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二限目 便りがないのは元気な証拠
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しおりを挟む孝兄と別れて帰宅してきた俺は、当然ながら部屋で結月とイチャイチャはしなかった。
今日も今日とて俺の部屋に窓から侵入してきた結月は、相変わらず俺の部屋のベッドの上に制服姿で寝転がり
「ほんと、孝ちゃんにも困ったものだよ。僕達の姿を見掛けたら、必ずと言っていいほど声を掛けてくるんだから。馴れ馴れしいったらありゃしない」
早速数分前に会ったばかりの孝兄の文句を言い始めた。
優しくてフレンドリーな近所のお兄さんに声を掛けられることの何がそんなに気に入らないんだか。結月はまともな人付き合いができないのだから、少しは孝兄で他人と交流することに慣れて欲しいものである。
まあ、言ったみたところで、結月は俺の言葉に耳なんか貸さないんだろうけれど。
「何を言っているんだ。ああやってお前に話し掛けてくれる人間は貴重なんだぞ? そういう人間はもっと大事にするべきだ」
それでも、孝兄を慕う俺としては、たとえ相手が結月であっても、目の前で孝兄のことを悪く言われたくない気持ちが作用して、ついつい小言の一つくらいは言いたくなる。
ところが
「それが余計なお世話なの。僕は一日の中で御影以外の人間と言葉を交わしたくないっていうのに」
結月からはそんな返事が返ってくるから、俺は呆れると同時にげんなりしてしまう。
俺以外の人間って……。そういうわけにはいかないだろう。
結月は家で過ごす時間の大半を俺の部屋で過ごしているが、それでも夕飯は自分の家で食べているし、家族とは仲もいい。早乙女家の中では普通に家族と話しているだろうし、俺の家族に話し掛けられれば、至って普通に言葉も交わす。結月が丸一日俺としか喋らないことのほうが不可能だと思う。
「しかも、孝ちゃんの癖に彼女連れってところが生意気だよね。僕達に対抗してるつもりなのかな? この世のどんな恋人同士も、僕と御影の深い愛の絆には勝てないっていうのに」
「……………………」
相変わらず結月がわけのわからないことを言っているが、とりあえず無視しておいて大丈夫だろう。
元々俺は結月の戯言というか、妄言に、いちいち全部対応してやるほど忠実な人間でもないのだ。
しかし、今の結月の発言で気になるところが一つある。
「彼女? いやいや。あの人って男だろ?」
結月は今、孝兄が連れていた透さんなる人物のことを〈彼女〉と口にしたが、俺が見る限りあの人は男で、どう見ても孝兄の友達にしか見えなかった。
それとも、結月の目には透さんが女の人に見えてしまったのだろうか。確かに、一目見ただけでは透さんの性別をすぐには判断できなかったけれど。
「ふ♡ ふ♡ ふ~♡ 御影は甘いね。自分の家に招き入れるような相手だよ? そんな相手がただの友達なわけがないじゃない」
自信満々に、そして誇らしげに言う結月を、俺は憐れむような目でしげしげと見下ろした。
その言い分だと、毎日結月に自室への侵入を許している俺は、確かに結月とはただの友達ではなくなってしまうな。
と言うよりも、友達を家に招いただけで恋人認定をされてしまうのであれば、世の中はカップル同士で溢れ返っているじゃないか。それはさすがに考え方が乱暴過ぎるというものだ。
そんな思考を聞かされてしまっては、俺は結月の前で友達の家に遊びに行くことすら儘ならなくなってしまう。
もっとも、俺が過去に遊びに行ったことがある家なんて、親戚の家が結月の家くらいのものではあるが。
第一、性別の問題はどこに行った?
百歩譲って、女の子が男の家に招かれたのであれば、そういう目で見られても仕方がないとは思うが、男同士でお互いの家に行き来するのなんて普通だ。それは女の子同士でも同じこと。
その場合、誰が「自分の家に恋人を連れてきちゃった♡」と思うんだよ。おそらく、誰一人としてそんな風には思っていないはずだ。
まあ、中には例外もいるのかもしれないが、孝兄に限ってそれはないと思う。孝兄本人も「レポートを見てもらう」って言っていたし。
全然関係ないが、〈レポート〉って響きが大学生っぽくて格好いいよな。
「男同士でお互いの家に行き来するのなんて普通だ。そこに特別な意味なんてないだろ」
何やらにやにやしている結月に向かって、冷めきった顔と声で言ってやると
「そんなことはない。現に僕や御影は友達の家になんか遊びに行ったことがないじゃない」
俺の心を抉るような悲しい言葉が返ってきた。
ぐぅ……。事実ではあるがダメージが……ダメージが半端ない。俺と結月を一緒にされたことにも傷ついた。
大体、人と関わるつもりがなくて友達のいない結月が、友達の家に行ったことがないのは当たり前だ。友達がいない癖に、どうして自分を基準にして物事を考えるんだ。どう考えても間違っているだろう。
「つまり、友達の家には遊びに行く必要がないってことだよ。そもそも、友達の家に遊びに行って何をするの? それって楽しいの? 普通に考えたら、いくら友達でも自分のプライベートな空間に他人を入れるのって嫌じゃない? 友達と遊びたいなら外で遊ぶべきだよ」
だが、俺の常識など全く通用しない結月は、俺が何も言い返さないことをいいことに、ここぞとばかりに自分の主張で俺を説き伏せてくる。
だから、それはあくまでも結月の考え方であって、そういう人間もいるにはいると思うけれど、世の中の友達同士の全部がそういうわけじゃないんだよ。
それに、俺のプライベート空間である俺の部屋に、当たり前のように無断で侵入してくる結月に〈プライベート〉という言葉を使われたくない。
「仲のいい二人が家の中ですることと言ったら、それはもうエロいことでしかないんだよ。だから、人を自分の家に招くということは、その二人が恋人同士ってことになるんだよ」
俺が全く納得していない顔をしているにも拘わらず、結月は胸を張ってそう結論付けた。
俺がいつ、部屋の中で結月とエロいことをしたという。自分の経験に基づいた結論であったとしても、そこは大いに間違っている部分だ。
「その証拠に、僕と御影だっていつもこのベッドの上で……あぁんっ♡」
「気持ち悪い声を出すなっ! お前のそんな声、今初めて聞いたわっ!」
人のベッドの上で勝手に身悶えるな。芋虫みたいな動きをするな。心の底から気持ちが悪いじゃないか。
「またまたぁ~。ほんとはドキッとしたし、ムラッともした癖に」
「してねーよっ!」
何が「またまた」だ。どういう意味での「またまた」だ。俺が嘘を吐いているとでも言いたいのか。
全人類に誓って言うが、俺は断じて嘘など吐いていない。俺は結月に〈ドキッ〉とも〈ムラッ〉ともしていない。
心底腹立たしげに結月を見下ろす俺に、結月は相変わらずにやにやとした顔で余裕綽々だった。
今日もいい感じに結月に振り回されている俺である。
どうでもいいが、どうして結月の思考はすぐエロに結び付けようとしてくるのだろうか。結月がこういうことを頻繁に口にするようになったのは、俺と結月が中学生になった頃からだ。
きっと、その頃に思春期というものが始まって、当時は今よりももっと子供っぽかった結月も、見た目の子供っぽさとは関係なく、性に対する興味を持ち始めたのだろう。
ちょうどその頃から俺の姉ちゃんと夜明さんが付き合い出したことだし。
つまり、結月も〈多感なお年頃〉という奴なのだ。
それで、友達のいない結月は俺以外の人間とエロい話ができないものだから、こうして俺との会話の中にすぐエロを織り込んでくるようになったのだと思う。
俺としては迷惑でしかない話だし、毎回毎回俺をエロの対象にして欲しくもないのだが、〈そういうお年頃なら仕方がない〉と、ちょっとだけ受け入れてしまっているところはある。
だって、結月には他にこういう話ができる相手がいないわけだし。少しくらいは付き合ってやらないと、結月のことだから変な行動に出られても困る。
いや。もう充分変な行動に結びついてしまっているけれど。
「御影ってさ、身体のわりには中身がまだまだ全然お子様だよね。こういう話にはちっとも乗ってこないんだから」
「ん? ああ……まあな」
痛いところを衝かれた気がする。
そりゃ俺だって高校生にもなったのだから、それなりに異性に対して興味のようなものはある。極々たまにではあるが、エロいことを考える時だってある。
しかし、俺は元々性欲というものがあまり強くないのか、誰かとエロい話で盛り上がりたいという願望はないし、そういう話をしていること自体、物凄く後ろめたいものを感じてしまう性格の持ち主だったりする。
加えて言うなら、結月とエロい話で盛り上がりたくない。
「もしかして、むっつり?」
「人聞きが悪いなっ! 俺は健全だっ!」
いつも人の部屋でわけのわからない言葉を撒き散らし、ありえない妄想をし、妄言を吐きまくる結月には「むっつり」と言われたくない。「お前の頭の中こそ、むっつり思考の宝庫だろう」と言ってやりたい。
「健全? 健全って言うなら、どうして僕に襲い掛かって来ないの? こうして僕が無防備な姿で御影のベッドの上に横たわっているのに。健全な男子だと言うなら、愛らしい僕の姿に脇目も振らず襲い掛かってくるところだよ」
「どうして俺がお前に襲い掛からなくちゃいけないんだよ。そこまで欲求不満じゃない。脇目も振らずって、俺は猪か?」
「僕に向かって猪突猛進。大丈夫。僕はそんな御影もしっかりと受け止めてあげるよ」
「お前は本当に俺の話を聞かないな」
何が悲しくて、俺は結月と毎日こんな会話をしているのだか。そもそも、最初はこんな話なんかしていなかったよな?
孝兄が連れて歩いていた透さんについての話をしているつもりだったのに、どうして最終的にはこうなってしまうんだ。
「御影」
「何だよ」
「僕は今、物凄く御影に抱っこして欲しい気分です」
「はあ?」
でもって、挙げ句の果てには俺との触れ合いまで求めてくる結月に、俺は呆れを通り越して心配にすらなってしまう。
見た目もまだまだ子供っぽいままではあるが、俺とこんな毎日を過ごしている結月は、この先ちゃんとした大人になれるのだろうか。
まだ高校生になって二ヶ月ほどしか経っていないが、三年後には大学生になり、その後は社会人になる。
これまでの十六年間、ひたすら自分のやりたいようにしか生きてこなかった結月は、一人の自立した大人として、ちゃんと世に出て行けるのだろうか。
「抱っこってなぁ……。何だって急にそんな子供みたいなことを言うんだよ」
最早学校帰りに孝兄と遭遇したことなんて忘れてしまっている様子の結月に聞くと
「御影のお子様レベルに合わせてみようかと思って。あと、最近御影に抱っこしてもらってないと思ったから」
という返事が返ってきた。
そんなことでお子様の気持ちがわかるものか。何よりも、人に抱っこをして欲しがる時点で、俺なんかより結月のほうがよっぽどお子様だろう。
「御影~。抱っこ、抱っこ、抱っこ~」
「へいへい。してやるから騒ぐな」
言っていることだけでなく、声までも完全に甘えた子供の声になる結月に騒がれて、俺は渋々結月の身体を抱っこしてやった。
全く。どうして俺と結月ってこうなんだろうな。もう当たり前になってしまっているから俺も結月との付き合い方を受け入れてしまっているが、どう考えても、俺と結月の関係性は普通じゃない。というか、歪だ。
「ふふふ♡ いつ振りかな? 御影の抱っこ」
ベッドに腰掛けた俺が結月に手を伸ばし、小さな結月の身体を抱き上げてやると、結月は満足そうにそう言って、俺の胸にすりすりと頬擦りしてきた。
他人と関わることは嫌がる癖に、身内の前では寂しがり屋で甘えっこだったりもするんだよな、結月は。夜明さんが家を出てしまったのが寂しいのかもしれない。
「それにしても、男同士でこういうのもなぁ……。俺としては何だか不自然さを感じて仕方がないんだけど」
「そう? 僕は全然そんな風に感じないよ。だって、御影だもん」
「いくら幼馴染みだからって、普通、男同士でこんなことはしないぞ?」
「いいんだよ。これが僕と御影の普通なんだから」
結月の希望通り、結月を抱っこしてやった俺ではあるが、落ち着かない感じと、何をやっているんだ? 感が半端なかった。
誤解のないように言っておくが、俺は〈普通〉と言われるほど日常的に結月を抱っこしてやっているわけではない。
全くしてやったことがないわけでもないが、俺がこうして結月の我儘を聞いてやって、結月を抱っこしてやることなんて月に一回あるかないかだ。
「きっと今頃孝ちゃんと彼女さんもベッドの上で凄いことをしている頃だよ。御影も試しにしてみない?」
「だから、あの人は孝兄の彼女じゃなくて友達だと思うぞ?」
もう孝兄の名前なんて出てこないだろうと思っていたのに。俺に抱っこしてもらってご満悦な結月は、ここで再び孝兄の話題を口にしてきた。
孝兄と透さんのことを誤解していることももちろんだが、ナチュラルに俺をエロいことに誘ってこないで欲しい。
「いいや。あれは絶対に孝ちゃんの彼女だよ。そうじゃなきゃ、孝ちゃんがあんな上物を誇らしげな顔で連れ歩くはずがないじゃない」
「そんな顔して歩いているようには見えなかったぞ」
結月に言われて帰宅途中に遭遇した孝兄の顔を思い出してみたけれど、俺には「いつもの孝兄だった」としか思えなかった。
それにしても
「っていうか、お前が人の容姿を褒めるなんて珍しいな。まさかお前の口から〈あんな上物〉なんて言葉が出てくるとは思わなかったよ」
結月が誰かの容姿を褒めるのも珍しい。
先月出逢った佐藤さんのことは〈どこにでもいそうな量産型のメス〉と評価していたから、それに比べたらえらい違いだ。
「そんなことないよ。僕の審美眼は優れているから、綺麗な人は綺麗って言うし、可愛い人は可愛いって言うよ?」
「ああ、そう……」
俺はそう言っている結月の姿というものの記憶がないんだけれども。
しかしまあ、つまりはそういうことか。佐藤さんは結月の中では綺麗でも可愛くもなかったわけか。俺の目には結構可愛い子に映っていたんだけれどな。
だが、透さんがとても綺麗な顔をしていたことは事実だから、透さんのことを〈上物〉と評価する結月の意見には賛成だ。
もし、透さんが男ではなく、一目見ただけで女性とわかる人だったのであれば、俺はうっかり一目惚れというやつをしていたかもしれないくらいだ。
「普通、ああいう上物が孝ちゃん如きを相手にするとは思えないんだけど。あの人ちょっと暗そうだったし。お調子者の孝ちゃんに上手いこと言われて、すっかり誑かされちゃったクチだよね」
「おい」
恩人に対して何たる言い種だ。
今から九年前。孝兄が結月を助けてくれなかったら、今頃結月は人殺しになっていたかもしれないというのに。
「孝ちゃんも上手いことやったものだよ。あんな上物を捕まえたんだから、そりゃもう家に連れ込んだらやりたい放題だよね」
「待て待て。そんなことを言われたら、うっかり想像してしまいそうになるだろ。やめてくれよ」
何が悲しくて、俺は男同士のそんなシーンを想像させられなくちゃならないんだ。結月は透さんが男であることにまだ気が付いていないのだろうか。
そう言えば、俺が透さんのことを「男だろ?」と言った時、結月はその言葉を肯定も否定もしていない。
「ふぅ~ん。想像しちゃうんだ。やっぱり御影ってむっつりだね」
「先に変な想像をしたのはお前だよな?」
確かに、うっかり孝兄と透さんのいけないシーンを想像してしまいそうになった俺はむっつりなのかもしれないが、それは結月がそういうことを言ったからで、俺が一人で勝手に想像しようとしたわけではない。
「想像するだけじゃなくて、実際に僕で体験してみればいいことなのに。甲斐性なしの孝ちゃんでもできることなのに、どうして御影はできないの?」
「どうして俺とお前でエロいことをしなくちゃいけないのかがわからないし、俺は孝兄とあの人が恋人同士だとも思っていない。あと、孝兄は甲斐性なしでもないと思う」
結月の言葉には色々と突っ込みたくなる部分が多々あり、今回はその全部に突っ込みを入れた俺は
「じゃあ賭ける?」
いきなり結月にそう提案されて
「え? 何を?」
と返していた。
「孝ちゃんとあの人との関係だよ。僕は二人が付き合っているほうに賭けるよ。僕が勝ったら御影には一晩中、僕を抱っこしたまま寝てもらうね」
「………………………」
何だ、それ。どういう罰ゲーム? ただでさえ、今こうして結月の我儘に付き合って結月を抱っこしてやっている最中だというのに、その俺に一晩中結月を抱っこしたまま寝ろだって? そんな苦痛があって堪るか。そんな条件を出されたら、俺は結月の賭けになんか乗らないぞ。
(いや……ちょっと待て。要は俺が結月との賭けに勝てばいいだけの話だよな?)
俺ははたと思い止まる。結月との賭けに乗るつもりはなかったが、俺が勝った時の条件も出していいのであれば、この賭けに乗る価値はある。
だって俺、孝兄と透さんが付き合っているとは思えないし、そんなことは絶対にないという自信もある。
「じゃあ、俺が勝った時は一週間……いや、三日間だけ俺に自由な時間を与えてくれるか? 三日間だけ俺の部屋にお前が遊びに来ないって言うなら、その賭けに乗ってやってもいい」
結月は一晩中という条件だが、俺は強気に三日間にしてみた。
最初は一週間にしようと思ったが、さすがにそれだと結月も条件を飲まないと思ったし、飲んだとしても絶対に破る。
それならば、最初から結月がギリギリ守ってくれそうな三日間という条件に設定しておいたほうが、俺も約束を破られずに済みそうだ。
「いいよ」
「え?」
正直、それでも結月は「それは嫌」と言うかと思ったが、意外にも結月は俺が勝った時の条件をあっさり飲んでしまった。
余程自分の読みに自信があるのだろうか。結月がそんな自信満々だと、俺の自信が揺らぎそうになる。
まあ、自分の読みに相当な自信があるからなのか、自分の読みが外れた場合、全力で賭けをなかったことにする自信があるからなのかが微妙なところではあるが。
しかし、孝兄を俺達の賭けの対象にしてしまうというのも、何だか少し失礼な気がする。
「ちなみに、孝ちゃんに確認する役目は御影に譲ってあげるよ。その代わり、僕に嘘ついちゃダメだからね」
「つかないよ。俺だって自分の読みには自信がある」
「譲ってあげる」だなんて、さも俺に優位な立場を与えているような言い方だが、こいつはただ単に孝兄と口を利きたくないだけである。
それに、そんな役を押し付けられてしまったら、俺は別に孝兄と透さんの関係を怪しんでいるわけでもないのに、今度孝兄に会った時は
『孝兄って、この前一緒にいた人と付き合ってるの?』
なんて聞かなくちゃいけないじゃないか。それって既に罰ゲームだよな。言い出しっぺは結月なんだから、結月が孝兄に確認するべきだ。
「なるべく早く確認してよね。僕は今夜にでも御影に抱っこしてもらったまま寝たいくらいなんだから。多分、適当に近所をうろついていたら、そのうち孝ちゃんに遭遇するだろうから、今週中に確認しておいてよ」
「闇雲に近所を徘徊するくらいなら、俺は直接孝兄の家に行くよ」
そもそもがあまり乗り気になれないというのに。孝兄に会うために近所を彷徨うなんて時間の無駄だ。孝兄の家がどこにあるかくらいは知っているから、孝兄に会いたいなら直接孝兄の家に出向いた方が早い。
「それはダメ。御影と孝ちゃんのことで近所に変な噂が流れたらどうするの?」
「流れねーよっ!」
そうだった。全力で突っ込みはしたが、こいつの中で人の家に出向くという行為は、人様からそういう目で見られるものだったな。
ひょっとして、だから俺の部屋に毎回窓から侵入してくるわけではないよな? そんなことをしたところで、俺と結月は既に近所の中ではわりと有名な二人組だったりもするが。
元々結月は近所でも〈ちょっと変わった子〉で有名だったが、誘拐未遂事件以来、完全に〈変わった子〉認定されている。そして、そんな結月といつも一緒にいる俺も、近所からは奇異の目で見られることが多かったりもする。
結月には俺と孝兄が噂になることよりも、俺と自分が噂されることのほうを気にして欲しいものである。
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