上 下
24 / 44

9.元魔王、賑やかな夜を過ごす【前編】

しおりを挟む
 ギルドでの手続きを終えて、その建物のすぐ外でのこと。
 特に問題なくスカウト娘の加入処理を終えて、明日の待ち合わせをギルドでしようという話になった時だった。

「えっと、非常に厚かましいお願いだとは思うんだけど……」

 そんな感じで切り出された後で、スカウト娘は両手を合わせてこちらに頼み込んできた。

「今夜の宿が無いから、誰か泊めてください!」

 そういうことらしい。
 なんでも、今日この街というかこの世界に来たばかりなのだとか言っておったな。

 白シャツに白ライン入りの赤いズボンという服装についても、ブカツだかの途中で召喚を受けたらしく、本人の話ではジャージ姿というものらしいが。

「宿屋の場所がわからないのなら案内するわよ?」

「えっと、お金なくて……」

「物質創造で作ったものを売るのとか、いっそのこと家を……ダメね。場所もそうだけど問題になりそう」

「物を売るにしてもどこで売るのって話だし」

「……どちらにしても暗くてお店はもうやってない」

 いろいろと手続きをしている間に完全に日は落ちてしまった。
 この時間では酒場や宿屋といった店以外はとっくに店を閉めているだろうな。

 そういえば金自体を増やしたりはしなかったのであろうか。

「アリスさんはお金を作ったりはしなかったんですか?」

「マオ、あんたね……」

「……バレたら死罪」

 勇者娘と魔女娘が呆れた表情でこちらを見てきた。
 そのぐらいは我でもわかっているぞ。

「ああ、いや。こっちの世界に来たばかりっていうし、知らずに作ったりしたのかなって」

「無理無理。物質創造を神様から貰った時にお金は増やせないって。試しにやってみなって神様に言われた時に作ってみたけど、お金が出来た瞬間に消えちゃったんだよね」

「そううまくは出来てないと」

 直接金にはできないみたいだが、やり方次第では稼ぐのに使えそうではあるな。

「みたいね。そうなるとわたしかマナの家になるけど……」

「……どっちにする?」

「マオくんのおうちでもお姉さんは構わないけど」

「わたしとマオは姉弟だから同じことよ」

「えっ、姉弟なの? あまり似てない気が……って、ごめん。他所様の事情はいろいろだもんね」

 そう言って勝手に落ち込みだしたスカウト娘。
 別に気にすることの程ではないと思うがな。

「気にしないでください。似てないのは義理の姉弟で、俺が小さい時にユウ姉の家に拾われたというだけなので」

「そうね。別に落ち込むようなことは何もないわよ」

「……近所の人はみんな知ってるしね」

「そっか。それなら良かった」

 なんだか話題が逸れたが、話が安全に着地を終えたので話題を元に戻すとしよう。

「それでどうするの?」

「そうねぇ。……あ、そうだ。どうせだからマナもうちに泊まらない?」

「……ユウリのうちに?」

「うん、どうせだから明日からの事をいろいろ話したり出来たら楽じゃない」

「明日ギルドで会って話す手間が省けると」

「そういうこと! それに、マナの家だとマナが会ったばかりの人と一緒っていうのが心配だし」

「その点うちでなら、みんなで様子を見れると」

 まあ悪いことは起きないだろう。
 問題行動を起こしていれば、あの時の決戦の場に三人が揃うはずも無かったであろうし。

「……うん。そういう事なら途中で着替えを取りに帰りたいかも」

「それじゃあ帰りにマナの家に寄りましょ……アリス、そういうことでいいかしら?」

「あ、あはは……まあ普通に考えたらそうだよね。うん、お世話になります!」

 こうしてスカウト娘に加えて魔女娘も家にお泊りと。
 どうやら今夜は騒がしい夜になりそうである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

聖剣に知能を与えたら大変なことになった

トンボ
ファンタジー
 魔術師の男、ニコラリーがひょんなことから聖剣に『知能』を与えてしまった! 結果、聖剣に自我が芽生え、挙げ句の果てには巫女装束の銀髪少女となり、ニコラリーと共に生活することになった。少女の姿といえど、彼女は聖剣。そのチート級の強さを目の当たりにしたニコラリーは、諦めかけていた国一番の魔術師になるという夢のため、聖剣に弟子入りすることにした。しかし、 「主殿! 大根を20本ぐらい刻んでおいたぞ!」 「やめろ」 「主殿! 我の持つ最高の切れ味で散髪してやろう!」 「やめろ! ハゲる!」 「主殿! ここらへんの雑草を森ごと伐採してやろう!」 「やめろ!!」 「主殿! ドラゴンが食べたくはないか? 斬ってきてやろう!」 「や! め! ろ!」  ――その聖剣、天然につき。  しかしニコラリーは彼女に導かれ、正しき道を進んでいく。  これは、歴史と真実の糸を手繰り寄せ、名も無き英雄の救済に挑む、魔術師と聖剣の話。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...