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05 愛だの恋だの仕事だの

豪雨と小悪魔の微笑み

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05

 連休2日目。
 瞳は勇人とデートに繰り出していた。
 行き先は森林公園。
 森林浴が楽しめるだけでなく、周辺にはスィーツが美味しいカフェがあったり、おしゃれな雑貨屋があったりと、デートスポットとして有名だった。
 が…。
 
 「ちくしょう、本降りになってきましたね」
 「1日晴れの予報なのになんで…」
 デートもたけなわ。
 少し離れているが、美術館に移動しようとしたところで、突然豪雨に襲われたのだ。
 誰もが予想していなかったらしく、雨の中を走り抜けるか、どこかの軒先で雨宿りするか、コンビニでビニール傘を買うか、いずれかを迫られている。
 「参ったな…びしょ濡れっすね…」
 「うー…水に落ちたみたいだよ…」
 取りあえず近くにあったコンビニに避難した勇人と瞳は、天気の神様に文句を言いたい気分だった。
 よりによって休日、あまつさえデートの最中にゲリラ豪雨など、自分たちに何の恨みがあるのかと。
 「うーん。先輩、俺の実家この近くなんすよ。
 このままじゃなんだし、服を乾かしてシャワーを借りませんか?」
 「下着までずぶ濡れだし…仕方ないねー…。お世話になろっか…」
 雨に降られてずぶ濡れになると、心までじめじめと後ろ向きになる。
 2人ともすでにデートという気分ではなくなっていた。
 それより、一刻も早くこの湿った服と靴下をなんとかしたかった。
 
 「いらっしゃい。うわ、2人ともひどいことになってる」
 澄野家で出迎えてくれたのは、勇人の妹のつかさだった。
 なんでも、つかさの両親も外出先でこの雨に遭遇し帰れなくなっているらしい。
 「つかさちゃん。お邪魔します」
 「と…とにかくバスタオル持ってくるから少し待っててください…」
 つかさはそう言って風呂場に向かう。
 確かに、このまま上がったら水滴で床がひどいことになってしまう。
 つかさが持ってきてくれたバスタオルでずぶ濡れの体と髪を拭きながら、取りあえず風呂を借りる。
 勇人が「お先にどうぞ」と譲ってくれた好意に甘えることとする。
 「洗濯物出しておいて下さい。
 乾燥機にかければ1時間もあれば乾きますから」
 つかさがそう言って洗いかごを差し出して来る。
 (まずいな…)
 瞳は固まってしまう。
 ちょっとまずいことがあるのだ。
 今日はいてきたパンツ。
 まだきれいだと思っていたのに、先ほどトイレで良く見ると、クロッチ部分にいわゆるマン筋がついていることに気づいた。
 用足しの後の処理がズボラだとか、生理中の処置が雑だとかいうことはないはずだ。
 パンツにはどうしたっていずれマン筋がついてしまうものだ。
 だが、デートでマン筋つきのパンツをうっかりはいてきてしまったのは不覚だった。
 同性のつかさでも、見られるのは恥ずかしい。
 「ええと…じゃあ服と靴下だけお願いできるかな?
 下着は…ちょっと洗うのに手間のかかるやつで…帰ってから自分で洗うから」
 「そうですか。でも、帰るとき下着どうするんです?」
 「大丈夫。コンビニで替えを買ってあるから」
 「わかりました。じゃあ、洗っておきますからごゆっくり」
 つかさはそう言って洗濯物を洗濯機に放り込み始める。
 かなり手慣れている。
 普段からお手伝いをきちんとやる子なのだろう。
 (かわいいな)
 そう思う。
 最近、つかさの自分に対する態度も軟化している気もする。
 焼き餅を焼く一方で、なついてくれている。
 そう思えるのだ。
 
 「瞳さん、瞳さん」
 シャワーを終えて髪を乾かす瞳を、つかさが手招きする。
 「なあに?」
 瞳はつかさの背丈に合わせて少しかがむ。
 「マン筋おパンツ」
 「え…?」 
 瞳は心臓が口から飛び出そうになる。
 (なぜつかさちゃんがそれを…?)
 エスパーでもなければわからないはずだった。
 「その様子じゃ図星だったっぽいですね。
 できちゃいますよねえ。おパンツにマン筋」
 瞳は、誘導尋問に引っかかった事を悟る。
 沈黙は肯定の証だ。
 「その…。まだきれいだと思ってたけど、さっき気づいたの…。
 うかつだったわ…」
 「まあ、生理現象だし仕方ないけど、デートのときは勝負パンツをお勧めしますよ。
 そして、日常用とデート用は分けるべきかと。
 男女って、いつどんなきっかけでいいムードになるかわからないんですから。
 逆の場合を想像してみて下さい。
 男のパンツに黄色とか茶色の染みがついてたら、ムードぶち壊しだと思いません?」
 瞳はぐうの音も出なかった。
 つかさの言うとおりだ。
 (おませさんだなあ…)
 そんなことを思い、12歳の女の子にやり込められる自分の深くを恥じる。
 「まあ、それは次の教訓とするとして、取りあえずこれを着てて下さい」
 そう言ってつかさが差し出したのは、Yシャツだった。
 「これってお兄さんの?」
 「そうです。彼シャツってやつ?
 ありがたく思ってくださいよ」
 小悪魔的な表情でそう言うつかさ。
 「うん、ありがとう、つかさちゃん」
 瞳は素直に感謝する。
 デート中突然の豪雨で体も心もずぶ濡れで寒くなっていた。
 だが、勇人のシャツを着ていると思うと、なんとなく幸せな気分になってくる。
 今日のデートで、一番嬉しかったことかも知れなかった。
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