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人間の欲望と魔王の信者

21話 もう一つの呪い(3/4)

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 どうやらその商人であるセイルはまだ行商の途中のようだが。先ほどの二、三日の食料があれば持ちこたえられるという話も、行商帰りのセイルをアテにしてとのことなのだろう。

「頼む」
「はい。まず病気の時期ですが一年ほど前から、でしょうか。娘が痛みを訴えだしたので見てみると足の指が先ほど見てご存知のような黒色に変色していまして、急いで何人かのお医者さまにも診てもらったのですが原因は不明と言われました。その際にギルドの鑑定士に調べてもらうよう勧められて鑑定を依頼したのですが、なぜか教会の方へと回されてそこで病気だと判明したのです」

 ギルドに教会か、ますます話がきな臭くなってきたな。ここまで話を聞いて間違いなく言えることは、奴らが呪いだとわかっている上で病気だと診断したことだ。

「そうか。そういえば先ほど娘の足に液体をかけていたが、それは教会から?」
「ええ、薬だと渡されているものですがそれが何か……」

 何せあれは聖水だ。それをどうやら薬だと偽って渡していることからして、故意に誤診しているのは確実といえる。

「効果はあるのだな?」
「そうですね。症状の進行をゆるやかに抑えることしかできないようですが、娘の痛みもすぐに収まるようですので効き目は確かだと思います」
「ふむ」

 あとはその企みがどの規模で行われているかだ。

「薬は父親が手に入れているのか?」
「はい。ご存知の通り主人セイルは商人なのですが、行商で王都へ行った際に教会へと立ち寄ってお布施をする代わりに薬をいただいているみたいです」
「ほう、確かブレイドたちは往復で七日ほどの行商と言っていたが、ずいぶんと早くつくのだな」

 商人であるセイルは馬車での移動だったはずだ。王都の位置と馬の速度を考えれば寝ずに走らせても倍以上はかかるはずだが。

「それは娘の病気のこともあり、主人が無理をしてシルフの羽を購入したからでしょうね」

 なるほどな。シルフの羽による風の加護か。
 確かにあれならば荷台の重さは激減、さらに風の助けで進行速度は飛躍的に上昇するだろうな。

「なるほどな参考になった。時間を取らせて悪かったな」
「いえ、では私は娘のところに戻らせてもらいますね」

 そう言って少女の母親が娘が眠っている部屋まで戻っていく。

 それにしても王都か。だがこれで待ち構えていた割になかなか冒険者がやって来なかったことや、施設を調べるために偵察した際の平和な雰囲気のままな街の理由がわかったな。
 おそらくは国ぐるみで魔王の誕生を隠蔽しているのだろう。何故そのようなことをしているかは不明だが、動きがあれば自ずとわかることだろう。

「魔王様、どうですか。女の子の病気は直せそうですか?」

 すると少女の母親を連れてきたあとで、少し離れてこちらを見ていたブレイドたち三人が近づいてきた。

「今のところ手立てはないな」
「そうですか……」

 三人には本当の事を話してもいいが、念のため一つブレイドたちにも確認をしておかなければならない。

「ところでブレイドたちにも訊きたいことがあるのだが、あの時はなぜ聖者の霊峰に来ることにしたのだ?」

 深淵の目で視ても国と関係があるような形跡はなかったことからも確かなことだが、一応だ。詳細は伝えずにあの場で邂逅することになった理由を確かめておく。
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