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第一部ヴァルキュリャ編 第三章 ロンダーネ
鳴子
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魔法陣から山道を歩き続け三日目。
ひたすら続く林。
道らしき道もなく、岩場も少なくない。
歩きやすい所を選んで進むので、方向も分からなくなりそうだ。
ってことで、俺達は慎重に、ペースを落として進んでいた。
タクミさんに言われた通り、魔法陣からは川に沿って進んできた。
前回のコングスベルもそうだったから、なんとなく俺は理解できた。
道も標識も建物も何にもない自然の中で、川は誰にでも明らかな目印になるんだ。
だから、初めは道も川に沿って出来る。
考えてみれば当たり前のようなことだけど、考えたことがなかった。
ポロリと目から鱗が落ちた感じだ。
俺、そんな風に地図を見たことなかったけど、日本も同じだったりするんじゃないか、なんて思った。
(すかさず右手首が地図データを確認しますかってアピってきたんで、俺は後でなって一蹴した訳だけど。)
「また滝がある。あそこで休憩しよう」
アセウスの提案に俺もジトレフも相槌を打つ。
一日目も、二日目も、途中で綺麗な滝があった。
標高はがんがん上がってるのかもしれない。
なんとなく、身体は疲れ易くなってる気がするし、気がつくとハァハァと息が切れてたりする。
今もそうだ。
荷物が重い。
休み休みのこのペースが、マジでありがたい。
高スペックのエルドフィンの身体になってからは初めてなんじゃないか? てゆーよぉな、前世の俺がちょっと運動すると味わってた、懐かしい「しんどさ」だ。
「ハァッハアッ、やべーっ。休めると思ったからか、しんどさがどっと来たぁっ。ハァッハアッ、今、何かに出てこられても、俺、動けねぇーっ、ハァッハアッハァッ」
広げた獣皮の上に寝転んだまま、俺は身体を大の字に広げた。
水、水、飲まなきゃ、水飲みてぇ。
けど、今はこのまま休みてぇ~。
水飲むために起き上がるのも、しんどいんですわぁ~。
「心配は要らない。私が対処する」
頭上でジトレフの頼もしい低音が響いた。
そーゆーとこ、便利だもんな、お前。
一日目、林に入ってすぐに大きなトナカイと遭遇した。
すっげー角の、すっげーデカいトナカイ。
一頭だけだったけど、暴れられたら結構な重労働だったと思う。
それを、俺らがビビっている間にジトレフは一刀両断、首を落として食料と資金源に変えた。
瞬時の判断力といい、行動力といい、その技術力といい、言葉を失うものだった。
旅の経験も、獣との遭遇の経験も、俺達の方があるはずなのにな。
とゆーことで、任せたぜぇーっ。
近寄ってくるアセウスの足音と獣皮を広げる音を確認しながら、俺は全身を脱力させていた。
「一応周囲を見てみたけど、生き物の気配はしないよ。大丈夫、向こうだって警戒はするさ。獣皮を敷いたから、ほら、こっち、ジトレフも座って休んだら。甲冑も脱いでさ」
ポン、ポンッと獣皮を叩く音がする。
アセウスが俺を誘う時に良くやるやつだ。
「……すまない」
しばらくして、ガチャガチャと甲冑を脱ぐ音が聞こえ始めた。
信じらんねぇよな。
空気が薄くて疲れやすいっつーのにずっとあの黒い甲冑をつけてるんだからな。
どーゆー身体してんだよ。
さっきの低音、雑音が入っていた。
平気ぶってても、しっかり息上がってる癖によ。
マイナスイオンたっぷりの空気を深呼吸する。
全身のしんどさが清涼な空気に洗い流されていく。
起き上がって、水筒の水をゴクゴクッと飲み干すと、頭の先からすっきりとクリアになっていった。
ふっかぁーーつっっっ!!
心で叫んで大きく伸びをした。
きっと今、俺の手は、全人生で一番高い所にあるんだぜぇーっ。
訳の分からない優越感に自分自身笑った。
その時だった。
クリアになった身体全体にそれが飛び込んできたんだ。
「なんだっっ??!!」
振り返りながら立ち上がっていた俺の目には、黒い長剣を鞘から抜き構えるジトレフの背が見えた。
視界には、どこまでも続く林の他は、ジトレフとアセウスしか映っていない。
ジトレフは、足元に座ったまま戸惑っているアセウスの傍ら、獣皮の上に置かれている黒い甲冑にチラと目をやり、わずかに顔をしかめた。
「なんだっって、エルドフィン、お前らこそ。ちゃんと説明しろよっ」
アセウスは俺とジトレフの見据える方向を警戒しながら、水筒の水を呷るようにして飲むと、荷物袋にしまいながら立ち上がった。
腰に下げた魔剣の柄に手を添えるアセウスを見て、俺は慌てて獣皮の上を探した。
それから、ちょっと気恥ずかしい思いをしながら、腰に携えた剣の柄を握りしめた。
説明しろって言われても、出来ねーんだよっ。
俺の方が説明して欲しい。
ジトレフのは知らんが、俺のは多分、イーヴル・コアのせいだ。
イーヴル・コアが何かを確知している。
ヤベーもんが来るっっ―――――――― !!
ひたすら続く林。
道らしき道もなく、岩場も少なくない。
歩きやすい所を選んで進むので、方向も分からなくなりそうだ。
ってことで、俺達は慎重に、ペースを落として進んでいた。
タクミさんに言われた通り、魔法陣からは川に沿って進んできた。
前回のコングスベルもそうだったから、なんとなく俺は理解できた。
道も標識も建物も何にもない自然の中で、川は誰にでも明らかな目印になるんだ。
だから、初めは道も川に沿って出来る。
考えてみれば当たり前のようなことだけど、考えたことがなかった。
ポロリと目から鱗が落ちた感じだ。
俺、そんな風に地図を見たことなかったけど、日本も同じだったりするんじゃないか、なんて思った。
(すかさず右手首が地図データを確認しますかってアピってきたんで、俺は後でなって一蹴した訳だけど。)
「また滝がある。あそこで休憩しよう」
アセウスの提案に俺もジトレフも相槌を打つ。
一日目も、二日目も、途中で綺麗な滝があった。
標高はがんがん上がってるのかもしれない。
なんとなく、身体は疲れ易くなってる気がするし、気がつくとハァハァと息が切れてたりする。
今もそうだ。
荷物が重い。
休み休みのこのペースが、マジでありがたい。
高スペックのエルドフィンの身体になってからは初めてなんじゃないか? てゆーよぉな、前世の俺がちょっと運動すると味わってた、懐かしい「しんどさ」だ。
「ハァッハアッ、やべーっ。休めると思ったからか、しんどさがどっと来たぁっ。ハァッハアッ、今、何かに出てこられても、俺、動けねぇーっ、ハァッハアッハァッ」
広げた獣皮の上に寝転んだまま、俺は身体を大の字に広げた。
水、水、飲まなきゃ、水飲みてぇ。
けど、今はこのまま休みてぇ~。
水飲むために起き上がるのも、しんどいんですわぁ~。
「心配は要らない。私が対処する」
頭上でジトレフの頼もしい低音が響いた。
そーゆーとこ、便利だもんな、お前。
一日目、林に入ってすぐに大きなトナカイと遭遇した。
すっげー角の、すっげーデカいトナカイ。
一頭だけだったけど、暴れられたら結構な重労働だったと思う。
それを、俺らがビビっている間にジトレフは一刀両断、首を落として食料と資金源に変えた。
瞬時の判断力といい、行動力といい、その技術力といい、言葉を失うものだった。
旅の経験も、獣との遭遇の経験も、俺達の方があるはずなのにな。
とゆーことで、任せたぜぇーっ。
近寄ってくるアセウスの足音と獣皮を広げる音を確認しながら、俺は全身を脱力させていた。
「一応周囲を見てみたけど、生き物の気配はしないよ。大丈夫、向こうだって警戒はするさ。獣皮を敷いたから、ほら、こっち、ジトレフも座って休んだら。甲冑も脱いでさ」
ポン、ポンッと獣皮を叩く音がする。
アセウスが俺を誘う時に良くやるやつだ。
「……すまない」
しばらくして、ガチャガチャと甲冑を脱ぐ音が聞こえ始めた。
信じらんねぇよな。
空気が薄くて疲れやすいっつーのにずっとあの黒い甲冑をつけてるんだからな。
どーゆー身体してんだよ。
さっきの低音、雑音が入っていた。
平気ぶってても、しっかり息上がってる癖によ。
マイナスイオンたっぷりの空気を深呼吸する。
全身のしんどさが清涼な空気に洗い流されていく。
起き上がって、水筒の水をゴクゴクッと飲み干すと、頭の先からすっきりとクリアになっていった。
ふっかぁーーつっっっ!!
心で叫んで大きく伸びをした。
きっと今、俺の手は、全人生で一番高い所にあるんだぜぇーっ。
訳の分からない優越感に自分自身笑った。
その時だった。
クリアになった身体全体にそれが飛び込んできたんだ。
「なんだっっ??!!」
振り返りながら立ち上がっていた俺の目には、黒い長剣を鞘から抜き構えるジトレフの背が見えた。
視界には、どこまでも続く林の他は、ジトレフとアセウスしか映っていない。
ジトレフは、足元に座ったまま戸惑っているアセウスの傍ら、獣皮の上に置かれている黒い甲冑にチラと目をやり、わずかに顔をしかめた。
「なんだっって、エルドフィン、お前らこそ。ちゃんと説明しろよっ」
アセウスは俺とジトレフの見据える方向を警戒しながら、水筒の水を呷るようにして飲むと、荷物袋にしまいながら立ち上がった。
腰に下げた魔剣の柄に手を添えるアセウスを見て、俺は慌てて獣皮の上を探した。
それから、ちょっと気恥ずかしい思いをしながら、腰に携えた剣の柄を握りしめた。
説明しろって言われても、出来ねーんだよっ。
俺の方が説明して欲しい。
ジトレフのは知らんが、俺のは多分、イーヴル・コアのせいだ。
イーヴル・コアが何かを確知している。
ヤベーもんが来るっっ―――――――― !!
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