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3.元魔王、魔女娘と出会う【前編】
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魔女娘(仮)の家へと向かっている途中。
「ふん、ふん、ふ~ん♪」
今は温かい季節であるため、我が最初に見た雪景色は影も形もなく、勇者娘の鼻歌と共に石畳の上をカツカツと音を二人分ばかり鳴らして先へと進んでいる。
村を想像するような田舎というほどでもなく、かといって都会と呼べるほど賑やかなわけではない。
そんな通りを行けば小さな商店が立ち並ぶ場所へとやってきた。
位置取りでいえば、前に稽古とは打って変わって下ろした赤髪を揺らす勇者娘。
その後を我がついていく形で続いている。
大体この配置を意識していれば、おおよそのドジには対処可能であるからな。
あくまでも念のためである。決してドジの結果を見たいとかではない。
「あ、お花屋さんだ!」
すると、勇者娘が様々な大きさの鉢に植えられた色とりどりの花を扱っている商店へと歩みを進めていく。
まだまだ多感な時期なのか、興味を持ったものに一直線である。
「寄り道してていいの?」
「少しだけ、少しだけだから!」
花などそれこそ道端に生えているではないか。とは思いつつも、やりたいようにやらせておく。
何処にド……幸運が転がっているかわからないからな。
「それじゃあ少しね」
「やった! ……こんにちは、お花屋のおばーちゃん!」
「はい、いらっしゃいお嬢ちゃん」
勇者娘は花屋の前まで行くと、花に顔を近づけて匂いを嗅いでいる。
「ん~! いい匂い」
「そうかいそうかい。そうだ、少し待ってておくれ」
すると、そんな勇者娘を見ていた店員の老婆は何を思ったのか、そう言って店の裏へと引っ込んでいく。
「なんだろうね?」
「さあ」
それからすぐに老婆が戻ってきた。
手には一輪の花。
「お待たせ。はい、お嬢ちゃん」
それを勇者娘へと差し出してきた。
勇者娘は驚き顔だ。
「え? わたしお金持ってないよ?」
「いいの、いいの。これ余ったお花だからあげるわ」
どうやら賄賂のようだ。
勇者娘への先行投資といったところであろうか。
「えっ、やった。ありがとお花屋さん! マナにも見せてあげよっと」
将来は勇者御用達の花屋か。
うまくやるものだ。
そんな時だった。
人でも年を取れば先を見通す目を持てると感心して、意識がそちらに向いていたために油断していた。
不意に我の手を勇者娘が掴んで歩き始める。
「マオ、早くいこ!」
「あ、手を掴む……」「あっ」
その次の瞬間、まさに秒速だった。
勇者娘が石畳の継ぎ目に器用に足を引っ掛け、その拍子に側にあった木鉢を巻き込んで二人仲良く倒れていく。
位置的には我と勇者娘の下に木鉢。
これは危ない、勇者娘を抱き寄せ魔法障壁を発動。木鉢と花にはまあ、犠牲になってもらうしか無い。
我と勇者娘を包んだ魔法障壁に潰される形で木鉢が割れ、
「ギャッ!?」
「「えっ?」」
木鉢が鳴いた……?
訳もわからないまま、続いて花もプチッと潰れる。
「ギャアァァァ!」
そうして我の困惑など知らぬとばかりに、謎の断末魔が空に響いた。
「ふん、ふん、ふ~ん♪」
今は温かい季節であるため、我が最初に見た雪景色は影も形もなく、勇者娘の鼻歌と共に石畳の上をカツカツと音を二人分ばかり鳴らして先へと進んでいる。
村を想像するような田舎というほどでもなく、かといって都会と呼べるほど賑やかなわけではない。
そんな通りを行けば小さな商店が立ち並ぶ場所へとやってきた。
位置取りでいえば、前に稽古とは打って変わって下ろした赤髪を揺らす勇者娘。
その後を我がついていく形で続いている。
大体この配置を意識していれば、おおよそのドジには対処可能であるからな。
あくまでも念のためである。決してドジの結果を見たいとかではない。
「あ、お花屋さんだ!」
すると、勇者娘が様々な大きさの鉢に植えられた色とりどりの花を扱っている商店へと歩みを進めていく。
まだまだ多感な時期なのか、興味を持ったものに一直線である。
「寄り道してていいの?」
「少しだけ、少しだけだから!」
花などそれこそ道端に生えているではないか。とは思いつつも、やりたいようにやらせておく。
何処にド……幸運が転がっているかわからないからな。
「それじゃあ少しね」
「やった! ……こんにちは、お花屋のおばーちゃん!」
「はい、いらっしゃいお嬢ちゃん」
勇者娘は花屋の前まで行くと、花に顔を近づけて匂いを嗅いでいる。
「ん~! いい匂い」
「そうかいそうかい。そうだ、少し待ってておくれ」
すると、そんな勇者娘を見ていた店員の老婆は何を思ったのか、そう言って店の裏へと引っ込んでいく。
「なんだろうね?」
「さあ」
それからすぐに老婆が戻ってきた。
手には一輪の花。
「お待たせ。はい、お嬢ちゃん」
それを勇者娘へと差し出してきた。
勇者娘は驚き顔だ。
「え? わたしお金持ってないよ?」
「いいの、いいの。これ余ったお花だからあげるわ」
どうやら賄賂のようだ。
勇者娘への先行投資といったところであろうか。
「えっ、やった。ありがとお花屋さん! マナにも見せてあげよっと」
将来は勇者御用達の花屋か。
うまくやるものだ。
そんな時だった。
人でも年を取れば先を見通す目を持てると感心して、意識がそちらに向いていたために油断していた。
不意に我の手を勇者娘が掴んで歩き始める。
「マオ、早くいこ!」
「あ、手を掴む……」「あっ」
その次の瞬間、まさに秒速だった。
勇者娘が石畳の継ぎ目に器用に足を引っ掛け、その拍子に側にあった木鉢を巻き込んで二人仲良く倒れていく。
位置的には我と勇者娘の下に木鉢。
これは危ない、勇者娘を抱き寄せ魔法障壁を発動。木鉢と花にはまあ、犠牲になってもらうしか無い。
我と勇者娘を包んだ魔法障壁に潰される形で木鉢が割れ、
「ギャッ!?」
「「えっ?」」
木鉢が鳴いた……?
訳もわからないまま、続いて花もプチッと潰れる。
「ギャアァァァ!」
そうして我の困惑など知らぬとばかりに、謎の断末魔が空に響いた。
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