31 / 58
第四章 いくつもの謎
03
しおりを挟む
「あ……これって……」
誠は通話記録の一つを見て、危うく吹き出しそうになる。
「どうした? なにか気づいたのか?」
「事件とは関係なさそうですけどね……。みんなには内緒、俺たちだけの秘密ですよ……? この番号……」
誠がゲスな笑みを浮かべて、スマホを操作する。
「ああ、なるほどね……」
「まあ……問題はないだろう……。違法なところではないし……彼は独身なんだから」
速水は苦笑い、沖田は呆れ顔になる。
これは、さすがに意外だった。かの人物に、こういう趣味があるとは。
「他にはと……」
誠は気を取り直して、捜査記録を調べることを再開する。
「あれ……? これはなんでしょう?」
「ああこれか? 受信機だよ。盗聴器を見つけてクリーニングするために使う。ラバンスキーと山瀬が一つずつ持っていた」
誠が指さした、不格好なトランシーバーの出来損ないのような物。ラバンスキーと山瀬の荷物から見つかったらしい。それを速水が解説する。
「盗聴器か……」
「それが妙なんだ。二人は実際にクリーニングをして、盗聴器を発見したらしい。二人の鞄の中から見つかった」
沖田がタブレット端末を操作する。
押収物の写真の一つだ。豆粒かボタンかのようなプラスチックの物体。細かい穴が無数に開いているのは、恐らくマイクだろう。
(盗聴器か……。仕掛ける理由のある人物なら……一人いるんだが……。こんな下手くそなやり方するかな……?)
誠の中で、糸がどうにもつながりそうでつながらない。
盗聴器はあったのは事実。だが、六年前の戦争を戦い抜いたプロには通用しなかった。しかも、仕掛けた人物は彼らの手の内を知り尽くしているはずだ。
(その上で……あえて仕掛けた……? なんのために……?)
もう一つの可能性に思い当たる。
最初から見つけられる前提で仕掛けた。それは考えられないだろうか。
「沖田警視、速水警部、盗聴器はあなた方の部屋にもあったんですか?」
気になって聞いてみる。自分の推測通りだとすると、盗聴器の犯人は客全員の部屋に仕掛けている可能性が高い。
「よくわかったな。実は、ここに来た初日に我々もクリーニングをした。その結果みつけたよ。二つほどね」
沖田が答えてくれる。
「他の人の部屋には?」
「あいにく見つからなかった」
速水の答えに、誠は新たな疑問を抱く。
(なぜ……四人の部屋だけに……? 俺たちと綾音さんの部屋にはなぜなかった……?)
六年前の戦犯である二人と、それを捜査しに来た警察官二人。彼らだけを監視していたという可能性はあるが……。
「もうひとつ。その盗聴器、電池で動作するタイプでしたか? それとも他の電源から盗電するやつですか?」
「全部同じだったよ。リチウム電池を使うタイプだ。外部電源なしで二週間は持つ」
沖田の答えに、誠の中で少しだけ推理が前に進む。
電池で動作するタイプと、外部電源が必要なタイプ。どちらも一長一短だ。
前者は隠しやすく場所を選ばない。回収するときも、テープをはがす程度ですんでしまう。一方、電池切れの問題がつきまとう。
後者は電源こそ無限だが、仕掛けられる場所がコンセントや家電などに限られて見つかりやすい。また、回収が面倒だというデメリットもある。
(犯人は、既に他の盗聴器を回収してしまっていたとしたらどうだ? なぜ回収したか? もう必要ないから……? だとしたら……なおさら盗聴器をしかけた目的が問題だ……)
依然として事件は深い霧に包まれている。だが、風が出てきている。少年は感じる。霧は、確実に晴れる方向に向かっている。
「沖田さん、速水さん、ありがとうございました。もう一度おかしいところがないかどうか、現場を調べて来ます」
「私も行く」
「じゃあ僕も」
メインロッジを後にする誠に、七美と篤志も続く。
「付き合いますか?」
「そうだな」
速水と沖田も、同行することに決めたらしい。
誠は通話記録の一つを見て、危うく吹き出しそうになる。
「どうした? なにか気づいたのか?」
「事件とは関係なさそうですけどね……。みんなには内緒、俺たちだけの秘密ですよ……? この番号……」
誠がゲスな笑みを浮かべて、スマホを操作する。
「ああ、なるほどね……」
「まあ……問題はないだろう……。違法なところではないし……彼は独身なんだから」
速水は苦笑い、沖田は呆れ顔になる。
これは、さすがに意外だった。かの人物に、こういう趣味があるとは。
「他にはと……」
誠は気を取り直して、捜査記録を調べることを再開する。
「あれ……? これはなんでしょう?」
「ああこれか? 受信機だよ。盗聴器を見つけてクリーニングするために使う。ラバンスキーと山瀬が一つずつ持っていた」
誠が指さした、不格好なトランシーバーの出来損ないのような物。ラバンスキーと山瀬の荷物から見つかったらしい。それを速水が解説する。
「盗聴器か……」
「それが妙なんだ。二人は実際にクリーニングをして、盗聴器を発見したらしい。二人の鞄の中から見つかった」
沖田がタブレット端末を操作する。
押収物の写真の一つだ。豆粒かボタンかのようなプラスチックの物体。細かい穴が無数に開いているのは、恐らくマイクだろう。
(盗聴器か……。仕掛ける理由のある人物なら……一人いるんだが……。こんな下手くそなやり方するかな……?)
誠の中で、糸がどうにもつながりそうでつながらない。
盗聴器はあったのは事実。だが、六年前の戦争を戦い抜いたプロには通用しなかった。しかも、仕掛けた人物は彼らの手の内を知り尽くしているはずだ。
(その上で……あえて仕掛けた……? なんのために……?)
もう一つの可能性に思い当たる。
最初から見つけられる前提で仕掛けた。それは考えられないだろうか。
「沖田警視、速水警部、盗聴器はあなた方の部屋にもあったんですか?」
気になって聞いてみる。自分の推測通りだとすると、盗聴器の犯人は客全員の部屋に仕掛けている可能性が高い。
「よくわかったな。実は、ここに来た初日に我々もクリーニングをした。その結果みつけたよ。二つほどね」
沖田が答えてくれる。
「他の人の部屋には?」
「あいにく見つからなかった」
速水の答えに、誠は新たな疑問を抱く。
(なぜ……四人の部屋だけに……? 俺たちと綾音さんの部屋にはなぜなかった……?)
六年前の戦犯である二人と、それを捜査しに来た警察官二人。彼らだけを監視していたという可能性はあるが……。
「もうひとつ。その盗聴器、電池で動作するタイプでしたか? それとも他の電源から盗電するやつですか?」
「全部同じだったよ。リチウム電池を使うタイプだ。外部電源なしで二週間は持つ」
沖田の答えに、誠の中で少しだけ推理が前に進む。
電池で動作するタイプと、外部電源が必要なタイプ。どちらも一長一短だ。
前者は隠しやすく場所を選ばない。回収するときも、テープをはがす程度ですんでしまう。一方、電池切れの問題がつきまとう。
後者は電源こそ無限だが、仕掛けられる場所がコンセントや家電などに限られて見つかりやすい。また、回収が面倒だというデメリットもある。
(犯人は、既に他の盗聴器を回収してしまっていたとしたらどうだ? なぜ回収したか? もう必要ないから……? だとしたら……なおさら盗聴器をしかけた目的が問題だ……)
依然として事件は深い霧に包まれている。だが、風が出てきている。少年は感じる。霧は、確実に晴れる方向に向かっている。
「沖田さん、速水さん、ありがとうございました。もう一度おかしいところがないかどうか、現場を調べて来ます」
「私も行く」
「じゃあ僕も」
メインロッジを後にする誠に、七美と篤志も続く。
「付き合いますか?」
「そうだな」
速水と沖田も、同行することに決めたらしい。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる