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第一章 死んでないが死にかけた

第9話 決意

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「ああ、『少年メノンの伝記』ですね? 私も幼い頃読みましたよ。自分は将来冒険者になるんだ!って両親に夢を語って笑われました。大人になると、現実が見えてくるというか……夢ばかり追ってられないというか……」

 この人の場合はそんなのが理由で諦めたんじゃない気がする。
 不思議とそんな気がした。

「……オレ、レティさんから少しだけサイラス医師の話を聞きました。オレ……目の前で苦しんでる人達見て……でも何も出来なくて悔しくて……だから、サイラス医師の活動のこと知ってとても感銘を受けたんです。こんな身体で何が出来るかなんて分からないけど……でも何でもいい、手伝いがしたいんです!」
「その気持ちだけで十分ですよ」

 突き放されたかと思い、急激に落ち込んでいると大きな手が頭を包み込む。
 誰かに頭を撫でられるなんて何十年振りだろう。
 見上げるとサイラス医師は複雑そうな顔で微笑んでいた。

「君達は魔力がないという、たったそれだけで不遇な扱いを受けてきた。だからこれは私達からのほんの些細な贈り物です」

「……サイラス医師はやっぱりすごいです」

 普通に生活することすら困難なだった人達に薬を実質無料で与え、仕事すら提供している。
 さらに完治に向けて研究まで進めていて、でもそのことを誇示する素振りもなく、素性の知れないオレにまでこんなに親切にしてくれた。
 それを些細だなんて、当事者からしたら到底思えない。

「私は私が出来ることをしているだけに過ぎませんよ。さてと、私は残りの仕事を片付けますから君はもう寝なさい。成長期の夜更しは良くありませんよ?」

 サイラス医師に言われてハッとする。
 そういえばこの身体はまだ子供だし、顔も悪くなかった。
 遺伝子によるところもあるが、規則正しい生活を続ければ高身長のイケメンに成長するのでは──、なんて思ってニヤリと笑う。

「中々に悪い顔してますねえ……はは」

 つい顔に企みが出てしまっていたらしい。
 面白そうにサイラス医師は今日初めて声を立てて笑った。
 この人はずっと仮面を付けていたのではないか、ただ一瞬だけでもその苦しみが溶けたのであれば幾らでも面白可笑しな子供を演じてみせよう。

「では、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい、サイラス医師」
「あ、あと一つ。そんな堅苦しく呼ばず、レティと同じく先生で構いませんよ。それでは」

 サイラス“先生”は穏やかに笑って室内に戻っていった。
 出来ることをやろう、自分にできる範囲で最大のことを──。
 オレは幻想的に煌めく空を見上げながらそう決意を固めた。

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