1122ver.R

アオイソラ

文字の大きさ
上 下
2 / 5

しおりを挟む
 夫と私はレスだ。
 もう二年以上ずっと、身体の繋がりはない。
 結婚する前はすごく求めあった。
 空っぽの身体に満たされる、溢れる程の愛を感じた。
 だから結婚しないか、と私から提案プロポーズした。
 彼は優しく微笑わらった。
 それが返事だった。
 
 結婚直後は溺れるように身体を重ねた。
 いつからだろう。
 夫は私を求めなくなった。
 いや、違う、私の身体・・・・を求めなくなった、が正しい。
 夫、依人よりひとが私を求めたことはきっと一度もない。
 
「急に冷えたね」
 
 依人はそう呟いて、重ねた私の右手ごと、左手を自分のコートのポケットに入れた。
 暖かい。
 私は依人のポケットの中で、そっと指を絡めて握り直す。
 依人を見上げた私の目線と、私を見る依人の目線が絡み合う。
 そして、何事もなかったように、絡み合っていた目線は離れる。
 彼と私を隔てる風が、冷たく頬を撫でた。
 
 依人と初めて会ったのは、高校三年生の時だった。
 卒業前に、と告白されて初めて付き合った彼氏、広起ひろきの親友だった。
 明るい太陽みたいな広起と対照的で、でも、だからなのか、十年以上の付き合いで何でも話し合える仲というのが納得できた。
 依人は、月みたいな、静かに寄り添ってくれるひとだ。
 彼は広起をとても大切にしていたから、こんなことになるなんて思ってなかっただろう。
 元、とはいえ、親友がプロポーズした婚約者と結婚することになるなんて。
 きっと、依人は苦しんだ。
 悪いのは全部私だ。
 
 依人が私に触れる手は、結婚当初と変わらず優しい。
 愛おしそうに、まるで壊れやすい大事なもののように、私に触れる。
 気づくと、依人はいつも私を見ている。
 慈しむような、切ないようなが私を見つめている。
 ニセモノの愛でも、悲劇を忘れるに十分な多幸感に浸れた。
 それでいい、それ以上は望まない、そう思って結婚したはずだった。それなのに。
「依人が見ているのが、本当に私なら良いのに」
 いつからか、そう思っていた自分に気がついて吐きそうになった。
 弱く、狡い自分が、ただただ気持ち悪い。
 広起のことをあんなにも愛していたのに、今でもこの胸の中から広起を消せないのに、今の私は依人の愛を欲しがっている。
 私の身体を通して、妹杏希あきの面影を偲んでいる依人の愛を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

処理中です...