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エピローグ
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「やるせないですね。ラリサの気持ちを思うと」
帰り道、誠がつぶやく。
「ラリサはまだ若いんだ。いつか、心の傷が癒える日も来るだろう」
倉木が相手をする。
右手の傷は、まだ完治していない。巻かれた包帯が痛々しい。
「きっと癒えますよ。素敵な家族がいるんですから。オーナーみたいな頼りになるお父さんも」
七美がからかい半分に言う。
「あ、そう言えばオーナー。ひとつだけ質問があります」
「なんだね?」
急にニヤニヤとし始めた誠に、倉木がたじろぐ。
「EDって嘘でしょ?」
少年の唐突な問いに、ダンディな容貌が驚愕の表情になる。
「ほう……なぜそう思うのかね……?」
すぐに冷静な顔になるが、眼が動揺している。
「そうですね……。ちょっと二人だけで話しましょうや」
そう言って、他のメンバーから離れた場所に倉木を連れて行く。
「ちょっと、なに話してるの?」
七美は蚊帳の外で不満そうだ。
「実は、警察が調べた通話記録を特別に見せてもらったんです」
誠がいやらしい笑みで切り出す。推理をしているときのイケメンぶりとは大違いだ。
「オーナーが電話をかけた先に、吉原や鶯谷界隈の番号がいくつもありました」
「う……」
倉木が痛いところを突かれた顔になる。誠がスマホを取り出して、詳しく調べる。
「いい趣味してますねー。ソープランドは鉄板として……ア○ル風俗でしょ……SM倶楽部……後は……女装少年の館……男の娘風俗……?」
グサリ、グサリ。誠の言葉が、倉木に突き刺さる。
「まさか、風俗嬢に話し相手になってもらうために高いお金払ってたわけでもないでしょ?」
「探偵ってのは……。そういうところにまで目端が利くものかね……」
倉木が、屈辱と呆れの入り交じった顔をする。
「どうしてEDなんて嘘をついたか、聞いたら不都合がありますか?」
誠は真剣な表情になる。
「あの時……ラリサに誘惑された時だ……。娘の眼を見てわかった……。拒絶されることを見越してたんじゃない。私が拒もうが受け入れようが、どちらでもよかったんだ。私が理性を保てなかった場合、ことが終わって寝入ってしまってからパソコンを覗き見ればいいわけだからね」
そこで倉木は、一度言葉を句切る。
「私に抱かれてもいいと思って誘惑してきた、ラリサのプライドを傷つけたくなかった。女として魅力がないんじゃないか、と悩んでほしくなかった。これが返答だ」
そう言った彼の顔は、父親のそれだった。大事な娘を、一時の感情で傷つけるなどできない。眼がそう言っていた。
「いいお父さんですね」
「ありがとう」
そう言って笑い合う。
「ああ、後もう一つだけ」
誠が人差し指を立てる。
「なんだい?」
倉木が訝かしむ。いやな予感がするのだ。
「オーナーは男の娘風俗では、攻めですか受けですか? 後学のために教えて欲しいなあ……?」
イケメンだった少年の表情が、ふたたびいやらしいものになる。
「すまんがそれはノーコメントだ」
さすがに倉木も、そこまで教える義理はない。
帰り道、誠がつぶやく。
「ラリサはまだ若いんだ。いつか、心の傷が癒える日も来るだろう」
倉木が相手をする。
右手の傷は、まだ完治していない。巻かれた包帯が痛々しい。
「きっと癒えますよ。素敵な家族がいるんですから。オーナーみたいな頼りになるお父さんも」
七美がからかい半分に言う。
「あ、そう言えばオーナー。ひとつだけ質問があります」
「なんだね?」
急にニヤニヤとし始めた誠に、倉木がたじろぐ。
「EDって嘘でしょ?」
少年の唐突な問いに、ダンディな容貌が驚愕の表情になる。
「ほう……なぜそう思うのかね……?」
すぐに冷静な顔になるが、眼が動揺している。
「そうですね……。ちょっと二人だけで話しましょうや」
そう言って、他のメンバーから離れた場所に倉木を連れて行く。
「ちょっと、なに話してるの?」
七美は蚊帳の外で不満そうだ。
「実は、警察が調べた通話記録を特別に見せてもらったんです」
誠がいやらしい笑みで切り出す。推理をしているときのイケメンぶりとは大違いだ。
「オーナーが電話をかけた先に、吉原や鶯谷界隈の番号がいくつもありました」
「う……」
倉木が痛いところを突かれた顔になる。誠がスマホを取り出して、詳しく調べる。
「いい趣味してますねー。ソープランドは鉄板として……ア○ル風俗でしょ……SM倶楽部……後は……女装少年の館……男の娘風俗……?」
グサリ、グサリ。誠の言葉が、倉木に突き刺さる。
「まさか、風俗嬢に話し相手になってもらうために高いお金払ってたわけでもないでしょ?」
「探偵ってのは……。そういうところにまで目端が利くものかね……」
倉木が、屈辱と呆れの入り交じった顔をする。
「どうしてEDなんて嘘をついたか、聞いたら不都合がありますか?」
誠は真剣な表情になる。
「あの時……ラリサに誘惑された時だ……。娘の眼を見てわかった……。拒絶されることを見越してたんじゃない。私が拒もうが受け入れようが、どちらでもよかったんだ。私が理性を保てなかった場合、ことが終わって寝入ってしまってからパソコンを覗き見ればいいわけだからね」
そこで倉木は、一度言葉を句切る。
「私に抱かれてもいいと思って誘惑してきた、ラリサのプライドを傷つけたくなかった。女として魅力がないんじゃないか、と悩んでほしくなかった。これが返答だ」
そう言った彼の顔は、父親のそれだった。大事な娘を、一時の感情で傷つけるなどできない。眼がそう言っていた。
「いいお父さんですね」
「ありがとう」
そう言って笑い合う。
「ああ、後もう一つだけ」
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「なんだい?」
倉木が訝かしむ。いやな予感がするのだ。
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イケメンだった少年の表情が、ふたたびいやらしいものになる。
「すまんがそれはノーコメントだ」
さすがに倉木も、そこまで教える義理はない。
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