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Season 3
新年早々⁈(3)
しおりを挟む悠那との恋人同士の時間を堪能していると、あっという間に一時間以上も時間が過ぎていて、陽平はもちろん、陽平の後にお風呂に入った律や海ももう寝てしまっているのか、室内はシンと静まり返っていた。
俺は汚れたシーツをベッドから剥ぎ取り、洗濯機の中に放り込むと、洗剤と柔軟剤を投入し、夜遅いのにも構わずスタートボタンを押した。
うちの洗濯機は静音タイプなので、夜中に洗濯機を回したところで、近所迷惑にはならないのだ。もちろん、寝ている他のメンバーを起こす心配もない。
そして、そのまま悠那と一緒にお風呂に入った俺は――。
「え……バレちゃったの? お父さんとお母さんに?」
「うん。バレちゃったって言うより、白状させられたって感じでもあったんだけど」
そこで悠那の口から、俺達の関係が悠那の両親に知られてしまったという事実を聞き、驚かずにはいられなかった。
俺が帰った後、如月家ではそんなことになっていたなんて……。
「そ、それで? ご両親はなんて?」
「俺がいいなら好きにしなさいって」
「……………………」
俺達の関係が親に知られてしまったわりには、悠那は焦ったり思い悩んでいる様子もなく、いつも通りの悠那だった。だから、俺もそんなことがあっただなんて思いもしなかったし、気付きもしなかったのだが……。
どういう会話の末なのかは知らないけど、親に認めてもらえたというのであれば、悠那が焦ることはないし、悩むこともない。むしろ、もう親に気兼ねする必要もないから、悠那がいつも通りなのは当たり前ってことになる。
それにしても、本当に認めてくれるとは思わなかった。悠那の家に行った時、あんまり反対しなさそうなご両親だなぁ……とは思ったけど。実際はそう簡単には認めてくれないと思っていたのに。
「最初は色々言われたし、別れた方がいいとも言われたんだけど、俺が司じゃないとダメって気持ちを必死に訴えたら、二人とも折れてくれて、最終的には応援してくれるって言ってくれたよ」
「そ……そうなんだ……」
一体どういう会話がなされたんだろう。まさか悠那、俺とのことを何もかも洗いざらい全部話しちゃったんだろうか。
俺が悠那のファーストキスを奪った話とか、付き合う前にエッチなことしてた話とか、今はセックスしまくりの日々だって話とか……。
さすがにそれはちょっと不味い。俺のイメージがよろしくない。
悠那にそんなことをしておいて、何食わぬ顔で悠那の両親に会ってしまった俺は、“一体どういう神経の持ち主だ?”と思われたかもしれない。
こんなことなら、会って一番最初に言うべきだった。
『蘇芳司です。悠那とはお付き合いさせてもらってます』
って。
「あ、でも、エッチしてる話はしてないよ。キスまでってことにしてるから。全部白状しようかとも思ったけど、親にエッチしてるって話をするのはさすがに恥ずかしくて……」
「そう……」
良かった。そこはちゃんと恥ずかしいと思ってくれて。悠那の両親に関係を知られてはしまったけれど、俺と悠那はまだ清らかなお付き合いってことになっているようだ。
「そういうことしてるのか、って聞いてきた時のお父さんの顔もちょっと怖かったから、そこは“してない”ってことにしといた方がいいのかなって」
「そ、そうなんだ……。それはまあそうだろうね」
危ない危ない。そこで悠那が“黙っとこう”って思わなかったら、結果はまた違うものになってたかもしれないな。
悠那はもう子供じゃないとはいえ、まだ高校生だもんな。あの家族の様子からして、悠那が大事に大事に育てられてきたことは間違いないし、こんなに無邪気で可愛い悠那が、俺の前ではとんでもなく淫らな姿を見せてくれてるだなんて、親も想像できないだろうな。
俺と付き合っていることは認めてくれたようだけど、俺が悠那に手を出したとなると、“いくら好き同士だからって、高校生に手を出すとはなんて奴だ!”と思われてしまうということか?
言っても、俺と悠那は一歳しか違わないんだけど。
「ごめんね、バレちゃって。俺は上手く隠したつもりなんだけど、親の目は誤魔化せなかったみたい。司のところは大丈夫だったの?」
「うちは全然。悠那が可愛いって話だけで終わったよ」
「どうして俺はバレちゃったんだろう。俺、そんなにわかりやすいのかな?」
「うーん……」
これはあくまで俺の推測だけど、悠那の両親は最初から悠那にその心配をしていたから……ではないだろうか。
悠那は同性と付き合うだろう、と思っていたわけではないのだろうが、悠那の男の子にも女の子にも見られる中性的な容姿と、どちらにしても可愛いでしかない悠那は、男から狙われる可能性があるかもしれない……と心配されていたのでは?
世の中にはそういう事件がないわけでもないし。
もしかしたら、悠那は気付いていないだけで、過去にそういう目に遭い掛けたこともあったのかもしれない。男の不審者に何度も声を掛けられたことがあるとか、痴漢の被害にあったことがあるとか。
うちの息子は男に狙われやすい。と思われていたのだとしたら、悠那の隣りにいる男が、悠那にとって安全な人間だとは限らない。悠那は息子というより、娘のような心配をされてきたのではないだろうか。
悠那に危害を与える人間がいるとしたら、それは間違いなく女ではなく男。実家を離れた悠那が、男ばかりの新生活の中で、果たして平穏無事な毎日を送っているかどうかと、悠那の両親はさぞかし心配していたことだろう。
そこへ、悠那が俺を家に連れてきたものだから、こいつは果たして安全か? と警戒していると、悠那が俺に酷く懐いているし、俺のことが好きでしょうがない様子……とわかり、あれ? もしかして付き合ってる? ってなったのかもしれない。
これはまあ、悠那がわかりやすいってことも原因になるのだが、半ば娘同然のように育てられた悠那は、恋人に同性を選んだとしても、あまり違和感を抱かれなかったのかもしれない。
「でも、バレちゃったなら最初から言えば良かったね。俺が悠那と付き合ってるって話」
「こんなにすぐバレるとは思ってなかったんだもん。それに、俺も心の準備ができてなかったって言うか……。反対とかされたら嫌だったから」
「それもそうだね」
いつかはお互いの両親に……とは思っていたけれど、まだ時期尚早だとも思っていた俺は、結果、隠し事をしたまま悠那の両親に会ってしまったことになり、やや後ろめたい。
「近々改めて挨拶に行こうか? 黙ってたことも謝りたいし」
「うん。でも、時間がある時で全然いいよ。俺も学校あるし。うちの親も、“そのうちまた連れてきてね”って言ってたから」
「わかった。じゃあ時間ができたらね」
「うん」
心配事の一つが解消されたことはありがたいけれど、そうなると、うちの家族にもなるべく早く悠那との関係を明かすべきだろうか。
悠那の両親は知っているのに、俺の両親が知らないっていうのも誠実さに欠ける気がするし。
一応、俺と悠那との関係では、俺が悠那の彼氏役になるわけだから、男としての責任は俺が取るべきだって思うし。
「でも、その前に俺の家族にも話しておいた方がいいよね。悠那との関係」
「え⁈」
「え……何?」
悠那の両親に彼氏として挨拶をしに行く前に、自分の両親にもちゃんと話をしておこうと思った俺が言うと、悠那は大きな声を出し
「待って待って! それはちょっと待って!」
なぜか急に慌てだした。
一体何が問題なんだ? 悠那の両親に知られたのであれば、うちの両親にも話すべきだと思うんだけど。
「いきなり司のご両親に話す前に、まずは尊さんに相談してみたら? ほら、尊さんって司とはそんなに歳も離れてないし、一般的じゃない恋愛に対する理解もありそうじゃない?」
「姉ちゃんに? でも俺、姉ちゃんとそういう話したことなんて全然ないし、あんまり頼りにならないと思うけど? “あんた何やってんの⁈”って怒るに決まってると思うんだけど」
「でっ、でもっ! 司の両親に報告する前にワンクッション欲しいって言うか、尊さんの反応を見てからでも遅くないと思うよっ!」
「なんで姉ちゃんなの? どうせ言うなら一緒じゃない? だったら、最初から親に言った方がいいじゃん」
「うぅ……でもぉ……」
「?」
俺のことはすぐに怒る姉ちゃんに話すより、最初から両親に打ち明けて、そこから理解してもらう努力をした方が面倒がなくていいと思うのに、悠那はそれがどうも嫌らしい。
俺の両親は自分の両親のようにはいかないと思うからかもしれないけれど、そこは避けて通れない道だから、先延ばしにしてもあまり意味はないようにも思う。
「俺、司の家族好きだもん。司の家族に嫌われたくない」
「そんな心配してるの? 大丈夫。この件に関しては悠那が悪いわけでもないし、俺が悠那と付き合ってるからって、俺の家族が悠那を嫌ったり恨んだりはしないよ。悠那は可愛いから、俺が悠那を好きになるのもしょうがないって思われそうだし。俺が“何やってるんだ?”って思われるだけだと思う」
「それはそれで嫌。司が親と揉めるのも嫌なの」
「そう言われてもねぇ……」
悠那とのことを打ち明けるのであれば、家族との多少のいざこざは避けられない。それは俺も覚悟していることだから、悠那にも覚悟を決めて欲しいのだが。
「司が家族に打ち明けようって思ってくれる気持ちは凄く嬉しいんだけど、できれば穏便に進んで欲しいっていうか……。俺の両親にバレたばっかりだから、もうちょっと時間を置いて欲しいって気もするの。司の家族が、うちの両親みたいにあっさり認めてくれるかどうかが不安だし。もし、物凄く反対とかされたら俺も凹んじゃうから……」
なるほどね。そういうことか。確かに、俺は事後報告だったから、悠那の両親に関係が知られてしまい、運良く認めてもらえたことにホッとした。でも、これが“今から報告します!”って状況だったら、どういう反応を返されるかって不安は大きく、気が気じゃなかったと思う。ちょっと待って欲しいって気持ちも、わからなくはないかな。
もし、悠那の両親に悠那との関係を頭ごなしに反対されていたらショックも受けただろうし。
もともと、報告するのはまだ早いって思っていたんだから、そうポンポンとことが進んでしまっても、悠那の心もついて行けないのだろう。
「わかったよ。親への報告はもう少し後にする」
どうやら俺は、悠那の両親に知られてしまったことに、多少の焦りを感じてしまっていたらしい。
そうだよね。この問題は勢い任せに進めていくものでもないし。もう少しゆっくり時間を掛けて、一番いい形で纏まってくれればいいよね。
でも、だからってまず姉ちゃんからっていうのはどうなんだろう。
悠那は俺の親より姉ちゃんの方が理解があると思っているみたいだけど、果たして本当にそうなのか? 俺の姉ちゃんに同性愛への理解があるようにはとても思えないんだけど。
あれ? ちょっと待てよ?
「ねえ、悠那」
「うん?」
「両親にバレたって言ったけど、兄ちゃんは?」
「え……えっとぉ……」
悠那の両親が俺との関係を認めてくれたのは嬉しいんだけど、なんか引っ掛かるものを感じていた。
そうだよ。悠那の両親はともかく、一番厄介なのはあの兄ちゃんなんじゃないのか?
いくら悠那の両親に認めてもらえても、兄ちゃんが認めてくれない限り、俺と悠那に平穏は訪れないって気もするんだけど……。
「お……お兄ちゃんにはまだ……」
「だよね」
あの兄ちゃんが俺と悠那が付き合ってるって話を聞いて、おとなしく引き下がるはずがない。きっと、何がなんでもここの住所を聞き出し、乗り込んで来るに違いない。
そもそも、初対面から無遠慮に俺に絡んできた兄ちゃんだ。俺と悠那の関係をそう簡単に認めるはずがない。俺への絡み方を見た悠那の両親だって、俺と悠那の関係を厄介な長男に話そうとは思わないだろう。
「悠那のご両親が認めてくれたのは嬉しいけど、一番厄介な人が残っちゃったね」
「言わなきゃダメかな? お兄ちゃんだけには言わないままでおこうとも思ってるんだけど」
俺にはまず姉ちゃんに話して欲しいと言った悠那だけど、自分のところの兄には言うつもりがなさそうだった。
「正直、ご両親には言わなきゃって思うけど、兄ちゃんにまでは……って思わなくもないかな。言ったら言ったであの人絶対面倒臭いし。そこは悠那に任せるよ」
「じゃあ言わない」
俺が見ても引くくらいに悠那を溺愛している兄に対し、悠那は結構冷たかった。
ま、あんなにしつこい感じで溺愛されていれば、鬱陶しいとも思ってしまうんだろう。兄弟の問題には、俺も口出しするつもりはない。
「でも、良かった。悠那の両親には許してもらえて」
「俺もわりとすんなり認めてくれたことにはちょっとびっくりしちゃったけど、俺が反対されても諦めないってわかったから、認めるしかないって思ったのかも」
「じゃあ悠那のおかげだね」
「それだけじゃないよ。司が俺のこと大事にしてくれてるのは見てたらなんとなくわかるんだって。だから、司になら俺を任せてもいいって思ったんだって」
「へー」
悠那の家に行った時、悠那との関係がバレないようにと気を遣っていた俺は、あまり愛想のいい振る舞いとかできなかったし、気が利くようにも見えなかったと思うのに。
俺の悠那への愛情は、無意識のうちにも滲み出てしまうものなのだろうか。そのおかげで、悠那の恋人として認められたのであれば、俺もそこそこ頼りがいがあるように見られているってことなんだろうか。
「これからは俺の家族の前でも堂々とイチャイチャできるね」
俺との関係が親公認になった悠那は嬉しそうだったけど、悠那の兄ちゃんのことを考えると、そうイチャイチャでもできないのでは? という気がしなくもない。
だって、悠那の家には悠那の両親だけじゃなく、悠那の兄ちゃんもいるわけだし。
でも、悠那の両親の前でもう嘘は吐かなくて良くなったことにはホッとした。
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