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第18話
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あの一件以降、鈴木と会っていない。
学期末のテスト週間もあって、生徒会は活動していないので、四人で帰ることもなくなっていた。
達也と美智ちゃんはあの後、俺も憑依を解いたことでお互いに急に町で出会ったと記憶していたようで、そのままデートをしにいったそうだ。
しかしながら、その報告を達也から笑顔で受けても何も感じなかった。多少の嫉妬心はあれど、それはリア充に対する日ごろの憎しみ程度のものであった。
そんなことよりも、なによりもあの時、美智ちゃんに憑依していたのが鈴木なのかどうかの方がよっぽど俺を悩ませている。
俺の他に同じ能力に開花した人間がいることなど容易に想像できることである。
しかし、そんな単純なことを見落としていた。
俺の問いに対して動揺し、憑依を解いた時点で鈴木である可能性は濃厚であるが、確信は持てない。
彼女への疑念が生まれる。
そうして、美智ちゃんに対してではなく、あのデートでの変人に興味が生まれてくる。
あの憑依時の変人ぶりに自分と似た気質を感じ、何か親近感のようなものが芽生えるのだ。
思えば、美智ちゃんに対しては生徒会室で少し優しくされた程度で純粋無垢な童貞心を撫でられたようなものだ。
無論、下心100%だ。
愛と呼ぶには足りずに、恋という名の下心と呼べば腑に落ちる。
童貞の淡い恋心とはなんとも軽く、時の花とも形容しがたい春の不審者のようなものなのかもしれない。
それに舞い上がっていた自分の愚かな面を心の奥にしまい、またしても当初の悩みに帰ってくる。
しかしながら、あれが鈴木であったとして何を知りたいのか?
彼女も憑依の異能を持っているのかとか?
彼女が美智ちゃんに憑依した理由を知りたいのか?俺と同じような理由で、彼女は達也が好きであるとか?
しかし、彼女は一度も自分を売り込むような真似はしなかった。
それを解明したところで何になるというのか?
そして彼女はあれが達也にバレたと認識しているのか、もしくは達也の中にもう一人の人間がいると知っていたのかという疑問。
また、俺の話題に対して何故あのような悲痛そうな表情を浮かべていたのか?
俺は頭を悩ませつつも、どこかであの憑依していた人間が鈴木であればと期待している自分がいた。
俺はテスト週間の最終日に生徒会室に向かった。
理由は鈴木と話したかったからだ。
彼女のクラスの教室にも行ったが、もう帰ったと同クラスの女子に冷たく言われた。童貞の思い違いかもしれないが。
そうして、生徒会室に着くと、ドアにはめ込まれたガラス越しに人が立っているのが見えた。
そのシルエットは黒髪ロングの姿勢の良い女子に見える。
もしかしなくとも鈴木である。生徒会の業務でも行っていたのかもしれない。テスト期間中でもそんなことをしているなんてご苦労なことである。
俺は勢いよくドアを開いた。
鈴木は勢いよく開けられたドアに驚いていたが、俺の顔を見ると無表情を繕った。
「あれ、なんで生徒会室にいるんだ?」
俺は話のとっかかりに適当な疑問をぶつける。
「貴方こそ。どうしたの?」
鈴木は極めて冷静に対応する。しかし、どこかぎこちない印象を覚える。
「いや、鈴木と少し話がしたくてな」
ボッチに話しかける担任の開口一番の常套句にも似ている。はたまた、急に誘った女性に対するジャブだろうか。
鈴木はその言葉を聞いた瞬間、驚きもせずに、こちらに身構えた。何かを隠しているのか、もしくはただ俺と話したくないのか。分からないがとりあえず後者なら早く言ってくれ。
「話ってなに?」
毅然とした態度の鈴木に俺は問う。
「鈴木さん。この世には摩訶不思議な事象が数多く存在しますがね。その中でも異能力者とはかくも不思議な存在ではありますよね?」
ああ。言いたいことは分かる。日和ったのだ。だから、こんな茶番をしている。
「え?月刊ヌーの話でもしたいの?他を当たってくれない?」
鈴木は付き合ってられないと逃げるようにドアに向かって歩き出す。
「ああ。違います。違います。冗談です………鈴木さ。この間の土曜日なにしてた?」
「この間って?先週の?」
鈴木は怪訝な表情でこちらに居直り、肩眉を少し上げて挑発的な顔で聞いてくる。
「そうだ。何してた?」
「なんでそんなこと貴方に言わなくちゃいけないの?」
「まぁいいから」
「そうね………ずっと家で本を読んでいたわ」
「なるほど。そうくるか。………あの日って達也と美智ちゃんがデートしていたよな?」
「そうだったわね」
「ふーむ」
俺は一人納得したように探偵のように頷いてみたものの、どうにも本筋に触れていない会話に悩んでいた。
やはり鈴木は話の粗をこちらに見せないし、彼女に自白を促すような卓越したコミュニケーション能力が俺にあるなら、今頃彼女の一人も出来ていただろう。
「よし!鈴木よ。憑依という能力を知っているか?」
俺は知略を巡らせて戦うタイプではなく、猪突猛進、アタッカータイプなのだ。いや、単に諦めたのだ。
「は?何それ?」
「人に乗り移って意のままに操る異能だな。鈴木よ。お前はあの日に美智ちゃんに乗り移っていただろう?」
「は?………なにそれ?」
「いや、もう実は裏が取れている。他の生徒会のメンバーはそもそもあいつらが付き合っていることを知らないし、別に用事があったそうだ。そうして穴をつぶしていくと、最後に残ったのはお前しかいないんだ。お前があの日、美智ちゃんに乗り移っていたんだろ!?」
「何を一人で盛り上がっているのか分からないけど。えっと何?意味が分からない」
「いや、えっと………その。あれ?違った?」
ここで意志の弱さを露呈した俺は大人しく引き下がった。
「えっと………すいません。本当に鈴木じゃないの?本当に?嘘じゃないよね?」
俺はメンヘラみたいな話し方で彼女に聞く。彼女は無表情から何故か俺の顔を見て、笑いだした。
なんだ?そんなに面白い顔してたか?あ?いつもだと?ぶっとばずぞ。
「はは……。佐々木は馬鹿だね。なんか本当にこっちが勝手に一人で悩んで馬鹿みたい」
「何が?悩み事か?ちょうどいい。こっちは手の内を晒して、もうカードがないんだ。話してみなさい。」
「………佐々木さ。美智ちゃんのこと好き?」
鈴木の突然の問いに俺は面食らったように素っ頓狂な声を上げる。
「は?」
「好きでしょ?美智ちゃんのこと」
「えっと、それはまぁ、はい。そうっすね」
「でも達也君の彼女よね?」
「なんだ喧嘩売ってんのか?買ってやろうか?」
「ううん。分かった。じゃあ」
彼女がそう言って去るときに、彼女の表情は酷く切なげで何故かここで帰してはいけないと彼女の腕を掴んだ。
「なに?」
「いや、鈴木さ。えっと、美術館好き?」
「まぁ。そこそこ」
「そうか。俺はこのあいだ、美智ちゃんらしき奴と一緒に美術館に初めて行ったんだ」
「らしきって………なに?」
「そいつさ。馬鹿みたいに絵画とか詳しくて、大人げなくはしゃいでたんだ。俺はそれを見て、思ったんだ。なんか俺と似てるなぁって。それから、そいつのことが何故か頭から離れなくて。だから、そいつにもう一度会いたいんだ」
「………それを私に言ってどうするの?美智ちゃんに言えば?」
彼女の腕に力が入って、顔が引きつっている。俺は自分でも何を口走っているのか分からない。しかし、何かを言わなければならないと考えるより、先に口が開く。
「最後にもう一度聞くぞ。お前は美智ちゃんに憑依していただろ?」
「佐々木はやっぱり馬鹿だ。本当に馬鹿だ。だから三年間も彼女が出来なかったのよ。馬鹿だから」
そう言って、去り際に泣く彼女の顔を見て、初めて女性を抱きしめたいと思った高校三年生の秋の終わりだった。
しかし、俺は実際は彼女が走り去るところをボーッと見ているだけだった。
学期末のテスト週間もあって、生徒会は活動していないので、四人で帰ることもなくなっていた。
達也と美智ちゃんはあの後、俺も憑依を解いたことでお互いに急に町で出会ったと記憶していたようで、そのままデートをしにいったそうだ。
しかしながら、その報告を達也から笑顔で受けても何も感じなかった。多少の嫉妬心はあれど、それはリア充に対する日ごろの憎しみ程度のものであった。
そんなことよりも、なによりもあの時、美智ちゃんに憑依していたのが鈴木なのかどうかの方がよっぽど俺を悩ませている。
俺の他に同じ能力に開花した人間がいることなど容易に想像できることである。
しかし、そんな単純なことを見落としていた。
俺の問いに対して動揺し、憑依を解いた時点で鈴木である可能性は濃厚であるが、確信は持てない。
彼女への疑念が生まれる。
そうして、美智ちゃんに対してではなく、あのデートでの変人に興味が生まれてくる。
あの憑依時の変人ぶりに自分と似た気質を感じ、何か親近感のようなものが芽生えるのだ。
思えば、美智ちゃんに対しては生徒会室で少し優しくされた程度で純粋無垢な童貞心を撫でられたようなものだ。
無論、下心100%だ。
愛と呼ぶには足りずに、恋という名の下心と呼べば腑に落ちる。
童貞の淡い恋心とはなんとも軽く、時の花とも形容しがたい春の不審者のようなものなのかもしれない。
それに舞い上がっていた自分の愚かな面を心の奥にしまい、またしても当初の悩みに帰ってくる。
しかしながら、あれが鈴木であったとして何を知りたいのか?
彼女も憑依の異能を持っているのかとか?
彼女が美智ちゃんに憑依した理由を知りたいのか?俺と同じような理由で、彼女は達也が好きであるとか?
しかし、彼女は一度も自分を売り込むような真似はしなかった。
それを解明したところで何になるというのか?
そして彼女はあれが達也にバレたと認識しているのか、もしくは達也の中にもう一人の人間がいると知っていたのかという疑問。
また、俺の話題に対して何故あのような悲痛そうな表情を浮かべていたのか?
俺は頭を悩ませつつも、どこかであの憑依していた人間が鈴木であればと期待している自分がいた。
俺はテスト週間の最終日に生徒会室に向かった。
理由は鈴木と話したかったからだ。
彼女のクラスの教室にも行ったが、もう帰ったと同クラスの女子に冷たく言われた。童貞の思い違いかもしれないが。
そうして、生徒会室に着くと、ドアにはめ込まれたガラス越しに人が立っているのが見えた。
そのシルエットは黒髪ロングの姿勢の良い女子に見える。
もしかしなくとも鈴木である。生徒会の業務でも行っていたのかもしれない。テスト期間中でもそんなことをしているなんてご苦労なことである。
俺は勢いよくドアを開いた。
鈴木は勢いよく開けられたドアに驚いていたが、俺の顔を見ると無表情を繕った。
「あれ、なんで生徒会室にいるんだ?」
俺は話のとっかかりに適当な疑問をぶつける。
「貴方こそ。どうしたの?」
鈴木は極めて冷静に対応する。しかし、どこかぎこちない印象を覚える。
「いや、鈴木と少し話がしたくてな」
ボッチに話しかける担任の開口一番の常套句にも似ている。はたまた、急に誘った女性に対するジャブだろうか。
鈴木はその言葉を聞いた瞬間、驚きもせずに、こちらに身構えた。何かを隠しているのか、もしくはただ俺と話したくないのか。分からないがとりあえず後者なら早く言ってくれ。
「話ってなに?」
毅然とした態度の鈴木に俺は問う。
「鈴木さん。この世には摩訶不思議な事象が数多く存在しますがね。その中でも異能力者とはかくも不思議な存在ではありますよね?」
ああ。言いたいことは分かる。日和ったのだ。だから、こんな茶番をしている。
「え?月刊ヌーの話でもしたいの?他を当たってくれない?」
鈴木は付き合ってられないと逃げるようにドアに向かって歩き出す。
「ああ。違います。違います。冗談です………鈴木さ。この間の土曜日なにしてた?」
「この間って?先週の?」
鈴木は怪訝な表情でこちらに居直り、肩眉を少し上げて挑発的な顔で聞いてくる。
「そうだ。何してた?」
「なんでそんなこと貴方に言わなくちゃいけないの?」
「まぁいいから」
「そうね………ずっと家で本を読んでいたわ」
「なるほど。そうくるか。………あの日って達也と美智ちゃんがデートしていたよな?」
「そうだったわね」
「ふーむ」
俺は一人納得したように探偵のように頷いてみたものの、どうにも本筋に触れていない会話に悩んでいた。
やはり鈴木は話の粗をこちらに見せないし、彼女に自白を促すような卓越したコミュニケーション能力が俺にあるなら、今頃彼女の一人も出来ていただろう。
「よし!鈴木よ。憑依という能力を知っているか?」
俺は知略を巡らせて戦うタイプではなく、猪突猛進、アタッカータイプなのだ。いや、単に諦めたのだ。
「は?何それ?」
「人に乗り移って意のままに操る異能だな。鈴木よ。お前はあの日に美智ちゃんに乗り移っていただろう?」
「は?………なにそれ?」
「いや、もう実は裏が取れている。他の生徒会のメンバーはそもそもあいつらが付き合っていることを知らないし、別に用事があったそうだ。そうして穴をつぶしていくと、最後に残ったのはお前しかいないんだ。お前があの日、美智ちゃんに乗り移っていたんだろ!?」
「何を一人で盛り上がっているのか分からないけど。えっと何?意味が分からない」
「いや、えっと………その。あれ?違った?」
ここで意志の弱さを露呈した俺は大人しく引き下がった。
「えっと………すいません。本当に鈴木じゃないの?本当に?嘘じゃないよね?」
俺はメンヘラみたいな話し方で彼女に聞く。彼女は無表情から何故か俺の顔を見て、笑いだした。
なんだ?そんなに面白い顔してたか?あ?いつもだと?ぶっとばずぞ。
「はは……。佐々木は馬鹿だね。なんか本当にこっちが勝手に一人で悩んで馬鹿みたい」
「何が?悩み事か?ちょうどいい。こっちは手の内を晒して、もうカードがないんだ。話してみなさい。」
「………佐々木さ。美智ちゃんのこと好き?」
鈴木の突然の問いに俺は面食らったように素っ頓狂な声を上げる。
「は?」
「好きでしょ?美智ちゃんのこと」
「えっと、それはまぁ、はい。そうっすね」
「でも達也君の彼女よね?」
「なんだ喧嘩売ってんのか?買ってやろうか?」
「ううん。分かった。じゃあ」
彼女がそう言って去るときに、彼女の表情は酷く切なげで何故かここで帰してはいけないと彼女の腕を掴んだ。
「なに?」
「いや、鈴木さ。えっと、美術館好き?」
「まぁ。そこそこ」
「そうか。俺はこのあいだ、美智ちゃんらしき奴と一緒に美術館に初めて行ったんだ」
「らしきって………なに?」
「そいつさ。馬鹿みたいに絵画とか詳しくて、大人げなくはしゃいでたんだ。俺はそれを見て、思ったんだ。なんか俺と似てるなぁって。それから、そいつのことが何故か頭から離れなくて。だから、そいつにもう一度会いたいんだ」
「………それを私に言ってどうするの?美智ちゃんに言えば?」
彼女の腕に力が入って、顔が引きつっている。俺は自分でも何を口走っているのか分からない。しかし、何かを言わなければならないと考えるより、先に口が開く。
「最後にもう一度聞くぞ。お前は美智ちゃんに憑依していただろ?」
「佐々木はやっぱり馬鹿だ。本当に馬鹿だ。だから三年間も彼女が出来なかったのよ。馬鹿だから」
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