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第1章 育成準備につき、裏で密かに動いていく
25話 魔王城侵攻5
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「やっと着いたか」
「やられそうになると消える魔物とかもそうだけど、無駄に長い通路は嫌がらせかっつーの!」
「それに、攻撃の届かない天井にいるブラッディスライムからの粘液の雨も、ダメージは無いけど鬱陶しかった」
ユウトの言うように、粘液の雨に振られたのだろう。
4つに分岐した扉をくぐるのを見送った時とは違って、ユウトたちの武器や衣服の一部に、血しぶきでもかかったかのうような赤い染みがいくつも出来上がっていた。
なんでも、あれは演出らしい。
試練の間の4つの部屋での出来事はそれぞれ映像が記録されて、後日各地にいる亜人や魔物といった魔王軍の仲間に俺の存在を周知させるために使われるとか。
それで異世界人の凶暴さをアピールするために、あのような姿になるようにブラッディスライムを配置したとのこと。
「あっ……あの人が四天王かな?」
「そうみたい、ですね……」
俺は静かに移動を行って、攻撃が来ないだろう勇者パーティーの後衛付近に潜む。
あとは戦いを見守って、時が来るのを待つだけだ。
「あんたが俺たちの相手かな?」
ユウトの声に、相手の人物は立ち上がってそれに答える。
「よくぞ来たな、なり損ないよ」
「……どういう意味だ」
「言葉のままよ」
「こんなやつの言うことなんて気にするなよ。どうせ俺たちに倒される相手だ」
その言葉に対して、相手の人物は鼻で笑いながらマサトに言葉を返す。
「はっ、勇ましいじゃないか。なり損ないにすらなれなかった戦士よ」
「なんだと!」
ユウトには気にするなと言いつつも、自分が言われると途端に怒りだすマサト。
それを見てユウトは少し冷静になったらしい。
「確かにマサトの言うとおりだな。『勇者の加護』を持った勇者である俺、ユウトがお前を倒そう」
すると、その言葉を聞いてなのか、相手の人物は可笑しそうに鋭い牙を見せて、笑い声を出しながらユウトに答える。
「フハハハハ! 勇者、勇者か!」
その笑い声もすぐに収まり、言葉を続ける。
「よかろう。相手になろうではないか。……だがその前に」
その目線をユウトの背後に送る。
見ているのは俺ではないだろう。
ユウト以外のマサト、チサトさん、スノーの方を見て手をこちらに向け、次の瞬間。
「お前たちには止まっていてもらおう、固定」
空中に赤黒い魔法陣が浮かび、ストップと唱えられた魔法が発動する。
もちろん俺はその効果の対象外だ。
そして、その効果は……。
「なんだこれ! 首から下が動かねえぞ!?」
「私も動かないよ!?」
「これはーー」
動きの停止、時間魔法の1つだと言っていたな。
聞いた通りのものであれば、もう3人は魔法が解除されるまでは動けない。
そしてついに全身に効果が現れたのか、3人の動きが完全に止まり、会話すらも中断される。
「ほう。貴様にも魔法をかけたつもりだが、やはり加護持ちは動くか」
ユウトは『勇者の加護』を持つだけあって、動くことが出来るようだ。
「3人に何をした!」
「目と耳は機能させたまま止めて、そこでゆっくりと見物してもらおうと思ってな。なに、これ以上危害を加えるつもりはないから安心せよ」
「信用できないな」
「そんなことはどうでもよいな。どちらにしろ貴様には1人で我と戦ってもらうだけよ」
「上等だ!」
そう言ってユウトが剣を構えると、その刀身が赤く燃え上がると同時に、地面を蹴ったのだろう。
ユウトの姿がブレて、気がつけば相手の懐に潜り込んでいた。
明らかにさっきまでの戦闘とは違う動きを見せている。
そのまま燃え盛る剣は相手の皮膚へと入り込み、傷をつけた。
俺にはそう見えたが、結果は違っていた。
実際には手から伸びる爪によってその攻撃が防がれていた。
「何っ!」
「ほう、魔法剣か」
「ならばこうだ!」
すると、刀身からほとばしる炎の量が目に見えて増える。
ミノタウロスの時はこれで武器を一気に焼き切っていたよな。
しかし、今回はそうなってもなお、結果は変わらない。
普通に考えて熱いはずなのに、なんでもないかのように、それを受け止めたまま動こうともしない。
「どうなっている!?」
「使い方が甘いな。単に火力を増せば良いというわけではないぞ? 静寂たる魔」
すると、燃えていた炎剣から炎が急に失せて、元々の刀身の色である赤すらも消えて、黒い剣に転じてしまう。
「なっ、俺の剣が! ……くそっ、どうして炎をまとわないんだ!」
どうやら黒くなった剣に再び炎が灯ることは無いようだ。
するとユウトは諦めたのか剣を使って、己の剣を防いだ爪を押し出すようにしてその場を離れる。
「どうした? 剣が使い物にならなくなったら、逃げるのか?」
「黙れ!」
その言葉からすぐに、再びユウトの姿がかき消えて、金属がぶつかり合うような音が連続して聞こえてくる。
数秒をかけて幾重にも響いたその音の後で、ユウトの姿が現れる。
「はあ、はあ。四天王がこんなに強いなんて計算外だぞ……」
現れたその姿に負傷した部分は見られないが、肩で息をしているところを見ると、かなり疲れている様子だ。
一方でユウトが戦っている相手は、一切疲れた様子もなく涼しい顔をしている。
「四天王? 何を勘違いして……ああ、そう言えば名乗っていなかったか」
その次の瞬間、空気が明らかに変わる。
空間全体が威圧感に包まれて、急に周りの温度が下がったかのように感じられる。
そうしてようやく、ユウトと対峙していた人物がその正体を相手に明かす。
「我が名はアギト、魔王城の主である魔王とは我のことよ!」
「やられそうになると消える魔物とかもそうだけど、無駄に長い通路は嫌がらせかっつーの!」
「それに、攻撃の届かない天井にいるブラッディスライムからの粘液の雨も、ダメージは無いけど鬱陶しかった」
ユウトの言うように、粘液の雨に振られたのだろう。
4つに分岐した扉をくぐるのを見送った時とは違って、ユウトたちの武器や衣服の一部に、血しぶきでもかかったかのうような赤い染みがいくつも出来上がっていた。
なんでも、あれは演出らしい。
試練の間の4つの部屋での出来事はそれぞれ映像が記録されて、後日各地にいる亜人や魔物といった魔王軍の仲間に俺の存在を周知させるために使われるとか。
それで異世界人の凶暴さをアピールするために、あのような姿になるようにブラッディスライムを配置したとのこと。
「あっ……あの人が四天王かな?」
「そうみたい、ですね……」
俺は静かに移動を行って、攻撃が来ないだろう勇者パーティーの後衛付近に潜む。
あとは戦いを見守って、時が来るのを待つだけだ。
「あんたが俺たちの相手かな?」
ユウトの声に、相手の人物は立ち上がってそれに答える。
「よくぞ来たな、なり損ないよ」
「……どういう意味だ」
「言葉のままよ」
「こんなやつの言うことなんて気にするなよ。どうせ俺たちに倒される相手だ」
その言葉に対して、相手の人物は鼻で笑いながらマサトに言葉を返す。
「はっ、勇ましいじゃないか。なり損ないにすらなれなかった戦士よ」
「なんだと!」
ユウトには気にするなと言いつつも、自分が言われると途端に怒りだすマサト。
それを見てユウトは少し冷静になったらしい。
「確かにマサトの言うとおりだな。『勇者の加護』を持った勇者である俺、ユウトがお前を倒そう」
すると、その言葉を聞いてなのか、相手の人物は可笑しそうに鋭い牙を見せて、笑い声を出しながらユウトに答える。
「フハハハハ! 勇者、勇者か!」
その笑い声もすぐに収まり、言葉を続ける。
「よかろう。相手になろうではないか。……だがその前に」
その目線をユウトの背後に送る。
見ているのは俺ではないだろう。
ユウト以外のマサト、チサトさん、スノーの方を見て手をこちらに向け、次の瞬間。
「お前たちには止まっていてもらおう、固定」
空中に赤黒い魔法陣が浮かび、ストップと唱えられた魔法が発動する。
もちろん俺はその効果の対象外だ。
そして、その効果は……。
「なんだこれ! 首から下が動かねえぞ!?」
「私も動かないよ!?」
「これはーー」
動きの停止、時間魔法の1つだと言っていたな。
聞いた通りのものであれば、もう3人は魔法が解除されるまでは動けない。
そしてついに全身に効果が現れたのか、3人の動きが完全に止まり、会話すらも中断される。
「ほう。貴様にも魔法をかけたつもりだが、やはり加護持ちは動くか」
ユウトは『勇者の加護』を持つだけあって、動くことが出来るようだ。
「3人に何をした!」
「目と耳は機能させたまま止めて、そこでゆっくりと見物してもらおうと思ってな。なに、これ以上危害を加えるつもりはないから安心せよ」
「信用できないな」
「そんなことはどうでもよいな。どちらにしろ貴様には1人で我と戦ってもらうだけよ」
「上等だ!」
そう言ってユウトが剣を構えると、その刀身が赤く燃え上がると同時に、地面を蹴ったのだろう。
ユウトの姿がブレて、気がつけば相手の懐に潜り込んでいた。
明らかにさっきまでの戦闘とは違う動きを見せている。
そのまま燃え盛る剣は相手の皮膚へと入り込み、傷をつけた。
俺にはそう見えたが、結果は違っていた。
実際には手から伸びる爪によってその攻撃が防がれていた。
「何っ!」
「ほう、魔法剣か」
「ならばこうだ!」
すると、刀身からほとばしる炎の量が目に見えて増える。
ミノタウロスの時はこれで武器を一気に焼き切っていたよな。
しかし、今回はそうなってもなお、結果は変わらない。
普通に考えて熱いはずなのに、なんでもないかのように、それを受け止めたまま動こうともしない。
「どうなっている!?」
「使い方が甘いな。単に火力を増せば良いというわけではないぞ? 静寂たる魔」
すると、燃えていた炎剣から炎が急に失せて、元々の刀身の色である赤すらも消えて、黒い剣に転じてしまう。
「なっ、俺の剣が! ……くそっ、どうして炎をまとわないんだ!」
どうやら黒くなった剣に再び炎が灯ることは無いようだ。
するとユウトは諦めたのか剣を使って、己の剣を防いだ爪を押し出すようにしてその場を離れる。
「どうした? 剣が使い物にならなくなったら、逃げるのか?」
「黙れ!」
その言葉からすぐに、再びユウトの姿がかき消えて、金属がぶつかり合うような音が連続して聞こえてくる。
数秒をかけて幾重にも響いたその音の後で、ユウトの姿が現れる。
「はあ、はあ。四天王がこんなに強いなんて計算外だぞ……」
現れたその姿に負傷した部分は見られないが、肩で息をしているところを見ると、かなり疲れている様子だ。
一方でユウトが戦っている相手は、一切疲れた様子もなく涼しい顔をしている。
「四天王? 何を勘違いして……ああ、そう言えば名乗っていなかったか」
その次の瞬間、空気が明らかに変わる。
空間全体が威圧感に包まれて、急に周りの温度が下がったかのように感じられる。
そうしてようやく、ユウトと対峙していた人物がその正体を相手に明かす。
「我が名はアギト、魔王城の主である魔王とは我のことよ!」
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