戦憶の中の殺意

ブラックウォーター

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第五章 真実への道

01

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 メインロッジのロビー。
「なあ篤志、もう少しはっきり見えるのないのか……?」
 誠は篤志のパソコンで動画を見つつぼやく。念のため、『エバンゲルブルグの虐殺』と呼ばれる映像を見返している。
「無茶言わないでくださいよ。そもそも映像が荒いし、距離が物理的に遠いんですから……」
 篤志が応じる。
 動画はいくつかのソースで観られるが、どれも遠目な上に映像が荒い。子細を確認するのは難しい。
 なにかわからないかと、先ほどから何度も再生している。が、事件と関わりのありそうなものはなにも見つからない。
(あ……やっぱりここだ……)
 最初に見たときから、気になっていた箇所がある。爆撃が行われた直後、噴煙に混じって子どもの顔が一瞬だが見える。
(やはり……スロー再生してもよく見えないな……)
 おぼろげで、すぐに煙に隠れてしまう。
 だが、凄惨な状況であるのはわかる。恐らく、慰問団の多くが死んだ中でこの子どもだけが生存してしまったのだ。
 悲惨な事故や事件の生き残りは、自責の念を抱くという。なぜみな死んで自分だけが生きているのか、と。本人にはなんの責任もないにもかかわらず。
(待てよ……? もし……この生存者が今でも生きていたら……? この動画が世に出たことで、なんらかのいきさつで虐殺の加害者が961偵察隊だと突き止めたとしたら……?)
 警察であれば、証拠から状況を推理する。
 だが、そうでない誠は想像だけで臆測を巡らせることもできる。それが素人探偵の特権だ。
 もし、この時の生存者が六年前の恨みを忘れていないとしたら?
 少なくとも、爆撃強行を命令したラバンスキーに対しては殺したいほどの復讐心を抱いてもおかしくない。山瀬は、犯人の替え玉にされて殺されたというところか。
「なあ篤志。ここ、拡大して鮮明にできないかな?」
 わずかにしか映っていない子どもの顔を指さす。
「ええ……無茶な……。これだけ遠くてぼやけてると、時間がかかりますよ……」
 篤志が情けない顔になる。映像オタクらしく技術はある。が、その彼を持ってしてもこれは難事だ。
「まあそう言わずに。可能な限り鮮明に写しだしてみてくれ。お前の技術が頼りだ」
 あえて後輩の肩に手を置いて、眼を覗き込む。
「おだてればいいと思ってるんですか? できる保証はないけどやってみます」
 ぼやきながらも、篤志はやる気になってくれた。パソコンに向き直り、動画を切り取って修正ソフトにかける作業を始める。
「頼むよ。俺は、外を少し調べてくる」
 後輩を激励して、誠はロビーを後にした。
 外へ出て、客向けのロッジを散策する。
「やっぱりだ……全部にある……」
 手間と時間を惜しまずに、全ての建物を調べた。結果、少年の推測は当たっていたことが証明された。
「あら……? こんなところでなにしてるんですか、高森君?」
 透き通った声がする。
 振り向けば、相馬だった。手袋をして、手には高枝用の柄の長いのこぎりを持っている。木の手入れだろうか?
「ああ、相馬さん、ちょうどよかった。聞きたいことがあったんです」
 彼女に駆け寄る。
「聞きたいこと?」
「はい。ラバンスキーさんたちが来たときのことです」
 真剣な表情で、誠は続ける。
「あの日、部屋割りはあらかじめ決めてあったんですか?」
 少年の問いに、エキゾチックな美女は少し考える顔になる。
「部屋割りそのものは最初から決めてあったけど……。ああ、その後変えたんだったわ。思い出した」
 相馬が手をポンと叩く。
「後で変えた? なぜ?」
「実は山瀬大尉がねえ……。ラバンスキー大佐はいびきが大きいし寝言も言うからって、できれば隣は勘弁してもらえないかって」
 相馬が苦笑しながら言う。
「いびきねえ……」
 誠は今ひとつ得心がいかなかった。同室というならともかく、隣部屋でいびきを気にするとは、どれだけ神経質なのか。
「ああ、そう言えば……。大佐がロッジを観た後、綾乃さんに頼んで、部屋を交換してもらってたんだった」
 相馬が、また一つ思い出したようだ。
「部屋を交換。またどうして……?」
「どうも時差ボケらしくて……。東側の部屋じゃないと起きられないかも知れないからだって」
 応答する彼女も、半信半疑という様子だ。
 一応理にはかなっている。だが、無理を言ってまで部屋を変えてもらう理由としてはどうにも弱い。
(だとしたらどういうことだ……? 犯人は二人が部屋を変えてもらうのを予測した上で盗聴器をしかけていたとでもいうのか……?)
 そこで、大きな疑問にぶち当たる。
 盗聴器が見つかったのは、ラバンスキーと山瀬、そして警察官二人の部屋だけだ。盗聴器を仕掛けたのは恐らく犯人だ。が、ならばまるで超能力者だ。
 理由はどうあれ、ラバンスキーたちが部屋を変わることまで予測して盗聴器を仕掛けていたことになる。とてもじゃないが、それはあり得ない。
「ところで、差し支えなければ聞きたいんですけど……。あなたはなにを調べていたんですか?」
 相馬が聞いてくる。
「ああ、企業秘密……と言いたいところだけど、さっきのお礼にお話しします。事件があった夜、ラバンスキーさんのロッジに張られていたワイヤー。どうやらあそこだけじゃなかったようなんです。客向けのロッジ全部に痕跡がある。しかも、一つのロッジにいくつも仕掛けられていたようです」
 自分と修一のロッジの手すりを指さす。そこには確かに、ワイヤーをはったとおぼしい糸状の跡が残っていた。
「参考までにですけど……。軍隊での経験から、相馬さんならこれってなんだと思います……?」
 誠は、経験豊かな彼女の考えを聞いてみることにする。自分ひとりでは、まるっきり霧の中だ。
「そうですねえ……。普通に考えればブービートラップか鳴子かしら……? 実際あなたとラリサさんが引っかけたわけだし……」
 ワイヤーの痕跡を眺めながら、相馬が考える。
「しかし……俺とラリサは引っかかっても中の人たちに気づかれなかったわけで……」
「そうですよね……」
 誠と相馬は顔を見合わせる。
 あのワイヤーには確実に意味がある。だが、それがどうしてもわからない。
「犯人の視点で考えてみよう。犯人はどうしてもワイヤーを張らなければならない理由があった。そして、事件の朝には全てを回収していた。なぜ? 自分の意図の発覚を恐れたか……それとも必要なくなったからか……? 目的は果たしたから……?」
 誠はワイヤーの跡をたどりながら、推理を巡らせる。
「やっぱり、盗聴器と関係があるんですかね……?」
 相馬が考えられる可能性を述べる。
「盗聴器か……」
 少年は頭をガシガシとかく。確かに可能性としては濃厚だ。だが、ワイヤーと盗聴がどうにもつながらない。
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