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After Story

   ご主人様には逆らえない⁉(9)

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 二日間に亘って開催された白鈴高等学校の学園祭も幕を閉じ、家に帰って来た俺は、いつものようにみんなで一緒に夕飯を食べ
「んじゃ深雪、また明日学校でな」
「うん。おやすみ、頼斗」
 夕飯を食べ終わって家に帰って行く頼斗を見送った後は、急に気が抜けちゃって。しばらくは何もしたくない気分だった。
 今し方、頼斗と「また明日学校で」って別れたけれど、明日は学園祭の後片付けがあるだけで、明後日は振替休日ってことになっている。
 どうせなら明日が休みで、明後日が学園祭の後片付けの方が体力的には助かったんだけどな。
 でも、学園祭のお祭り気分をリセットするには、学園祭の後片付けが終わってから休みにした方が、気持ちを切り替えられていい気がするよね。
 明後日の振替休日には頼斗とデートの約束もしているし。このコンディションで明日頼斗とデートをするよりは、学園祭の後片付けが終わった後にしっかり休んで、頼斗とのデートに備えた方がいいってものだ。
「はぁぁぁ~……疲れたぁ……」
 これまでバイトというものをしたことがない俺にとって、たとえ学園祭の模擬店でも、知らない人相手に接客をするのはバイトをしたみたいな感じがしたし、おそらく接客業にはあまり向いていなさそうな俺としては、かなりの気疲れにもなった。
 それでも、終わってみれば何だかんだと楽しかったと思うから、最初は嫌で仕方が無かったうちのクラスの出し物も、結果的には良かったんじゃないかと思う。
 もちろん、もう二度とメイド喫茶は御免だけど。
「深雪。入るよ」
「へ? あ、うん」
 自分の部屋のベッドに寝転がり、ここ二日間の疲労と思い出に浸っていた俺は、ノックはしないものの、ちゃんと声を掛けて部屋に入って来る雪音にゆっくりと身体を起こした。
 俺がベッドで横になっている姿を見た雪音は
「ゆっくりしてるとこごめんね。でも、どうしても深雪にお礼が言いたくて」
 そう言ってきた。
「お礼?」
 はて。俺、雪音に何かお礼を言われるようなことしたっけ? 全く身に覚えがないんだけど。
「うん。だってさ、本当に嬉しかったんだもん。深雪と頼斗が大学は僕と一緒のところに通うって言ってくれて」
「あ……」
 そっか。そうだよね。確かに今日、そういう話をしたよね。
 でも、その時はその時で雪音に「ありがとう」も「嬉しい」も言ってもらえたから、その事に対する感謝の気持ちを改めて言われるとは思わなかった。
「べ……別にお礼を言われるようなことじゃ……。だって、俺も雪音と一緒の学校に通いたいって思う気持ちはあるもん。高校は雪音の学力に見合ったところに進学して欲しいと思ったけど、大学なら俺達の努力次第で雪音と同じところに通えるんじゃないかって思ったし」
 俺と頼斗が雪音と同じ大学に通うって言った時、雪音は目を丸くして驚いた後、本当に嬉しそうな顔で笑ってくれた。
 その時既に、雪音にも俺の中に「雪音と同じ学校に通いたい」と思う気持ちがあることをわかってくれたとは思うけれど、こうして改めてお礼を言ってくるということは、よっぽど嬉しかったってことなんだな。
 雪音には白鈴ではなく、八重塚に通うようごゴリ押ししていた俺としても、高校で果たせなかった望みを大学で果たせるかもしれない可能性に喜んでくれる雪音の姿は嬉しいし、救われる気分にもなった。
 雪音が高校の進路を八重塚に決めたのは雪音の意志だけど、そこには俺の思惑だったり願望も関係しているから……。
 自分の願望が雪音の進路に影響を与えていることに、罪悪感を全く覚えないわけでもなかったんだよね。
 でも
「実はね、雪音と同じ大学に行こうって言い出したのって頼斗なんだ。もちろん、俺もそういう事は考えていたし、そうしたいって思ってたけど、今年高校生になったばかりの俺にとって、大学受験ってまだまだ先の話って感じだったから。漠然とした願望っていうか、明確な目標として心に決めていたわけじゃなかったんだよね。でも、頼斗がそう言ってくれたおかげで、俺も自分の目標として掲げることができたっていうか……」
 俺が雪音と「大学は一緒のところに通おう」と言えるようになったのは、頼斗のおかげであることだけは伝えておこうと思った。
 今言ったように、俺の中にもそういう気持ちはあったけれど、高校生になったばかりの俺に大学受験のことを真剣に考えるほどの真面目さはまだなかったし、自分と雪音の学力差を考えたら、自信が持てなかったりもした。
 だけど、頼斗が
『俺達、大学は雪音と一緒のところに行かね?』
 って言ってくれて
『一緒に勉強頑張ろうぜ』
 って言ってくれたから、俺も自分の目標に自信が持てるようになった。
 雪音と同じ学校に通いたい、という思いと、一緒に頑張れる頼斗の存在があれば、その願いは叶えられるような気がした。
「へー、頼斗が?」
 言い出しっぺが俺ではなく頼斗であったことに、雪音はちょっと驚いた顔だったし、少し残念そうでもあった。
 でも、俺の中にもそういう気持ちがあったことは伝えたし、自分のライバルがそう言ってくれたことには感激するところもあったのか
「意外だけど嬉しい。頼斗も何だかんだと僕のこと大好きじゃん」
 最終的には嬉しそうな顔になっていた。
「ここだけの話、頼斗って自分の部屋の勉強机の上に、俺達三人が写ってる写真を飾ってるんだよ。最初に見た時はちょっと意外に思ったんだけど、今思うと、あれって三人で一緒の大学に通うため、あえて飾ったのかな? って。そんな気がしちゃった」
「益々意外。頼斗って部屋に写真を飾るタイプじゃなさそうだし、飾るにしても深雪とのツーショット写真を飾りそうなのに」
「俺もびっくりしちゃった。頼斗が自分の部屋に写真を飾ってるのなんか初めて見たから」
 学園祭が始まる前、頼斗の部屋で見た写真のことを雪音に教えてあげると、雪音は益々驚いた顔になったけれど、同時にニヤニヤが止まらない感じだった。
 自分が思っている以上に、頼斗が自分のことを想ってくれていることが嬉しいんだろうな。
 あの写真については、俺も頼斗にあえて言及はしていないけれど、写真を勉強机の上に飾っていたことと、頼斗から「大学は雪音と一緒のところに行かね?」って言い出したことを踏まえると、あの写真は三人で一緒の大学に通おうという、強い意志の現れだったように思う。
 だから、俺も頼斗の真似をして、自分の机の上にも三人で一緒に写っている写真を飾ろうと思っている。
 恋人と一緒に写っている写真を飾るだなんて、如何にもって感じがして照れ臭いけど、勉強している合間のふとした瞬間に恋人の顔を見れば息抜きになりそうだし、頑張ろうって気分にもなりそうだよね。
「じゃあ、僕も机の上に三人で撮った写真でも飾ろうかな。本当は今日撮った深雪の可愛いメイド姿の写真を飾ろうと思ってたんだけど。万が一、母さんや稔さんに見られたら突っ込まれそうだし」
「ああ、うん。そうだね……」
 マジか。雪音ってばそんな写真を机の上に飾ろうとしていたわけ?
 何かやたらと俺の写真を撮っているとは思っていたけど、あれは雪音的に俺のベストショットを狙っていたということなんだろうか。
 雪音も部屋に写真を飾るタイプには見えないんだけどな。そんな雪音の部屋に飾ってある写真が、血は繋がっていないけどお兄ちゃんになった俺のメイド姿の写真とか引く。父さんや宏美さんに見られてもアウトって感じだから絶対にやめて欲しい。
 そういう意味では、俺が頼斗の部屋に俺達三人の写真が飾ってある話をして良かったと思う。その話を聞いた雪音が、俺の恥ずかしい写真ではなく、三人で撮ったまともな写真を飾ろうと思い直してくれたから。
「でもほんと、今日の深雪のメイド姿、物凄く可愛かったなぁ……。可愛いだろうとは思ってたけど、まさかあそこまで可愛くなるだなんて。あまりの深雪の可愛さに、僕は危うくナニが勃ちそうになっちゃったよ」
「……………………」
 何かさ、俺のメイド姿を初めて見た時の頼斗も、今の雪音と同じようなことを言っていた気がするんだけど。俺の彼氏、二人そろって欲望に忠実過ぎない?
「あ、そうだ」
 話が俺のメイド姿のことになり、俺はふとある事を思い出した。
 今日の学園祭が終わった後、簡単な後片付けをしていた俺は、自分が学園祭で着たメイド服を持ち帰り、洗濯するように言われたんだよね。
 洗ったメイド服は休み明けに衣装係の子に渡せばいいんだけど、鞄の中に入れっぱなしだと忘れちゃいそうだし――現に今の今までメイド服の存在を忘れていた――、今から洗濯して明日の朝に乾いていたら、忌まわしいメイド服を手元に置いておく時間が減ってありがたいよね。
 俺はベッドから下りると、床に置きっ放しにしている通学鞄の口を開いた。
「何? 急にどうしたの? 深雪」
 俺が急に鞄の中を探り始めたものだから、雪音が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「いやね、そう言えば俺、メイド服の……」
 そこまで言ってハッとなる俺は、まさに今、手にしたメイド服を鞄から引っ張り出そうとしている手を止めた。
(俺今、自ら自滅の道を進もうとしてない?)
 今日、俺のメイド姿を見た雪音は、伊織君と一緒にメイドコスがどうのこうのって話をしていたよね?
『今度一緒にメイド服でも見に行こっか』
 なんて話をしていた人間の前で、メイド服を引っ張り出すなんて危険極まる行為だった。
「あ、いや……。別に何でも……」
 話の流れで、何も考えずに鞄の中からメイド服を洗濯しに行こうとしていた俺は、雪音の視線から隠すように、掴んでいたメイド服を鞄の奥にそっと押し込んだ。
 でも、俺がいきなりベッドから下りて鞄の中を探り始める姿は、雪音の目には不自然に映ってしまったようで
「今、何か隠したよね?」
「あっ……」
 雪音は俺の通学鞄に手を伸ばしてくると、俺の鞄を手元に引き寄せ、鞄の中からメイド服を取り出してしまった。
「あれ? どうして深雪がメイド服なんか持って帰ってきてるの? もしかして、これって深雪が買った服なの?」
「違っ……」
「で、これ着て僕とメイドごっこがしたいの?」
 俺が学校からメイド服を持って帰っていることが雪音にバレてしまったのは俺のミスだ。
 でも、だからって「僕とメイドごっこがしたいの?」は無い。その発想はどうかと思う。
 だから
「違うっ! これは洗濯を頼まれただけだからっ! 学校の物で俺の物じゃないからっ! 借り物だからちゃんと洗って返さなくちゃいけないのっ! このメイド服は俺が着たやつだから、俺が洗って返すのは当たり前なのっ!」
 俺は自分がメイド服を持って帰っている理由をちゃんと説明したんだけれど、そんな理由よりも、俺が今メイド服を所持していることが重要だと言わんばかりの雪音は
「いやいや。僕が今日、こうして深雪の部屋に来た理由をよく考えてみてよ。改めて深雪にお礼を言いたかったのはもちろんだけど、僕に可愛いメイド姿を見せてくれた深雪とエッチな事をするのが目的でもあったんだよ? あんなに可愛い深雪のメイド姿を見て、僕が何もしないとでも思った?」
 と何故かドヤ顔だった。
「~……」
 何かこれも頼斗と同じような事を言ってるって感じなんだけど。やっぱり自分の彼女のコスプレした姿って、彼氏としては放っておけないものなの?
「でも、深雪がこうしてメイド服を持って帰ってきているとなると、これはもう着てもらうしかないよね」
「は⁉ 何で⁉ 嫌だよっ!」
 マジか。やっぱりそうなっちゃうの?
 学園祭も終わって、やっとメイド服から解放された俺は、もう二度とメイド服なんか着たくないっていうのに。
「というわけだから、今すぐこれに着替えて」
「なっ……!」
 おいぃぃぃ~っ! 俺の主張は無視⁉ 無視なの⁉ 頼斗もそうだったけど、こういう時の強引さは雪音も半端ないなっ!
「どうせ頼斗とも一回くらいはこれ着てセックスしてるでしょ? だったら、僕にも深雪の可愛いメイド姿見せてよ。でもって、僕のこと〈ご主人様〉って呼びながら、エッチなご奉仕いっぱいして欲しいな」
「ふぁっ⁉」
 何故バレているっ! いや、ハッキリとバレているわけではないし、俺が着たのは頼斗の家にあった光さんのメイド服で、このメイド服を着て頼斗とセックスしたわけじゃないけれどっ!
 でも、雪音の中には確信があるらしい。俺を見る雪音の目は、明らかに俺と頼斗の間でそういうプレイがなされたことを事実として確信している。
 そして、それが雪音の単なる思い込みではないことを知っている俺は
「できるよね? 僕の可愛いメイドさん♡」
 俺にメイド服を着せるという主張を曲げそうにない雪音に、強気な態度に出ることができなかった。
(ま……また、あの悪夢が再び……)
 頼斗とメイド服を着たままセックスした時の記憶が蘇る俺は、ここでも俺のご主人様を演じたがる雪音に、逆らうことができないのだと悟った。


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