上 下
73 / 76
人間の欲望と魔王の信者

21話 もう一つの呪い(1/4)

しおりを挟む
「<獄炎>ーーさて、これで終わりだな」

 ファウスト村に残された氷塊のうち、腐った屍と化していた先代の配下たちを燃やし尽くしてようやく村での作業は終わりとなった。

 だがそれで全ての問題が解決したわけではない。
 転移魔法陣を使ってこちらに戻ってきたファウスト村の住人たちによる、村の被害報告が聞こえてくる。

「確認終わりました村長。やはり備蓄していた野菜はほとんど全滅に近く、各人の家にかろうじて残されていた食料を合わせてもおそらく二、三日が限界かと……」
「そうか、駄目だったか……」

 死霊呪術士による魔獣と魔物の侵攻によりファウスト村の家屋の多くは破壊され、食料に関しても今聞こえてきたような惨状といったようだ。

「それでどうしましょう村長。食料は幸い持ちこたえられる量ですが、住居がこのありさまの上に、女子供たちからはまたいつ襲われるかといった声も挙がっているようで……」
「ううむ……」

 村の村長は今後の対応を決めかねている様子だが、こちらからすればまたとない機会といえるだろう。

「お困りのようだな村長」
「おや、これはこれはマオウ様、いえ魔王様でしたな。どうやらお見苦しいところを見られてしまったようで……」

 メイたちと死霊呪術士を倒している間に、暗黒騎士から俺が魔王であることと歓楽街を造り上げるという話が村の住人に伝えられていた。
 冒険者の治療の際にアルラウネが姿を現してた以上は仕方のないことだが、今となっては説明が省けたと言えるだろう。

「この惨状では仕方ないだろう。それで提案なのだが、村の住人が望むのならば一時的に寝泊まりする場所ぐらいは提供してもいいぞ? もちろん移住でも一向に構わんがな」

 上手く事が進めば大量の人間を確保できるかもしれないからな。中には有用な人間もいるだろうし、可能ならこちら側に取り込みたいところだ。だがそれを匂わすことはせずに、あえて選ばせる体を取る。

「それはまことですかな? こちらとしては渡りに船ですが、命を助けていただいた上にそこまでしていただくのはさすがに申し訳ないかと……」

 魔王城にある大量の空き部屋はもちろん、今回の戦いで回収した大量の魔獣の肉があるため歓楽街への受け入れ体制は万全だ。

「なに、気にするな。部屋も食料も余っているのだ。それにこちらも人の意見が欲しかったところだからな」

 あとは相手側に負担と思わせない簡単な要求をしておくことぐらいだ。これで一方的に施しを受けるわけではないと思わせることで、こちらの提案を受け入れやすくする。

「はて、意見ですかな?」
「ああ、街を造るというのは聞いただろう。そのことに関してだな」
「ふむ……欲望を叶える歓楽街、でしたかな。やはり亡き父から聞いた魔王の話からは似ても似つかない面白い考えをお持ちである魔王様のようですな。その話についてはわかりました。村の者に話をするので私どもは一度失礼いたします」

 村長は報告しにやってきていた村人を連れて、他の村人たちが集められている村の広場らしき場所へと歩いていく。

「転移魔法陣はそのままにしておくので、決まったら使いの者を魔王城によこしてくれればいいからな」

 村長の背中に向けてそう声をかけたところで、もう一つの問題に取り掛かることにする。

「さて、<転移>」

 村の景色が瞬時に変化し、魔王城にある歓楽街のツリーハウス宿屋が目の前に見えてくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

処理中です...