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第2章 始めての育成を経て、危険人物として知れ渡る

62話 転移無法1

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 俺が魔王城に来てから1か月経ったというところだろうか。

 あの後、オークの村から逃げ帰った冒険者の情報を元に、報復を恐れたデュオのギルドが厳戒態勢を敷いたが、もちろんブレブたちが現れるなんてことは無く、3日ほどで厳戒態勢が解かれるなんて事があった。

 そして、その期間を経て、デュオを含めた周辺地域にいる冒険者たちの間で1つの常識が変わってしまった。

 亜人や魔物での戦闘で死者は出ないという常識。
 今ではそんな常識に一文が加わる事になった。
 ただし、異世界人はその存在が消滅してしまうことがある、というものがだ。

 ーーそして各地に出没する謎の存在。

 仮面と黒衣を身につけた謎の存在こと、俺は森の中を軽く疾走していた。

「はあっ、はあっ、もう駄目」

 そうして息も絶え絶えになっている、とびきり足の遅い女魔法使いを通り過ぎて、更に先へと駆け抜ける。

「……え? もしかして本当に異世界人だけを?」

 恐怖を煽るためとはいえ、いいタイミングまで転移を禁止されてしまうとは……。

「がっ、くそっ、俺は見逃して……ひっ、はっ……」

 残念ながらそれはできない。
 追いつきざまに異世界人へと触れて、さらに先へ。
 背後から異世界送還によって発せられた光を感じつつも、足を止めずに前方を走る者たちを追い立てる。

 すると前を走る冒険者のうち、女を抱き上げて走っていた男が立ち止まり、女を下ろすところが見える。

「ほら、先に行きな」

「でも……」

「なんとか時間を稼ぐから、早く行けって!」

「う、うん……。絶対に後から来てね! 待ってるから!」

 そんな短い会話が聞こえてきた後で、男性冒険者がこちらに向き直る。

「おい、俺がお望みの異世界人だぞ」

 どうやら体を張って仲間を守ろうという事らしい。
 すでに実力差が明白なのを理解しているのか、両手を広げて俺に近づいてくる。
 しがみつくなりして少しでも足止めしようとしているのか?

 俺はそのままその男へと急接近し、軽く避けた後で背後から男の肩にポンと手を置く。
 仲間は大事にするべきだよな。
 さすがは、

「あいにくと、お前は対象外だ」

 善良とクロエが評価した異世界人なだけはある。
 俺は何もせずに手を離すとそのまま男を置き去りにして、さらに先を走る冒険者へ迫っていく。

「え? ……あ、おい待て!」

 すると、何もされていない事に冒険者の男が気づいたのだろう。
 そんな声が背後から遅れて届く。
 続いて、走る先には女戦士と女僧侶の姿がある。

「ちっ、あんた楽してたんだから、その分あたしのために犠牲になりな!」

「きゃっ!」

 すると、女僧侶が女戦士に押されて、後ろに向かって倒れようとしていた。
 俺は速度を上げて、追いついた先で彼女を抱き止める。

「大丈夫か?」

「え? え? あの、はい……」

「そうか」

 そのまま女僧侶を地面に降ろし、ここで転移を行った。
 そうして女戦士の走る目の前へと移動する。

「ひっ、ちくしょう!」

 俺が目の前に突然現れたことに驚いた女戦士が足を止め、元来た道へ戻ろうと身を翻した際に足をもつれさせた結果、尻もちを付いた。
 俺がそこへ歩み寄っていくと、女戦士が両手を祈る時のように手を合わせ、こちらに懇願してきた。

「頼むよ、何でもするからさ! ほ、ほら、今度私の言いなりの新米冒険者のかわいい子をあんたに貢ぐからさ!」

 その戯言を無視して、俺は目標へと敢えてにじり寄る。
 俺がゆっくりと1歩進めば、女戦士が尻もちをついた状態から1足分後ずさる。

 やがて、それを繰り返していくうちに女戦士の背中が木の幹に止められる。
 そうして逃げ場が無くなったことに気づいた女冒険者の表情が歪んで、涙がこぼれだす。

「お願い、お願いだよ! 私はまだ消えだぐないぃ!」

 そんな都合のいい言葉が聞こえてくる。
 相手の言葉は聞かなかっただろうにな。

「黙れ」

「ひっ」

「同じように懇願してきた亜人や魔物たちをお前はどうした?」

「倒し……ました。でも悪い奴らなんだから当然の……」

 それがそちらの言い分か。
 ならば、それに合わせてやろう。

「そうか、それもそうだな」

 俺の言葉を聞いて女戦士の顔がぱっと明るいものになる。
 次の俺の言葉を聞くまでは。

「ちなみに、私にはお前が悪い奴に見える。貴様の言い分であれば、これから起こることに何も問題ないな?」

 そうしてその顔が絶望に染まった。

「あ、あ……」

 俺はそのまま女戦士の頭を鷲掴みにして、異世界送還を発動させた。
 すぐに女戦士の真下に白い魔法陣が浮かび上がる。

「くそっ、くそっ! 何でこんなところに転ーー」

「殺されないだけ、ありがたく思うがいい……ああ、もう聞こえていないか」

 そうして女戦士の姿が消え失せたーー
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