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03 寒い日々だから
年明けの大役
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01
“会議は踊るされど進まず”という言葉がある。
1814年のウィーン会議の、遅々として進まない様子を揶揄した言葉だ。
各国の利害の対立や意地の張り合いなど問題はいろいろあったが、一番の原因は危機感のなさだったと言える。
要するに、妥協が成立せず会議がまとまらなくとも誰も本当に困らない。それが当事者たちに問題解決の努力を怠らせていたのだ。
それが証拠に、失脚して流刑に処せられていたナポレオン・ボナパルトが復権すると、危機感を抱いた各国代表はあっさりと妥協して会議をまとめてしまう。
「揉めている場合ではない」「会議がまとまらなければ自分たちは滅ぶ」
そんな状況になるまで、誰も本気で妥協点を探すことも、問題解決の努力をすることもなかったのだ。
同じようなことは現代でも起こりえる。
少子高齢化、貧困、温暖化、児童虐待、ギャンブルや薬物の依存症。
日本という国家の枠組みだけでも解決すべき問題は山積みなのに、抜本的な対策はまったくと言っていいほど打ち出されない。
やはり原因はいろいろあるだろうが、一番には危機感のなさが大きいのだろう。
今日明日に危機が訪れるというわけでもないから、誰も本気で解決に取り組まないのである。
ともあれ、問題の存在を認識し、解決しようとするふりくらいはする必要がある。
と考える人間は多い。
正月明けの臨海副都心、合同庁舎の会議室で行われているプレゼンと会議も、そのような“解決するふり”の一環だった。
各省庁や企業、NGO団体などが集まり行われる定例の横断的な勉強会。
議題は食糧問題だった。
食料自給率の低い日本は、食料輸出国になにかあった場合たちまち飢餓に見舞われてしまう危険がある。
それ以前に、2050年代には世界人口が90億を突破し、温暖化なども絡んで食糧危機が発生する可能性が示唆されている。
それらの問題が現実のものになった時に備えて、今のうちに対策を話し合っておこうというわけだ。
形だけでも、だが。
「まさか私がプレゼンをやることになるとは…」
プレゼン用の資料とパワーポイントのデータをチェックしながら、秋島瞳は嘆息する。
「まあ、勉強会なんだし気楽な気持ちで話せばいいさ。
アイディア自体も悪くない。それは俺が保証するよ」
広報課長として、青海商事からの出席者のリーダーを務める夏目龍太郎がフォローを入れる。
(よもや私の宿題が勉強会向けに採用されるとは…)
省庁や企業、各団体のそれなりに立場のある人たちの前で馴れないプレゼンをするプレッシャーは、瞳にとって半端ではなかったのだった。
ことの始まりは、暮れの仕事納めの直前に青海商事の社員たちに出された宿題だった。
「遠からず起こりえる食料危機に対して、それぞれ考えられる対策を延べよ」
要するに、年明けの勉強会のために乏しい知恵を絞らせようというものだった。
意外にも社員たちは熱心にこの宿題に挑んだ。
商社という立場上、もし食糧危機が起きるようなことがあれば会社の存亡にかかわる事態も考えられる。
みなが本を読み、インターネットで必要なことを調べて、自分なりに対策をまとめた。
実現するかどうかはともかく、個性的で興味深いアイディアが集まったらしい。
その中で、独創性や実現可能性、コストパフォーマンスなどを勘案した結果、瞳が提出した案がもっとも優れているとされた。
そこまでなら良かったのだが…。
「え…私が発表するんですか…?」
「問題あるか?君が発案したものだろう」
龍太郎の意向で、なんと瞳自身が勉強会でプレゼンを行うことになってしまったというわけだ。
“会議は踊るされど進まず”という言葉がある。
1814年のウィーン会議の、遅々として進まない様子を揶揄した言葉だ。
各国の利害の対立や意地の張り合いなど問題はいろいろあったが、一番の原因は危機感のなさだったと言える。
要するに、妥協が成立せず会議がまとまらなくとも誰も本当に困らない。それが当事者たちに問題解決の努力を怠らせていたのだ。
それが証拠に、失脚して流刑に処せられていたナポレオン・ボナパルトが復権すると、危機感を抱いた各国代表はあっさりと妥協して会議をまとめてしまう。
「揉めている場合ではない」「会議がまとまらなければ自分たちは滅ぶ」
そんな状況になるまで、誰も本気で妥協点を探すことも、問題解決の努力をすることもなかったのだ。
同じようなことは現代でも起こりえる。
少子高齢化、貧困、温暖化、児童虐待、ギャンブルや薬物の依存症。
日本という国家の枠組みだけでも解決すべき問題は山積みなのに、抜本的な対策はまったくと言っていいほど打ち出されない。
やはり原因はいろいろあるだろうが、一番には危機感のなさが大きいのだろう。
今日明日に危機が訪れるというわけでもないから、誰も本気で解決に取り組まないのである。
ともあれ、問題の存在を認識し、解決しようとするふりくらいはする必要がある。
と考える人間は多い。
正月明けの臨海副都心、合同庁舎の会議室で行われているプレゼンと会議も、そのような“解決するふり”の一環だった。
各省庁や企業、NGO団体などが集まり行われる定例の横断的な勉強会。
議題は食糧問題だった。
食料自給率の低い日本は、食料輸出国になにかあった場合たちまち飢餓に見舞われてしまう危険がある。
それ以前に、2050年代には世界人口が90億を突破し、温暖化なども絡んで食糧危機が発生する可能性が示唆されている。
それらの問題が現実のものになった時に備えて、今のうちに対策を話し合っておこうというわけだ。
形だけでも、だが。
「まさか私がプレゼンをやることになるとは…」
プレゼン用の資料とパワーポイントのデータをチェックしながら、秋島瞳は嘆息する。
「まあ、勉強会なんだし気楽な気持ちで話せばいいさ。
アイディア自体も悪くない。それは俺が保証するよ」
広報課長として、青海商事からの出席者のリーダーを務める夏目龍太郎がフォローを入れる。
(よもや私の宿題が勉強会向けに採用されるとは…)
省庁や企業、各団体のそれなりに立場のある人たちの前で馴れないプレゼンをするプレッシャーは、瞳にとって半端ではなかったのだった。
ことの始まりは、暮れの仕事納めの直前に青海商事の社員たちに出された宿題だった。
「遠からず起こりえる食料危機に対して、それぞれ考えられる対策を延べよ」
要するに、年明けの勉強会のために乏しい知恵を絞らせようというものだった。
意外にも社員たちは熱心にこの宿題に挑んだ。
商社という立場上、もし食糧危機が起きるようなことがあれば会社の存亡にかかわる事態も考えられる。
みなが本を読み、インターネットで必要なことを調べて、自分なりに対策をまとめた。
実現するかどうかはともかく、個性的で興味深いアイディアが集まったらしい。
その中で、独創性や実現可能性、コストパフォーマンスなどを勘案した結果、瞳が提出した案がもっとも優れているとされた。
そこまでなら良かったのだが…。
「え…私が発表するんですか…?」
「問題あるか?君が発案したものだろう」
龍太郎の意向で、なんと瞳自身が勉強会でプレゼンを行うことになってしまったというわけだ。
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