7 / 58
第一章 不穏な客たち
05
しおりを挟む
一方こちらは女湯。
「あああーーー。気持ちいいーーー」
七美は極楽を味わっていた。広くて景色がいい上に、湯加減が最高だ。熱すぎずぬるすぎず、実に素晴らしい。食事の支度をしている相馬を除いて、女性陣は全員大浴場に集まっている。
「いい湯加減でしょう? わたしもよく利用させて頂いてるんです」
宿泊客の一人である綾音が、色っぽい笑顔で同意する。
「綾音さん、お肌きれいですねえ……」
いつもは大人しい真奈が、妙に積極的だ。ずっと年上である綾音に、物怖じせずに話しかけている。
(また真奈の悪い癖が出たか……)
七美は内心で嘆息する。後輩が暴走しないよう、監視していなければならない。
「いえいえ……。若いあなたたちに比べたらとてもとても……」
美魔女が苦笑いになる。実際綾音の肌はきめ細かく美しい。が、手間をかけて手入れをしている賜だろう。よほど生活習慣が悪くない限りきれいなのが当たり前の十代とは、さすがに違う。
「ご謙遜を……すごくきれいですよ……。おっぱい大きいのも素敵だし……。アタシなんて小さくて……」
真奈が自分の胸に手をやって、悲しそうになる。
「実籾さん、大きいだけがおっぱいじゃないわよ。実籾さんも、スタイルよくて素敵だとおもうけど? 形もいいしね」
慈母観音の顔で、綾音が言う。
(まずい……いつもの流れだ……)
七美の頭の中で、アラートがガンガン鳴り響いていた。
「ありがとうございます綾音さん……。その……おっぱい……触ってもいいですか……」
上目遣いの小動物のような表情で、少女が美魔女に近寄る。
「ええ……? 困ったな……」
綾音がほおを染める。胸を褒められるのはまんざらでもない。が、同性とはいえ触られるのは抵抗がある。
「ちょっとだけです。こんなに大きくて素敵なおっぱい、めったにお目にかかれませんから」
真奈が目を輝かせて身を乗り出す。
「その……本当にちょっとだけなら……」
美魔女はついに根負けする。恥ずかしいが、女として嬉しくもある。例え相手が同性だとしても。
「ありがとうございます! では失礼して……」
真奈のかわいい手が、白く雄大な二つの膨らみに近づいていく。が……。
「はいストップ。いくら同性でも、それセクハラ」
七美の手が、後輩の手首をがっちりと掴んでいた。
「そんなあ……」
あとちょっとで天国の感触を味わえたのに。真奈が情けない顔になる。
「綾音さん、気をつけてください。今みたいにおだてておっぱいを触らせてもらうの、真奈の常套手段ですから」
千里が、いつも通りのクールな表情で注意する。
「まあ……そうだったのね……。危ない危ない……」
綾音が胸を手で隠す。まあ、目は笑っているが。
「うー……。こうなったらラリサのおっぱいでがまんするか……いでっ!」
ラリサに向き直った真奈の額に、チョップが炸裂する。
「がまんするとはなによ、がまんするとは。私のが小さいってケンカ売ってるの?」
いつもはにこやかなラリサも、さすがに怒っている。細くスタイルがいいが、胸が若干慎ましいのが彼女の悩みだ。
「では会長を……ぎゃっ!」
千里が、マナの右手の親指を取ってひねる。
「だめに決まってるでしょ」
クールな笑いを浮かべているが、目が笑っていない。
「七美せんぱーい……?」
今度は真奈は七美に近寄る。
「そんな顔しても揉ませてあげないよ」
媚びるような絵美と口調を、七美は冷たく一刀両断する。
「ならばサーリャちゃんを……って……。それはさすがに犯罪か……」
乳揉み魔にも最低限の倫理はあるらしい。八歳の少女のぺったんこの胸に手を伸ばすことは、さすがにできなかった。
「ババ抜きじゃないんだから……」
綾音が呆れた様子で笑う。
「どうせなら、男どもの胸でも揉んでなさい。それならセクハラにならないでしょ」
千里が妥協案を出す。
「えー……。男の胸なんて……!」
「しっ!」
真奈の言葉を、七美が遮る。
「どうしたんです……?」
「…………」
綾音の問いには答えず、少女はゆっくりと湯船の外に手を伸ばす。湯桶を掴み、優雅な動作で投擲する。
「ぎゃあっ!」
悲鳴が上がる。フリスビーのように舞った桶が、檜の壁の上から身を乗り出していた者の顔を直撃したのだ。ガッシャーーーーンッ。ものすごい音が、男湯の方から聞こえる。
「ちょっと……すごい音したけど大丈夫かしら……」
綾音が心配そうになる。誰か大けがをしていないだろうか。
「脚立の音ですね……。わざわざ外から持ってくるとは……」
ラリサが呆れる。
「脚立が倒れた音だったのか……。覗きもそこまでされると、少し尊敬しちゃうわ……」
千里がクールな美貌を苦笑いにする。
(全く……風呂場に脚立持ち込むなんて変な知恵回すやつというと……)
七美には推測がついた。この状況で覗きを可能にした犯人が。
「あああーーー。気持ちいいーーー」
七美は極楽を味わっていた。広くて景色がいい上に、湯加減が最高だ。熱すぎずぬるすぎず、実に素晴らしい。食事の支度をしている相馬を除いて、女性陣は全員大浴場に集まっている。
「いい湯加減でしょう? わたしもよく利用させて頂いてるんです」
宿泊客の一人である綾音が、色っぽい笑顔で同意する。
「綾音さん、お肌きれいですねえ……」
いつもは大人しい真奈が、妙に積極的だ。ずっと年上である綾音に、物怖じせずに話しかけている。
(また真奈の悪い癖が出たか……)
七美は内心で嘆息する。後輩が暴走しないよう、監視していなければならない。
「いえいえ……。若いあなたたちに比べたらとてもとても……」
美魔女が苦笑いになる。実際綾音の肌はきめ細かく美しい。が、手間をかけて手入れをしている賜だろう。よほど生活習慣が悪くない限りきれいなのが当たり前の十代とは、さすがに違う。
「ご謙遜を……すごくきれいですよ……。おっぱい大きいのも素敵だし……。アタシなんて小さくて……」
真奈が自分の胸に手をやって、悲しそうになる。
「実籾さん、大きいだけがおっぱいじゃないわよ。実籾さんも、スタイルよくて素敵だとおもうけど? 形もいいしね」
慈母観音の顔で、綾音が言う。
(まずい……いつもの流れだ……)
七美の頭の中で、アラートがガンガン鳴り響いていた。
「ありがとうございます綾音さん……。その……おっぱい……触ってもいいですか……」
上目遣いの小動物のような表情で、少女が美魔女に近寄る。
「ええ……? 困ったな……」
綾音がほおを染める。胸を褒められるのはまんざらでもない。が、同性とはいえ触られるのは抵抗がある。
「ちょっとだけです。こんなに大きくて素敵なおっぱい、めったにお目にかかれませんから」
真奈が目を輝かせて身を乗り出す。
「その……本当にちょっとだけなら……」
美魔女はついに根負けする。恥ずかしいが、女として嬉しくもある。例え相手が同性だとしても。
「ありがとうございます! では失礼して……」
真奈のかわいい手が、白く雄大な二つの膨らみに近づいていく。が……。
「はいストップ。いくら同性でも、それセクハラ」
七美の手が、後輩の手首をがっちりと掴んでいた。
「そんなあ……」
あとちょっとで天国の感触を味わえたのに。真奈が情けない顔になる。
「綾音さん、気をつけてください。今みたいにおだてておっぱいを触らせてもらうの、真奈の常套手段ですから」
千里が、いつも通りのクールな表情で注意する。
「まあ……そうだったのね……。危ない危ない……」
綾音が胸を手で隠す。まあ、目は笑っているが。
「うー……。こうなったらラリサのおっぱいでがまんするか……いでっ!」
ラリサに向き直った真奈の額に、チョップが炸裂する。
「がまんするとはなによ、がまんするとは。私のが小さいってケンカ売ってるの?」
いつもはにこやかなラリサも、さすがに怒っている。細くスタイルがいいが、胸が若干慎ましいのが彼女の悩みだ。
「では会長を……ぎゃっ!」
千里が、マナの右手の親指を取ってひねる。
「だめに決まってるでしょ」
クールな笑いを浮かべているが、目が笑っていない。
「七美せんぱーい……?」
今度は真奈は七美に近寄る。
「そんな顔しても揉ませてあげないよ」
媚びるような絵美と口調を、七美は冷たく一刀両断する。
「ならばサーリャちゃんを……って……。それはさすがに犯罪か……」
乳揉み魔にも最低限の倫理はあるらしい。八歳の少女のぺったんこの胸に手を伸ばすことは、さすがにできなかった。
「ババ抜きじゃないんだから……」
綾音が呆れた様子で笑う。
「どうせなら、男どもの胸でも揉んでなさい。それならセクハラにならないでしょ」
千里が妥協案を出す。
「えー……。男の胸なんて……!」
「しっ!」
真奈の言葉を、七美が遮る。
「どうしたんです……?」
「…………」
綾音の問いには答えず、少女はゆっくりと湯船の外に手を伸ばす。湯桶を掴み、優雅な動作で投擲する。
「ぎゃあっ!」
悲鳴が上がる。フリスビーのように舞った桶が、檜の壁の上から身を乗り出していた者の顔を直撃したのだ。ガッシャーーーーンッ。ものすごい音が、男湯の方から聞こえる。
「ちょっと……すごい音したけど大丈夫かしら……」
綾音が心配そうになる。誰か大けがをしていないだろうか。
「脚立の音ですね……。わざわざ外から持ってくるとは……」
ラリサが呆れる。
「脚立が倒れた音だったのか……。覗きもそこまでされると、少し尊敬しちゃうわ……」
千里がクールな美貌を苦笑いにする。
(全く……風呂場に脚立持ち込むなんて変な知恵回すやつというと……)
七美には推測がついた。この状況で覗きを可能にした犯人が。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
月影館の呪い
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。
彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。
果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
おさかなの髪飾り
北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明
物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる
なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか?
夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた
保険金殺人なのか? それとも怨恨か?
果たしてその真実とは……
県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる