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人間の欲望と魔王の信者
21話 もう一つの呪い(1/4)
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「<獄炎>ーーさて、これで終わりだな」
ファウスト村に残された氷塊のうち、腐った屍と化していた先代の配下たちを燃やし尽くしてようやく村での作業は終わりとなった。
だがそれで全ての問題が解決したわけではない。
転移魔法陣を使ってこちらに戻ってきたファウスト村の住人たちによる、村の被害報告が聞こえてくる。
「確認終わりました村長。やはり備蓄していた野菜はほとんど全滅に近く、各人の家にかろうじて残されていた食料を合わせてもおそらく二、三日が限界かと……」
「そうか、駄目だったか……」
死霊呪術士による魔獣と魔物の侵攻によりファウスト村の家屋の多くは破壊され、食料に関しても今聞こえてきたような惨状といったようだ。
「それでどうしましょう村長。食料は幸い持ちこたえられる量ですが、住居がこのありさまの上に、女子供たちからはまたいつ襲われるかといった声も挙がっているようで……」
「ううむ……」
村の村長は今後の対応を決めかねている様子だが、こちらからすればまたとない機会といえるだろう。
「お困りのようだな村長」
「おや、これはこれはマオウ様、いえ魔王様でしたな。どうやらお見苦しいところを見られてしまったようで……」
メイたちと死霊呪術士を倒している間に、暗黒騎士から俺が魔王であることと歓楽街を造り上げるという話が村の住人に伝えられていた。
冒険者の治療の際にアルラウネが姿を現してた以上は仕方のないことだが、今となっては説明が省けたと言えるだろう。
「この惨状では仕方ないだろう。それで提案なのだが、村の住人が望むのならば一時的に寝泊まりする場所ぐらいは提供してもいいぞ? もちろん移住でも一向に構わんがな」
上手く事が進めば大量の人間を確保できるかもしれないからな。中には有用な人間もいるだろうし、可能ならこちら側に取り込みたいところだ。だがそれを匂わすことはせずに、あえて選ばせる体を取る。
「それはまことですかな? こちらとしては渡りに船ですが、命を助けていただいた上にそこまでしていただくのはさすがに申し訳ないかと……」
魔王城にある大量の空き部屋はもちろん、今回の戦いで回収した大量の魔獣の肉があるため歓楽街への受け入れ体制は万全だ。
「なに、気にするな。部屋も食料も余っているのだ。それにこちらも人の意見が欲しかったところだからな」
あとは相手側に負担と思わせない簡単な要求をしておくことぐらいだ。これで一方的に施しを受けるわけではないと思わせることで、こちらの提案を受け入れやすくする。
「はて、意見ですかな?」
「ああ、街を造るというのは聞いただろう。そのことに関してだな」
「ふむ……欲望を叶える歓楽街、でしたかな。やはり亡き父から聞いた魔王の話からは似ても似つかない面白い考えをお持ちである魔王様のようですな。その話についてはわかりました。村の者に話をするので私どもは一度失礼いたします」
村長は報告しにやってきていた村人を連れて、他の村人たちが集められている村の広場らしき場所へと歩いていく。
「転移魔法陣はそのままにしておくので、決まったら使いの者を魔王城によこしてくれればいいからな」
村長の背中に向けてそう声をかけたところで、もう一つの問題に取り掛かることにする。
「さて、<転移>」
村の景色が瞬時に変化し、魔王城にある歓楽街のツリーハウスが目の前に見えてくる。
ファウスト村に残された氷塊のうち、腐った屍と化していた先代の配下たちを燃やし尽くしてようやく村での作業は終わりとなった。
だがそれで全ての問題が解決したわけではない。
転移魔法陣を使ってこちらに戻ってきたファウスト村の住人たちによる、村の被害報告が聞こえてくる。
「確認終わりました村長。やはり備蓄していた野菜はほとんど全滅に近く、各人の家にかろうじて残されていた食料を合わせてもおそらく二、三日が限界かと……」
「そうか、駄目だったか……」
死霊呪術士による魔獣と魔物の侵攻によりファウスト村の家屋の多くは破壊され、食料に関しても今聞こえてきたような惨状といったようだ。
「それでどうしましょう村長。食料は幸い持ちこたえられる量ですが、住居がこのありさまの上に、女子供たちからはまたいつ襲われるかといった声も挙がっているようで……」
「ううむ……」
村の村長は今後の対応を決めかねている様子だが、こちらからすればまたとない機会といえるだろう。
「お困りのようだな村長」
「おや、これはこれはマオウ様、いえ魔王様でしたな。どうやらお見苦しいところを見られてしまったようで……」
メイたちと死霊呪術士を倒している間に、暗黒騎士から俺が魔王であることと歓楽街を造り上げるという話が村の住人に伝えられていた。
冒険者の治療の際にアルラウネが姿を現してた以上は仕方のないことだが、今となっては説明が省けたと言えるだろう。
「この惨状では仕方ないだろう。それで提案なのだが、村の住人が望むのならば一時的に寝泊まりする場所ぐらいは提供してもいいぞ? もちろん移住でも一向に構わんがな」
上手く事が進めば大量の人間を確保できるかもしれないからな。中には有用な人間もいるだろうし、可能ならこちら側に取り込みたいところだ。だがそれを匂わすことはせずに、あえて選ばせる体を取る。
「それはまことですかな? こちらとしては渡りに船ですが、命を助けていただいた上にそこまでしていただくのはさすがに申し訳ないかと……」
魔王城にある大量の空き部屋はもちろん、今回の戦いで回収した大量の魔獣の肉があるため歓楽街への受け入れ体制は万全だ。
「なに、気にするな。部屋も食料も余っているのだ。それにこちらも人の意見が欲しかったところだからな」
あとは相手側に負担と思わせない簡単な要求をしておくことぐらいだ。これで一方的に施しを受けるわけではないと思わせることで、こちらの提案を受け入れやすくする。
「はて、意見ですかな?」
「ああ、街を造るというのは聞いただろう。そのことに関してだな」
「ふむ……欲望を叶える歓楽街、でしたかな。やはり亡き父から聞いた魔王の話からは似ても似つかない面白い考えをお持ちである魔王様のようですな。その話についてはわかりました。村の者に話をするので私どもは一度失礼いたします」
村長は報告しにやってきていた村人を連れて、他の村人たちが集められている村の広場らしき場所へと歩いていく。
「転移魔法陣はそのままにしておくので、決まったら使いの者を魔王城によこしてくれればいいからな」
村長の背中に向けてそう声をかけたところで、もう一つの問題に取り掛かることにする。
「さて、<転移>」
村の景色が瞬時に変化し、魔王城にある歓楽街のツリーハウスが目の前に見えてくる。
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