1 / 20
第一章 死んでないが死にかけた
プロローグ
しおりを挟む
今、オレは天にも昇る心地心地だった。
何せ今日は世界が熱狂するオープンワールドゲーム『The Magical kingdomⅡ』の発売日で、その限定版を手にすることが出来たのだから。
限定版はサウンドトラック2枚、ゲーム資料集、地図、ゲームで登場する魔法の杖と指輪がセットになった超豪華特典が付いていて、その価格も驚きの6万円だ。
あまりの人気ぶりに豪華特典付きの予約自体が抽選となった、ファンなら喉から手が出る程欲しい幻の商品だろう。
成人して初めて貰った給料でこのゲームを買って以来、オレはこのゲームの大ファンと化していた。
広大な世界とメインストーリー、各地に住む人々それぞれにサブストーリーが存在し、選択肢次第で個別好感度や名声度が変わる。
家や装備や衣装、食事を作ったり、スキルを磨いたり、自分の見た目だってカスタムできるし、どこかに所属して働くもフリーでクエストを請け負って稼ぐも自由、学校にすら通うことも可能なのだ。
まさに、これはもう一つの世界に暮らす自分を創造出来る最高傑作だった。
「ふふ……おっしゃーーー! 今回もやり込むぜ!!」
開発チームは発売後もコンテンツのアップデートやイベントの追加などを予定しており、10年は楽しめる内容に仕上げたということでかなりの期待ができる。
大きめのショルダーバッグには先程店頭で受け取ったばかりのゲームが大切に収められている。
成人して就職して真面目に働いていて良かった、と思う。
こんな高価な商品、学生でバイトをしていたとしても中々手が出せないだろう。
心身軽すぎてスキップしてしまいそうだが、周囲からドン引きされるので我慢するとしよう。
そうして横断歩道までやってきて、信号が青になるのを待っている時だった。
「おい」
突然後ろから男性に声を掛けられる。
何だろうか、と思って振り向いた時だった。
突然ショルダーバッグをひったくられそうになり、慌ててバッグを抑える。
周囲から悲鳴が上がるものの、遠巻きに見ているだけだ。
自分が頑なに抵抗していると男が舌打ちし、思い切り道路に突き飛ばされた。
「えっ……」
視界には逃げようとしてようやく周りに取り押さえられる男、そしてクラクションを鳴らしながらこっちへ向かって走ってくる大型のトラック。
(あ……これ死ぬな)
まるで他人事のようにそう実感する。
そしてテレビの電源を落とすように、プツッとそこでオレの意識は途絶えた。
「うっ……」
自分の呻き声でオレは目を覚ました。
頭がズキズキして、吐き気がする。
オレは痛みが少しでも和らげばいいと、片手で抑えるがまったく無意味だった。
大型トラックが突っ込んできたのに生きているのが不思議だ。
即死かと思ったけど頭痛がする以外は、特に出血とかはないような気がする。
だが、安心はできない。
打ち所が悪くて内部出血していたら、時間経過で死ぬ可能性も考えられる。
まさか、自分が事件に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
「何なんだよあいつ……」
狙われた理由として、最も可能性が高いのは今日発売されたこのゲームだろうか。
たかがゲームと思うことなかれ、何せ全世界が熱狂し、販売されるグッズは高額で転売されるほどの人気なのだから。
(だからと言って普通、人を殺すとか有り得ないだろ)
しかし、ここにまだ倒れているということはそんなに時間が経っていないのか。
誰の声もしないし、救急車も警察も来ていないようだ。
可笑しくないだろうか、普通こういう時は人だかりが出来て大騒ぎになるものだが。
起き上がろうと力を込めた手元を見て何だか妙だと首を捻る。
茶色くてゴツゴツした岩肌が眼下にあった。
それに、どこからか水滴が滴るような音も反響している。
「はあ?」
顔を起こして周囲を見回すとようやく、そこが先程いた場所とは別のところなのだと察知した。
まるで鍾乳洞の中にいるように天井から岩が垂れ下がっていて、周囲の大きな窪みには澄んだ水が溜まっている。
「どこだ? ここ……」
(ヤバイヤバイヤバい。目が覚めたら変なとこにいるんだが)
何故こんな所にいるのかは分からないけど、どう見ても洞窟だろう。
焦って起き上がりまた頭痛に顔をしかめる。
幸い、カバンはどこにも行っていなかった。
慌てて中を探るが、スマホがどこにもない。
というカバンの中身はほぼ空だった。
今日買ったばかりのゲームも、スマホも財布も無くなっていて、出てきたのは杖と指輪と地図とゲーム資料だけだった。
まさか気絶している間にすべて盗まれたのだろうか。
早くここから出て警察に盗難届を出さないとだ。
立ち上がって辺りを見回すが、どちらも似たような感じでどっちに行けば出口へと繋がっているのか分からない。
(ゲームでよくあるパターンだと風が吹いてたりするんだけど……)
ウロウロと近くを歩き回ってみると案の定、風が流れてくるのが分かった。
幸いなことにこの洞窟は一本の道のようになっていて、迷うことはなさそうだった。
仮に逆方向に進んでいたとしても元に戻ればいいだけだ。
そうと決まったら行動あるのみ。
洞窟といえは蛇やコウモリがいることもあるし、それらに気を付けて慎重に進んでいけばいいだろう。
オレは気を奮い立たせ、外に出るために行動に移った。
何せ今日は世界が熱狂するオープンワールドゲーム『The Magical kingdomⅡ』の発売日で、その限定版を手にすることが出来たのだから。
限定版はサウンドトラック2枚、ゲーム資料集、地図、ゲームで登場する魔法の杖と指輪がセットになった超豪華特典が付いていて、その価格も驚きの6万円だ。
あまりの人気ぶりに豪華特典付きの予約自体が抽選となった、ファンなら喉から手が出る程欲しい幻の商品だろう。
成人して初めて貰った給料でこのゲームを買って以来、オレはこのゲームの大ファンと化していた。
広大な世界とメインストーリー、各地に住む人々それぞれにサブストーリーが存在し、選択肢次第で個別好感度や名声度が変わる。
家や装備や衣装、食事を作ったり、スキルを磨いたり、自分の見た目だってカスタムできるし、どこかに所属して働くもフリーでクエストを請け負って稼ぐも自由、学校にすら通うことも可能なのだ。
まさに、これはもう一つの世界に暮らす自分を創造出来る最高傑作だった。
「ふふ……おっしゃーーー! 今回もやり込むぜ!!」
開発チームは発売後もコンテンツのアップデートやイベントの追加などを予定しており、10年は楽しめる内容に仕上げたということでかなりの期待ができる。
大きめのショルダーバッグには先程店頭で受け取ったばかりのゲームが大切に収められている。
成人して就職して真面目に働いていて良かった、と思う。
こんな高価な商品、学生でバイトをしていたとしても中々手が出せないだろう。
心身軽すぎてスキップしてしまいそうだが、周囲からドン引きされるので我慢するとしよう。
そうして横断歩道までやってきて、信号が青になるのを待っている時だった。
「おい」
突然後ろから男性に声を掛けられる。
何だろうか、と思って振り向いた時だった。
突然ショルダーバッグをひったくられそうになり、慌ててバッグを抑える。
周囲から悲鳴が上がるものの、遠巻きに見ているだけだ。
自分が頑なに抵抗していると男が舌打ちし、思い切り道路に突き飛ばされた。
「えっ……」
視界には逃げようとしてようやく周りに取り押さえられる男、そしてクラクションを鳴らしながらこっちへ向かって走ってくる大型のトラック。
(あ……これ死ぬな)
まるで他人事のようにそう実感する。
そしてテレビの電源を落とすように、プツッとそこでオレの意識は途絶えた。
「うっ……」
自分の呻き声でオレは目を覚ました。
頭がズキズキして、吐き気がする。
オレは痛みが少しでも和らげばいいと、片手で抑えるがまったく無意味だった。
大型トラックが突っ込んできたのに生きているのが不思議だ。
即死かと思ったけど頭痛がする以外は、特に出血とかはないような気がする。
だが、安心はできない。
打ち所が悪くて内部出血していたら、時間経過で死ぬ可能性も考えられる。
まさか、自分が事件に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
「何なんだよあいつ……」
狙われた理由として、最も可能性が高いのは今日発売されたこのゲームだろうか。
たかがゲームと思うことなかれ、何せ全世界が熱狂し、販売されるグッズは高額で転売されるほどの人気なのだから。
(だからと言って普通、人を殺すとか有り得ないだろ)
しかし、ここにまだ倒れているということはそんなに時間が経っていないのか。
誰の声もしないし、救急車も警察も来ていないようだ。
可笑しくないだろうか、普通こういう時は人だかりが出来て大騒ぎになるものだが。
起き上がろうと力を込めた手元を見て何だか妙だと首を捻る。
茶色くてゴツゴツした岩肌が眼下にあった。
それに、どこからか水滴が滴るような音も反響している。
「はあ?」
顔を起こして周囲を見回すとようやく、そこが先程いた場所とは別のところなのだと察知した。
まるで鍾乳洞の中にいるように天井から岩が垂れ下がっていて、周囲の大きな窪みには澄んだ水が溜まっている。
「どこだ? ここ……」
(ヤバイヤバイヤバい。目が覚めたら変なとこにいるんだが)
何故こんな所にいるのかは分からないけど、どう見ても洞窟だろう。
焦って起き上がりまた頭痛に顔をしかめる。
幸い、カバンはどこにも行っていなかった。
慌てて中を探るが、スマホがどこにもない。
というカバンの中身はほぼ空だった。
今日買ったばかりのゲームも、スマホも財布も無くなっていて、出てきたのは杖と指輪と地図とゲーム資料だけだった。
まさか気絶している間にすべて盗まれたのだろうか。
早くここから出て警察に盗難届を出さないとだ。
立ち上がって辺りを見回すが、どちらも似たような感じでどっちに行けば出口へと繋がっているのか分からない。
(ゲームでよくあるパターンだと風が吹いてたりするんだけど……)
ウロウロと近くを歩き回ってみると案の定、風が流れてくるのが分かった。
幸いなことにこの洞窟は一本の道のようになっていて、迷うことはなさそうだった。
仮に逆方向に進んでいたとしても元に戻ればいいだけだ。
そうと決まったら行動あるのみ。
洞窟といえは蛇やコウモリがいることもあるし、それらに気を付けて慎重に進んでいけばいいだろう。
オレは気を奮い立たせ、外に出るために行動に移った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
チュートリアルと思ったらチートリアルだった件
へたまろ
ファンタジー
唐突にダンジョンの中で、サラリーマン倉田良樹(クラタヨシキ)は目を覚ます。
その部屋の真ん中にはフヨフヨと浮かぶ綺麗な宝石が。
触れる事でセーブが出来る宝石。
セーブという言葉を聞いて、ゲームのモニターか何かだと勘違いする倉田。
いや、勘違いしてしまった倉田。
死んでも、セーブポイントで復活する仕様。
軽い現実逃避とも取れる思考と勝手な思い込みで、他にやれることも無い為これはチュートリアルだなと判断して、トライ&エラーよろしく体当たりで色々と学ぶ事にする。
だが、チュートリアルだと思っていた一連の活動の中で明かされた衝撃の事実。
半信半疑で、チュートリアルにありがちな初心者の館と思い込んでいたダンジョンの先で、色々な事に巻き込まれていく。
やがてチュートリアルの先に待ち受けるチートリアル(チートな現実)に気付く。
可愛いペットや、女の子に出会いつつもまったりと進んでいく物語です。
一話あたりは短めで。
話も淡々と。
気楽に進んでいく物語です。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
転生スライム食堂~チートになれなかった僕の普通に激動な人生~
あんずじゃむ
ファンタジー
事故にあった高校生、ショウは気づくと森の中で目を覚ます。
そこが異世界だと気付いたものの、現れない神様、表示されないステータス、使えない魔法。チートどころか説明さえもしてもらえず始まったなんて第二の人生は艱難辛苦。前世で文系一直線だったショウには役立つ知識すらもなく。唯一の武器は価値観の違いか?運よく雇われたボロい食堂を食い扶持の為に必死に支えるリアル転生物語。果たしてショウは平穏な人生を送るのか。今の所ファンタジー恋愛小説の予定です。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる