあ、それが後のデウス戦争の一因となっていくのだが。
デウス国内には、サーレー半島北端の鉱山地帯はデウスの伝統的な領土であり、アキツィアに割譲されるものではなかったと主張する声が強かった。
当然デウスはアキツィアに遺恨を抱く。
アキツィアへの軍事侵攻は、多くのデウス国民にとって悲願となっていた。
不可侵条約を破棄し、ユニティア、イスパノに続く第三の戦線を開く愚を犯しても、アキツィアに侵攻する方針が選択されたのは、ある意味ではデウス公国の総意だったと言えたのだった。
2018年8月15日
アキツィア軍による首都ヨークトー奪還作戦が発動される。
「突撃にぃ、前へえ!」
ケン・クーリッジ一等陸尉隷下のアキツィア自衛陸軍第1旅団第68混成中隊を先頭に、アキツィアの地上部隊は整然と市街に向けて進み始める。
併せて、空自の航空部隊がエアカバーを担当する。
その中には、アキツィア自衛空軍第5航空師団第11飛行隊“フレイヤ”隊の2機の姿もあった。
迎撃に飛び立ったデウス軍のユーロコプター・ティーガー攻撃ヘリの部隊が、たちまち対空ミサイルと機銃によって火の玉となって落ちていく。
「よし、敵の空からの目はつぶした。
市街に突入するぞ!全部隊、奮起せよ!」
82式指揮通信車の司令席に収まるケンが、激励の言葉を発する。
車両から降りた陸自普通科の隊員たちが、89式小銃や分隊支援火器を油断なく構える。
どれだけ航空機や装甲車が発達しようと、市街戦は最終的には歩兵同士の殺し合いに落ち着く。
有能な陸自の指揮官であるケンは、それを心得ていた。
そして、貴族の子女である自分は、部下を戦わせて安全なところに隠れているようなことはしない。
巨大な通信機を背負った二曹をお供に連れて、彼自身も89式を担いで市街へと降り立った。
ともあれ、いざ市街に入ってみると、デウス軍は意外なほど逃げ腰だった。
時折、HKG36を構えた部隊が散見されたが、銃弾をばらまいて撤退して行くだけだった。
「司令部、敵は撤退していきます。
ヨークトーの占領を放棄する気かも知れません」
『報告は受けている。だが油断するな。
深追いは禁物だ』
無線で報告を入れるケンに、司令の一等陸佐が釘を刺す。
確かに、調子に乗って突出するのは危険な状況と言えた。
「よし、周辺の民家に声をかけろ。確実に、丁寧に、一区画ずつ確保していくんだ」
ケンは普通科の隊員たちに命令する。
市街戦は確実な面制圧が必須条件になる。
スターリングラード攻防戦で、ドイツ軍がソ連軍のゲリラ戦術に敗れたのも,面制圧に失敗したからだ。
街の区画を一つ一つ丁寧に掌握し、敵に利用させない体勢を構築しなければならない。
それができなければ、泥沼のゲリラ戦にはまり、意味もなく消耗するだけだ。
「隊長、都民は無事なようです。
デウス軍により外出禁止命令が出されていただけで、なにかされたわけではないと」
「ご苦労。引き続き、市街地を掌握していこう。
慎重にな」
ケンは、指揮下の三尉の報告で、気味が悪いほど市街地が静かな理由をやっと理解する。
デウス軍が外出禁止命令を出していたなら、都民たちもやぶさかではなかったのだろう。
わざわざ出て行って流れ弾に当たることもない。
「まあ、デウス軍も人道的配慮でそうしたわけではないか…」
通りを見回したケンはそうつぶやく。
徹底抗戦するにせよ、撤退するにせよ、群衆が外にいる状態ではやりにくい。
それだけのことであっただろう。
(願わくば、この状態が我々が首都を掌握するまで続いて欲しいが)
都民が家にこもって出てこないというのは、アキツィア軍にとってもありがたいことだった。
一般人を戦闘に巻き込んでしまう危険がない。
例えば、ハイジャック制圧作戦に際して、人質が余計なことをせず大人しくしていてくれた方が具合がいいのに似ている。
戦闘は戦闘員の仕事なのだ。
(頼むから、餅は餅屋に任せてくれよ)
ケンはそう祈りながら市街地を進んだ。
が、上空の航空隊が見る限り、ケンの願いは届かなかったらしい。
「こちらフレイヤ1。まずいぞ。都民が一斉に外に出ている!」
『こちらAWACS。確認した。どうやら組織的に動いているらしい』
愛機のMig-29を駆って首都の空を飛ぶエスメロードは、眼下に広がる市街で、今まで大人しかった都民が街頭に一斉に出始めたのを見た。
「陸自部隊聞こえるか?デウス軍はどうしてる?群衆と衝突することになりそうか?」
『こちら第68混成中隊。デウス軍は北に向けて撤退しつつある。
今のところ危険はないだろう。
ただ、敵航空隊が心配だ。空爆してくるかも知れない』
エスメロードの呼びかけに、ケンが答える。
もっともな話だ。
デウス軍地上部隊は、無理な市街戦を避けて撤退せざるを得ないだろう。
周り中敵だらけの状態で市街にとどまることは、戦車や装甲車両の弱点である上方からの攻撃をしこたま食らう危険がある。
(だが航空隊は?)
せめて一矢報いてやろうと、首都を空爆する可能性は充分にあり得た。
「わかった。敵航空隊はこちらで受け持つ。
すまないけど、都民を、私の家族を頼む!」
『任された。通信終わる!』
通信を終えたエスメロードは、Mig-29を翻し、敵航空隊が飛来する北東に機首を向ける。
「アールヴ聞こえたな?敵航空隊を市街に近づけるな」
『こちらアールヴ。コピー。敵攻撃機を優先的に殲滅する』
相棒であるジョージ・ケイン二等空尉は応じて、F-15JをMig-29の左斜め後ろにつける。
『くそ!そこかしこに群衆が溢れてるぞ!』
『スピーカーでG線上のアリアが流れてる!恐らくこれが蜂起の合図だったんだ!』
『撤退せよ!群衆に対する発砲は許可できない!』
オープン回線で聞こえるデウス軍の会話は、相当に焦燥したものだった。
音声に混じって確かにG線上のアリアが聞こえる。
時刻はちょうど17時。
子供たちに帰宅時間を知らせるチャイムは、本来交響曲第9番のはずだ。
彼らの言うとおり、それがG線上のアリアに差し替えられたのは、蜂起の合図だったのだろう。
『AWACSよりフレイヤ隊、レーダーに感。
反射パターン照合。敵部隊はF-4Eおよびミラージュ5と判明。
地上攻撃を目的とした部隊と思われる。
フレイヤ隊、交戦せよ!』
「フレイヤ隊了解。
FOX-2!」
『FOX-2!』
エスメロードとジョージは、ほぼ同時に99式空対空誘導弾を放つ。
射程100キロ超の撃ちっぱなし式ミサイルが白煙を引いて飛んで行く。
F-4Eもマルチロール性能は高いが、わけてもミラージュ5は対地攻撃を得意とする攻撃機だ。
彼らが首都上空に到達すれば、蜂起した群衆が被害を受ける危険がある。
『対空ミサイル、敵機を撃墜』
100キロも先だとミサイルが着弾したかどうか目視できないが、E-767からの通信で、2発とも初弾命中であったことが確認される。
(さすが、優秀なミサイルじゃないか)
エスメロードは、訓練で99式から逃げおおせた人間が、2名を除いていないことを思い出していた。
その2名とはエスメロードとジョージであることは言うまでもない。
相対速度が速いため、敵攻撃隊とフレイヤ隊はたちまち乱戦となる。
暴れ回るMig-29とF-15Jのコンビが、F-4Eとミラージュ5の部隊を次々と血祭りに上げていく。
『くそ!爆弾を投棄。交戦せよ』
『だめだ…間に合わない!ロックオンされたあ!』
デウス軍航空隊の判断は遅きに失した。
本来の任務である地上攻撃にこだわったため、重い荷物を放り出して身軽になる判断が遅れたのだ。
「センターに捉えた」
『ガンの射程内』
当初計8機いたF-4Eおよびミラージュ5の部隊は、5分と持たずに全滅していた。
(これで、首都が空爆される危険はなくなったか)
エスメロードはほっとしてエアマスクを外す。
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