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第一部ヴァルキュリャ編 第一章 ベルゲン
乾杯
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石造りの大広間に大きなテーブル。
松明の灯りが惜しみなく掲げられているが、空間が広すぎて薄暗さは避けられない。
広間の中の人々の話し声が、石造りの壁に反射してか、人数よりもガヤガヤと騒がしい。
そこに並ぶ圧巻の海鮮料理。
まるで居酒屋だな、と俺はたぎった。
大皿に並ぶ刺身に、酒が飲めたらなぁと喉が鳴った。
ニ、三時間働けば、その報酬で飲み放題ができたとか、なんて恵まれた世界だったんだろう。
ビールに焼酎にウィスキーに日本酒……
雰囲気に煽られてか、前世の記憶が生々しく甦り、唾液がじわじわ溢れてくる。
いやいや、タクミさんのところで葡萄酒にあずかれただけでも贅沢なんだ。
この世界では酒類を飲む機会なんて殆どない。
葡萄酒、美味かったなぁ……。
……今日は酒、飲みたい気分なんだけどな……。
チラ、と横のアセウスに目をやる。
ソルベルグの家人たちに明るい笑顔を振る舞いながら、薦められた席に腰を下ろしていた。
チラ、と反対側のジトレフに目をやる。
ばちり、と目があった。
うおっっ、ビビった。
「どうかしたか」
低音ボイスが耳に響いた。
なんだよ、そりゃこっちのセリフだっ。
とりあえず無視して、スニィオに薦められるまま、アセウスの隣の席に腰を下ろす。
上座を数席空けて、アセウス、俺、ジトレフの順に座らされた。
向かいの席には老若男女(老と言っても、30そこらの老だけど)、様々な顔ぶれが既に着座していた。
共通しているのは薄暗さのなかでも分かる、白い肌と赤い巻き毛。
カルホフディの……つまり、ソルベルグ家当主の親族かな。
「アーセウス!! よくぞ来てくれた! 会いたかったぞ!」
ざわめきを上回る割れんばかりの声が大広間に響いた。
騒がしかった話し声は止み、皆が声の主に注目する。
声のした方向、上座には、カルホフディとその両親らしき姿が現れていた。
いつの間にかアセウスは席を立って、彼らの前に歩み寄っていた。
声の主と思われる大柄の男、あれがカルホフディの父親だろう、が大きく手を拡げてアセウスを歓迎していた。
「立派に育ったじゃあないか! ひょろひょろのリニの子とは思えん! エイケンに居場所がなければソルベルグに来ればいい! わしも、ソルベルグの民も、皆強くて、鍛えている男は好きだからな!!」
ガシッとアセウスを抱き締めたかと思うと、すぐさま手を拡げてアセウスと俺たちに親族を紹介し始めた。
わしの娘! わしの息子! わしの兄弟! わしの姉妹! と大声で呼ばれた者が次々に席を立ち、アセウスと俺らに挨拶をしてはまた席に着く。
多い上に、皆名前が似ていて、俺は早々に覚えようという気を失くした。
「こちらは紹介するまでもないが、エイケン家の跡取り、アセウス殿だ! エイケン家とソルベルグ家の親交は長く、厚い! 嬉しいことに、こうしてソルベルグ家を訪ねて来てくれた! 時の許す限り、友好を深めようぞ! そして、そちらのご友人、エルドフィン殿とジトレフ殿にも、粗相のないようにな! ソルベルグの懐を存分に示すのだ!! はーっはっはっはっ!!」
この「おとん」殿が言葉を発する度に、着座している親族から合いの手のような喝采が上がる。
完全に居酒屋の宴会のノリだ。
ますます酒で乾杯したくなるじゃねぇか。
え? 俺? こういうノリ苦手に決まってっじゃん。
盛り上げ役が、盛り上げようと演技してるのは寒くて見ちゃいられなかったし、予定調和的に騒いでる連中もやらされ感が否めなくて馬鹿馬鹿しく思えちまうタイプ。
ぼっちだから呼ばれるのは仕事先でくらいだったけど、参加するのも嫌だったな。
だから、正直今の自分に驚いていた。
ぼっちじゃなくなったってっのは影響するんだろうか。
「おとん」も親族も振りきって見えて、痛々しさどころか、なんちゅーか清々しい。
俺もどさくさに紛れて、ふぉーっとかふぁーっとか叫びたくなっていた。
席に戻ってきたアセウスの隣に、「おとん」が座り、その向かいにカルホフディの母親らしき女性が座った。
と、だ。
鹿の角から作ったみたいなグラスが配られる。
え? え?! え?!?!
この、うす茶色の液体って……
「父上にすべてを言われてしまった今、これ以上は冗長! だが、ソルベルグ家当主としてではなく、一人の男として言おう!」
腹から出したような雄々しい声に、液体への興味は中断され、俺は声の主を見ていた。
お誕生日席に立ち、角杯を手にしたカルホフディ。
体も小さく、声も若いのに、「おとん」と重なる豪快な迫力があった。
転移の部屋でのカルホフディからはまるで想像がつかない。
「兄のように慕っていた友との、八年ぶりの再会をこの上なく喜んでいる!! アセウス・エイケンに!!」
カルホフディに続いて、全員の角杯が高く掲げられる。
俺も皆に合わせて、杯を掲げ、乾杯の言葉を唱えた。
『アセウス・エイケンに!!!!』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ンんんっっまぢかっ!? これ、ビール?!?!
ふぉぉーーーーーーっっっ!!!!!!
―――――――――――――――――――
【冒険を共にするイケメン】
戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス
オッダ部隊第二分隊長 ジトレフ
【冒険の協力者イケメン】
ローセンダールの魔術師 タクミ
ソルベルグ家当主 カルホフディ
【冒険のアイテム】
アセウスの魔剣
青い塊
黒い石の腕鎖
イーヴル・コア(右手首に内蔵)
【冒険の目的地】
ベルゲン(現在地)
松明の灯りが惜しみなく掲げられているが、空間が広すぎて薄暗さは避けられない。
広間の中の人々の話し声が、石造りの壁に反射してか、人数よりもガヤガヤと騒がしい。
そこに並ぶ圧巻の海鮮料理。
まるで居酒屋だな、と俺はたぎった。
大皿に並ぶ刺身に、酒が飲めたらなぁと喉が鳴った。
ニ、三時間働けば、その報酬で飲み放題ができたとか、なんて恵まれた世界だったんだろう。
ビールに焼酎にウィスキーに日本酒……
雰囲気に煽られてか、前世の記憶が生々しく甦り、唾液がじわじわ溢れてくる。
いやいや、タクミさんのところで葡萄酒にあずかれただけでも贅沢なんだ。
この世界では酒類を飲む機会なんて殆どない。
葡萄酒、美味かったなぁ……。
……今日は酒、飲みたい気分なんだけどな……。
チラ、と横のアセウスに目をやる。
ソルベルグの家人たちに明るい笑顔を振る舞いながら、薦められた席に腰を下ろしていた。
チラ、と反対側のジトレフに目をやる。
ばちり、と目があった。
うおっっ、ビビった。
「どうかしたか」
低音ボイスが耳に響いた。
なんだよ、そりゃこっちのセリフだっ。
とりあえず無視して、スニィオに薦められるまま、アセウスの隣の席に腰を下ろす。
上座を数席空けて、アセウス、俺、ジトレフの順に座らされた。
向かいの席には老若男女(老と言っても、30そこらの老だけど)、様々な顔ぶれが既に着座していた。
共通しているのは薄暗さのなかでも分かる、白い肌と赤い巻き毛。
カルホフディの……つまり、ソルベルグ家当主の親族かな。
「アーセウス!! よくぞ来てくれた! 会いたかったぞ!」
ざわめきを上回る割れんばかりの声が大広間に響いた。
騒がしかった話し声は止み、皆が声の主に注目する。
声のした方向、上座には、カルホフディとその両親らしき姿が現れていた。
いつの間にかアセウスは席を立って、彼らの前に歩み寄っていた。
声の主と思われる大柄の男、あれがカルホフディの父親だろう、が大きく手を拡げてアセウスを歓迎していた。
「立派に育ったじゃあないか! ひょろひょろのリニの子とは思えん! エイケンに居場所がなければソルベルグに来ればいい! わしも、ソルベルグの民も、皆強くて、鍛えている男は好きだからな!!」
ガシッとアセウスを抱き締めたかと思うと、すぐさま手を拡げてアセウスと俺たちに親族を紹介し始めた。
わしの娘! わしの息子! わしの兄弟! わしの姉妹! と大声で呼ばれた者が次々に席を立ち、アセウスと俺らに挨拶をしてはまた席に着く。
多い上に、皆名前が似ていて、俺は早々に覚えようという気を失くした。
「こちらは紹介するまでもないが、エイケン家の跡取り、アセウス殿だ! エイケン家とソルベルグ家の親交は長く、厚い! 嬉しいことに、こうしてソルベルグ家を訪ねて来てくれた! 時の許す限り、友好を深めようぞ! そして、そちらのご友人、エルドフィン殿とジトレフ殿にも、粗相のないようにな! ソルベルグの懐を存分に示すのだ!! はーっはっはっはっ!!」
この「おとん」殿が言葉を発する度に、着座している親族から合いの手のような喝采が上がる。
完全に居酒屋の宴会のノリだ。
ますます酒で乾杯したくなるじゃねぇか。
え? 俺? こういうノリ苦手に決まってっじゃん。
盛り上げ役が、盛り上げようと演技してるのは寒くて見ちゃいられなかったし、予定調和的に騒いでる連中もやらされ感が否めなくて馬鹿馬鹿しく思えちまうタイプ。
ぼっちだから呼ばれるのは仕事先でくらいだったけど、参加するのも嫌だったな。
だから、正直今の自分に驚いていた。
ぼっちじゃなくなったってっのは影響するんだろうか。
「おとん」も親族も振りきって見えて、痛々しさどころか、なんちゅーか清々しい。
俺もどさくさに紛れて、ふぉーっとかふぁーっとか叫びたくなっていた。
席に戻ってきたアセウスの隣に、「おとん」が座り、その向かいにカルホフディの母親らしき女性が座った。
と、だ。
鹿の角から作ったみたいなグラスが配られる。
え? え?! え?!?!
この、うす茶色の液体って……
「父上にすべてを言われてしまった今、これ以上は冗長! だが、ソルベルグ家当主としてではなく、一人の男として言おう!」
腹から出したような雄々しい声に、液体への興味は中断され、俺は声の主を見ていた。
お誕生日席に立ち、角杯を手にしたカルホフディ。
体も小さく、声も若いのに、「おとん」と重なる豪快な迫力があった。
転移の部屋でのカルホフディからはまるで想像がつかない。
「兄のように慕っていた友との、八年ぶりの再会をこの上なく喜んでいる!! アセウス・エイケンに!!」
カルホフディに続いて、全員の角杯が高く掲げられる。
俺も皆に合わせて、杯を掲げ、乾杯の言葉を唱えた。
『アセウス・エイケンに!!!!』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ンんんっっまぢかっ!? これ、ビール?!?!
ふぉぉーーーーーーっっっ!!!!!!
―――――――――――――――――――
【冒険を共にするイケメン】
戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス
オッダ部隊第二分隊長 ジトレフ
【冒険の協力者イケメン】
ローセンダールの魔術師 タクミ
ソルベルグ家当主 カルホフディ
【冒険のアイテム】
アセウスの魔剣
青い塊
黒い石の腕鎖
イーヴル・コア(右手首に内蔵)
【冒険の目的地】
ベルゲン(現在地)
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