私にモテ期とか冗談でしょ？ アラサーオタ喪女に突然の逆ハーレム

０３ 寒い日々だから

お年頃の思い

０９

　道中のうどん屋でお腹を満たし、寒さに震えながら瞳とつかさはビジネスホテルにたどり着く。
　うどんであったまった体は、チェックインした時にはすっかり冷えてしまっていた。
　暖房をかけ、風呂を入れる。
　「お風呂わいたよ。どうする、先に入る？」
　「いえ…どうぞお先に…」
　相変わらず固い表情で応じるつかさは、寒さに震えているように見えた。
　（待たせちゃかわいそうだな…。でも、私も早く暖まりたいし…）
　そう思う瞳は、風呂場をもう一度覗き込んでみる。
　どちらも待たない方法、あるにはありそうだ。
　「早くあったまりたいし、一緒に入ろうか。洗ってあげる」
　「わたし…子供じゃないから…」
　「まあ、いいからいいから」
　つかさを待たせるのも忍びないし、冷えてしまった体で自分が待つのも辛い。
　そう考えた瞳は、半ば強引につかさの制服を脱がせていく。
　「うわ、冷たい。早く入りましょうよ」
　瞳は、つかさの体の冷たさに驚く。女の子がこんなに冷やしてはまずいだろう。
　「は…はい…」
　瞳の強引さに押し切られたのが半分、早く湯に浸かりたいのが半分で、つかさは服を脱いでいく。
　
　「あー温かい。生き返るわー」
　「そうですね。いいお湯です」
　ホテルの湯船は、無理をすれば女２人が入れるだけの広さがあった。
　これが完全に１人用の湯船だったら、どちらかが震えながら待つことになったことだろう。
　（つかさちゃん美少女だと思ってたけど、裸もすごくきれい…）
　そっちの趣味はないはずだったが、瞳はつかさの生まれたままの姿につい見とれてしまう。
　華奢だが、丸みを帯び始めている体は、正に美少女から美女へと成長しかけているといえる。
　「あの…なにか…？」
　瞳の視線に気づいたらしいつかさが、いぶかしげな視線を返してくる。
　「いえね…その…。
　つかさちゃんさすがに若いなーって。お肌つるつるで、きめ細かいし…」
　つかさの裸に見ほれていたとは言えない瞳は、当たり障りのない返答を返す。
　下手をすれば、同性でも児童福祉法違反だ。
　「秋島さんこそ…。おっぱい大きいんですね…」
　つかさが視線のお返しとばかりに、瞳の胸の膨らみを見つめながら言う。
　「ふふふ、ありがと」
　褒められているわけではないかも知れないが、素直に礼を述べておく。
　が、どういうわけか、つかさがいよいよ我慢していたものが吹き出すような様子になる。
　「そのおっぱいで、兄貴を誘惑したんですか？」
　「え…？」
　きつい口調で言ったつかさは、両手で瞳の膨らみをぎゅっとつかむ。
　「きゃっ！」
　つかさのとうとつな行為に、瞳は慌てる。
　学生時分まで、ふざけて女同士で胸をもみ合うようなことはあった。
　だが、つかさの表情に戯れの成分はない。
　むしろ、わだかまりや嫉妬などの感情に満ちているようにも見える。
　それがなんだか怖かった。
　「どうせ、わたしのは小さいです…！」
　つかさが自分の胸元に目線を落として、涙目になる。
　（さっきの言葉といい、もしかして…）
　瞳は確信することがあった。
　「つかさちゃんは…お兄ちゃんのことが大好きなんだね」
　その言葉に、つかさは耳まで真っ赤になる。
　「な…なにを言って…。
　わたしはブラコンじゃないし…！
　あんな…でっかいだけの場所取り…」
　（ツンデレか…かわいいな…）
　ブラコンであると認めたくないのか、つかさがツンツンするのがかわいく思えてしまう。
　「あらそう？」
　瞳は我知らず生暖かい笑顔になってしまう。
　「なんでそこで笑うんです！？
　うちの兄貴すけべでおばかさんだから、妹としていろいろ心配なだけです！」
　むきになるつかさは、年相応の女の子だった。先ほどまでの、感情を固い表情の裏に押し殺した様子はもうなかった。
　「ふうん。
　お兄さんが好きでも、べつになにも悪くないと思うけどな？
　けっこう素敵なお兄さんだし」
　「だから違いますって！」
　風呂場に響く大きな黄色い声を上げるつかさは、完全に恋する女の子に見えた。